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25.作戦会議

「しかしよ、とんでもねえことしてくれたぜ」

「面目無い」


 オレ達の前にはヴァンザードとスマルが座り酒を囲んでいる。


 傷付いた身体をなんとか動かしハストランに戻って来たのは夕刻を回った頃だ。移動中に活性化した森の魔物類を駆除しながら、オレ達は傷を舐め合うように酒場に入った。


 オレ、酒場は初めてだ。ねこでも入店出来るんだな。店内はアルコールの臭いと騒々しさで満ちている。


 ガンクは18と言ったけど本当かな。この国では18才から酒が飲めるらしいけど。


 ちなみにオレはこんな不味いもの飲みたくもないよ。


「なぁヴァンザード、ドルマックの事を教えてくれ」


 項垂れてガンクが訊く。為す術無くたった一発でドルマックに叩きのめされちゃったからな。沈痛な表情だ。


「ドルマックは数年前にハストランにやって来て、町から蚕の園までの道を通行する商人共の護衛を商業化させた男だ。

 昔から俺もスマルもこのハストランで単発の護衛依頼を受けてたんだ。依然は荒くれも多くてな。繊維業を生業にする商人にとって、森の通行は命の危険としても融通の通らない護衛者の相手をするのも悩みの種だった。

 そこでドルマックが1つの組織として一本化したことで、確かに奴の言う通りハストランの平和に貢献している」


 ヴァンザードがビールを飲み干しておかわりを店主に要求する。スマルが垂らした前髪を弄りながら代わって話を続けた。


「渦裂きはドルマックの異名ですが、ボクもよく知りませんしヴァンザードも同じでしょう」

「ああ」

「ボクはドルマックの額を見たのは随分と久し振りですがこれで2度目です。かつてハストラン一番の猛者だったレルジーという男がいたのですが、最後までドルマックに非協力的で、彼に八つ裂きにされて殺されました。その光景を見ていたのですが、言葉通りの酷い死に方でした」


 スマルがウイスキーをちびちび舐めるようにして飲む。当時の記憶を思い出してるのだろうな。


ヴァンザードが身を縮め恐々しながら言う。


「ガンク、お前も理解しただろう。ドルマックは段違いの強さだ。俺達じゃまるで歯が立たねぇよ」


 ガンクは無言で歯を噛み締めて、ビールを一息に流し込んだ。そんなガンクをどこか優しげな目になりながらヴァンザードが続ける。


「お前はまだ若い。頑張って精進すりゃあよ、ドルマックを越えられるかもしれねぇが、今はまだ無理だ」

「分かってるよ」

「今まで奴と仲良くやってきたつもりだったが、俺達を虫けらか只の使い駒としてしか見てねぇって改めて気付かされたぜ。

 俺は仲間のスマルを殺す気もねえし、俺がドルマックに殺されたくもねぇ。ガンク、お前ももう奴に目を付けられてんだ。協力してくれ」

「ボクがしでかした失態ですからもちろん報酬も出させてもらいます。恥を承知でお願いします。協力して下さい」


 スマルとヴァンザードが揃って頭を下げる。渋々といった具合だけど、ガンクは引き受けるようだ。


「分かった、協力するよ」

「ありがとよ、助かるぜガンク、恩に着る。ブラックワームを倒すほどだ、期待してるぜ」

「ブラックワームを倒したのは実は俺じゃない。ランドだよ」


 驚いた顔でオレを見るヴァンザードとスマルの2人。やだなー、照れちゃうよ。


 ガンクがスマルに問う。


「何で森にあんな事したんだ?」

「これまでにも薬品を使って魔物類を活性化させたことがありました。危険の少ない森では護衛業は成り立ちませんから。

 ですが今回は加減をしくじりました。何故か今回ばかりは森の広い範囲で魔物類がナリを潜めてしまったもので。広範囲に広くかつ強力な活性作用の調合を施してしまいました」


 ガンクがオレを見る。ごめん、オレが楽しくていっぱい狩りしちゃったばかりに。そう言えば、元々の原因はオレだった。


 スマルが人指し指に前髪の先端を巻き離すとその部分はくるんとカールした。


「森を沈静化する薬剤を散布することは可能ですが、これは最後の手段です。死滅させるに等しい強力な薬品なので、蚕の園に被害が出る恐れがありますから。もし、大切な蚕が死に絶え護衛業が傾けば、それこそドルマックが激怒して全員が皆殺しに合います」

