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24.渦裂きのドルマック

 蚕の園へ辿り着く為の正規のルートを進んでいく。途中で凶暴化した鼠を楽しく駆除し、ほぼワニみたいな蜥蜴を殺し、軍隊蟻のように移動するゴキブリの大群をかわして進む。


 頭上の木の枝の上のそこかしこで猿同士が激しい戦闘を繰り広げている。負傷して落下した猿を鷲が鋏の様な爪で止めをさして血肉を喰らう。その周囲を3匹の野犬が囲んで飛びかかる隙を窺っているようだ。


 本当に見違える程に森の状況が変化してるぞ。


『大きく右に進むと蚕の園』の立て看板が見える位置まで来た。オレ建ちは古い大木の裏に隠れた 。立て看板の手前から3人の男達の言い争いというか、一方的な罵り声がしている。


「馬鹿野郎! スマル、てめえやり過ぎてんじゃねえか。俺は『商売に差し支えない程度でやれ』っつっただろうが。何だ森のこの危険度は、この障害の量は」

「すみません。少し匙加減を失敗したみたいで」

「すみませんじゃ済まねーよ。これじゃ蚕の園までの護衛依頼が多くなるどころか討伐依頼が出される危険度だ」

「沈静化すりゃいいんでしょ。沈静化すれば」


 口答えしたスマルが殴られて吹き飛ぶ。木の幹に叩き付けられてえずいてるぞ。痛そうだ。


「ったく、糞が。ろくでもねぇ部下を持つと運がねえぜ。指示通りやったっつーから確認に来てみりゃこれだ、情けねぇ」


 布頭の男が地面に唾を吐く。


「ヴァンザード! 俺はガンマリヤに戻る。てめえは分かってんだろうな?」


 確かあいつはドルマックって奴だ、布を頭に巻いてるからな。怒り心頭って顔で部下2人を睨み付け、ヴァンザードは所在無さげにオロオロしてる。憐れだな、筋肉の塊が縮こまってるよ。


 少女みたいにか細い声でヴァンザードが答えようとするけど。


「俺は、俺は……」

「てめえはスマルの尻拭いだろうが。

 いいな。俺がハストランに戻ってくるまでに処理を終わらせておけ。スマルにはもう期待してねぇ。何だったら殺してもいい、お前に任せる」


 胃の中の物を吐き出して立ち上がりかけたスマルは、ドルマックの言葉にビクッと震えるとまたズルズルと木の根本に座り込んだ。


「この蚕の園の護衛業は俺の大事な金蔓の一つだ。失う訳にはいかねぇ。どんな手を使っても構わん、元に戻せ。極秘裏で処理しろ。

 失敗したら、ヴァンザード、お前にも責任を取ってもらうからな」


 ヴァンザードは、「はっ、はいぃぃぃ!」と甲高い声を上げてコクコク頷いているが、ドルマックの癇に障ったんだろうな、股関を蹴られて悶絶し始めた。


「いったそー。えれー事になってんな」


 ガンクがオレの横に来てしゃがみこむ。オレ達は木の裏に隠れその様子を窺ったままだ。


「あのチビの布頭、ヴァンザードをあれだけ震え上がらせてるってこたー相当ヤベぇ奴ってことかよ」


 ガンクが気配を悟らせぬように小声で話す。


「蚕の園の護衛で私腹を肥やしてたのに部下のスマルが失敗して自分は責任放棄って腹か。間違い犯したら死ねって、とんだリーダーだぜ」


 ガンクは同じリーダーとしてドルマックを非難するように呟く。


「決してヴァンザードもスマルも好きじゃねーが、あんな扱いされてんの見ると少しばかり同情するよなぁ」


 そうだね。オレも這いつくばり震えている2人を見ると可哀想に思えるよ。


 ドルマックが頭に巻いた布を掴み取り額を晒した。否が応でも感じる強烈な圧迫感。ドルマックの頭には毛髪の代わりに、オレでは読めない文字が螺旋状に描かれている。


「俺は渦裂きのドルマックだ。俺に逆らい、歯向かう奴はタダじゃおかねぇ。

 そこの2人も、さっきからそれで隠れてるつもりか?」


 不意に感じた不気味な気配がオレとガンクの真上を通過した。マズイ、とそう思った瞬間の出来事だ。


 ドルマックを中心に円状に木々が豪快に切り裂かれ枝葉が舞い飛び落ちる。


 ガンクも反応出来ていなかったけど、しゃがんでいて正解だった。立って観察していたら今ので確実に死んでいた筈だ。


「ガキと、ギルドにいたねこか。2人ともチビころで良かったな。背の低い奴は嫌いじゃねえぜ」


 ドルマックがオレ達を見据える。ガンクが剣を構えて立ち上がった。


「俺はガキじゃねぇ、同じ冒険者の……、ガンクだ」


 ガンクの声が震えている。手に持つ剣の切っ先も痙攣するように動いている。


「お、お前の目的は何だ」

「聞いていたんじゃないのか? 俺はこの蚕の園とハストランの平和を預かっているドルマックってモンだ」

「嘘付け、何が平和だ。俺は、お前を許さない。倒す」

「そうかそうか。許すも倒すもなんでもいいが。まぁよ。そんなに去勢張って身構えるな。早死にしたくねぇだろ」


 ドルマックがこちらへゆっくりと歩き近寄る。臨戦態勢のままガンクが後退する。オレは一瞬で死んでしまう恐怖に駈られ、自分の身の事もガンクも心配で不安で堪らない。この場を完全に支配され、鈍い移動速度なのに身動き一つ困難だ。


 オレはドルマックの頭部が気になる。頭の下の彼の目には恐すぎて視線を合わせられない。恐怖心に吐き気を催しながら、彼の頭部に刻まれた文字とその禍々しい気配から目を離すことが出来ない。


 ガンクの間合いに入りドルマックが言う。


「ここで会ったのも縁だ。ガンクくん。お前もこの馬鹿2人に協力しろや。助けになってやってくれよ」

「な、何言いやがる。何で俺が……」

「お前も冒険者だろう。これも人助けだと思ってくれ。このままじゃこいつら2人とも死んじまうんだ。な? 」


 ガンクは答えない。闘うことも逃げる事も出来ずドルマックに指で剣を摘ままれた。


「なかなか使い込まれた良い剣だが、ちゃんと手入れしとけよ。武器は使用者をちゃんと選ぶからな。いざと言うとき役に立ってくれねえぞ」

「くそ、離せ」

「どのみち今死ぬか、もうちびっと後で死ぬかだ。折角なら有意義な命の使い道を考えろ」


 剣を押し退けて拳を放つドルマック。ガンクは一切の挙動も許されず顔を強打されて背後の崩れ落ちた木々の中に突っ込んでいった。


「可愛いねこちゃんも、相当やるんだろ。元はと言えばお前が原因だ」


 オレは震える身体をさらに強張らせ威嚇する。


「こんな可愛い黒ねこちゃんなのになぁ。殺せるかなぁ」


 魔力を込めてドルマックに飛びかかるも払い除けるようにして脇へ弾かれた。オレはしこたま背中を打ち付けながらも辛うじて立ち上がり身構える。


「よしよし。そんだけ威勢がありゃ十分だ。のびてるガキとどうしようもねぇウチのモンと一緒に森を平和にしてくれ」


 それだけ言い残してドルマックは去っていった。オレは尻餅をつくように力無くその場に座った。


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