「それはやべぇな」


 ヴァンザードが青ざめながら言う。


「ドルマックは極秘裏でやれと言った。森の通行の警護役の俺達が魔物を駆除してるのが知られれば商売にも変な噂が立つかもしれねぇからな」

「じゃあどうすんだよ。

 とりあえず、俺もランドも協力はするよ。だけど森は広いわ敵は多いわ、しかも誰にも見つからねー様にってのは厳しいだろうよ。それにいつまでに作業を完了させりゃいいんだ? 」

「ドルマックがハストランに帰るのは明後日だ。だからそれまでには、だな」

「無理だろ」

「無理だろうとやるしか生き残る道はありません」


 沈黙する3人。


 オレは与えられた魚の切り身を平らげ、イカの薫製を前足で付かんでしゃぶっていたけど、飽きちゃったから店内を歩く事にする。


「どうすっかな……。何か良い案はねえものか」


 考え込む3人を他所にオレは賑わう店内を闊歩する。


 うわ、なんだ?


 背後から酔った女が近寄って来たかと思えばオレは女に拾い上げられた。


 くせぇ、この女。香水か何かの強い臭いが気持ち悪い。だらしなく開いた胸元に顔を押し付けられる。


 うわっ、ちょっと! 抱き締めないでくれ。苦しい、助けてガンク!


「あれ、ヴァンザードさんにスマルさん、それにあの時の少年。いいですね、祝勝会か何かですか」


 確か商人のギャマイットだったかな。オレは羽交い締めにされた女の腕の中から彼らを眺める。


「ギャマイット、今は作戦会議中だ。あっちへ行け」

「そんな事言わずに。私も仲間に入れて下さいよ。

 あれ、ここ誰か座ってたんですか。汚いですね、皿の周りにまで食べ散らかして汚らしい。綺麗に拭いて差し上げますよ」


 そう言ってオレの食べ残しを片付けながら、図々しくもオレの席に腰を下ろしたギャマイット。「仕事も食事も整理整頓がなってないと」なんて言っている。煩いな。ねこのオレに整理整頓なんて関係無いだろ。


「そうだギャマイット、ちと変装の用意を頼めるか? 期限は明日まで。急で悪いんだが」


 ヴァンザードが思い付いたようにギャマイットを見た。


「何でもござれ。このギャマイットに不可能はございません」

「俺とスマルと、このガンクのと。あと、ねこの変装用意なんてのは流石に、ハハ……、ねぇよな」


 言いながら笑い始めるヴァンザード。彼の笑い声を久々に聞いた気がする。


「ねこに変装……ですか? 

 何故そんな物が必要なのか、私には分かりませんが。繊維製品を広く手掛けるこのギャマイットにお任せあれ」

「出来るのか? 」

「商売人にとって信用は命より大事なもの。私が出来ると発したならば、安心して頂きたいですな」


 パァ、と顔が明るくなるヴァンザードとスマル。ガンクは訝しげだけど。


「してそのねこと言うのは、あ、あそこで気持ち良く抱かれている黒ねこちゃんですね。なるほど」


 ギャマイットは頭の中で商品検索でもしてるように思考を回らせ手を叩いた。


「良いですね、女性に無条件に愛される存在とは実に羨ましいものです。

 よし、可愛いものをご用意致しましょう」


 可愛い物って、何か勘違いしてるような気がしてならないけと。それに、喜んで抱かれている訳じゃないよ。被害をオレは受けてるんだけどな。


 ギャマイットは足早に立ち去り、しばらくして戻った時には人数分の被り物と簡単な黒いロングコートを袋に詰めて持参していた。中を3人に見せている。


 そしてオレはお嬢様ねこチックなフリルの付いた花柄のペットドレスをあてがわれた。


「どうですか。サイズ的にもすぐに用意出来るものはこれしかありませんでしたが」


 どうもなにも、これメス用だよね? オレはオスだぞ?


「お似合いです、完璧です。可愛さ倍増じゃないですか。ねぇ?」


 おいそこ、ヴァンザードもスマルもガンクまでも、笑い転げてないで何とか言ってくれよ。



個人的には動物に服というのは反対派です。


サングラスかけさせたりとか小物プラスは好きですが。

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