22.やったのはナノ?
「……確かに、薬草採集の任務自体は成功となります。一部いえ、多数除外品も含まれておりますが。これ程の量を採ってこられる冒険者の方は初めてですよ」
「だってランドちゃんはねこだもの。そこらの冒険者と同じ様に見てもらったらダメ」
オレとナノは冒険者ギルドハストラン支部に来ている。3日間のオレの成果を報告するため訪れたのだ。
訝しむようにオレ達を見るお姉さん。何か不穏な雰囲気だな。
オレとナノの相手をしてくれているのはこの前と同じ緑髪のお姉さんだ。彼女はオレのアイテム袋の中を検分して引きつった微笑を顔に貼り付けている。
何か問題があるのかな。
オレは関係無いふりをすることにした。気分屋のねこのフリだ。受付カウンターの台に飛び乗り尾を立たせてトコトコ歩いたり観葉植物の上木鉢の肥料の匂いを嗅ぎチラチラと彼女達へ視線を送って観察する。
「そうですね。ランド様はねこちゃんでしたね」
「ねこなのよ」
緑髪のお姉さんがこちらを見た。そして微笑みを湛えている。なんだかなー、目が合うと気まずくてやり場がないよ。慌てて視線を逸らしてオレは鉢の背後へ回り込んだ。
「それに、多くの魔物類また危険な野性動物等も見受けられます。魔物と遭遇されたのですね」
「魔物が出たの」
「ナノ様がお相手を務められたということですか?」
「そうよ」
ナノは突っ慳貪な物言いをしている。そうするように努めているんだな。
しかしお姉さんが笑顔を作ると、ナノも愛想笑いの様な変な顔を作る。オレはたまに首根っこを後ろ足で掻きながら、上木鉢の後ろから彼女達を観察している。
「左様ですか。
失礼ですが、ナノ様のお役職は魔法使いですね。これらほぼ全てが切り傷及び殴打にて損傷しております」
「……杖でやったのよ」
返答に窮するナノ。ナノが杖を振り回してる姿を想像すると笑えるんだけど。
「こちらの蜘蛛の足など、噛み千切った跡と見られる歯形が見受けられますが……」
言いながらお姉さんはアイテム袋の中に腕を突っ込み入れる。毛むくじゃらの蜘蛛の足を手掴みで取り出したぞ。蜘蛛の足と言っても、太さは同じくらいでもその長さは成人男性の足より長い。
「ちょ、ちょっと! 気色悪いモノ出さないでよ。あーやだ、鳥肌立っちゃった」
「さらにこちらの鳥ですね。シザーズイーグルという魔鳥の1種です。近寄らなければ人間を襲うことは滅多に無い魔物ですが。羽根が欠損し、腹部が抉られて損失しております。どうされたんでしょう。
これもナノ様が?」
お姉さんはどこか楽しそうだ。
「ア、アタシが食べちゃったのよ。ちょっと小腹が空いちゃったな~って。悪い?」
「いえ……」
お姉さんが俯いちゃった。
状況証拠が揃っているから、ナノの言い逃れに無理が出始めているな。無理も何もお姉さんの疑惑は最初から正しいものだけど。
「分かりました。
大変失礼致しました。多く不審点が見受けられたものですので精査させて頂いたのですが。どうか御無礼御容赦頂きたく存じます」
「分かってもらえたならいいよ」
「当ギルドと致しましては、これらの魔物類及び野性動物,昆虫類をナノ様の討伐として処理させて頂きます。
ランド様には薬草採集依頼の達成報酬に、魔物類討伐による加点をさせて頂きます。よろしいでしょうか」
オレとナノはほっと胸を撫で下ろす。
お姉さんがメモ用紙を見ながら水晶玉の表面を指で叩く。あれも魔道具だそうだ。現在、あの玉の内部にオレとナノ2人の冒険者証が挿入されている。記録や情報の更新等の時に使う、ギルドには必ず設置されている水晶玉だ。
お姉さんが水晶玉を最後に大きく弾いた。
「総額、764デルになります。こちらでご納得頂けますでしょうか」
「そ、そんなにもらえるの? 」
「ええ。1デルにも満たない素材も有りますが、数十種の希少価値の高い薬草も数多く、損傷の激しい魔物類等破片や欠片にも治療薬としての価値を見出すことが可能ですので。何より素材数が多いことが主たる要因となります」
ナノの顔がパアッ、と光輝いて眩しい。
「やった! 今夜はみんなでパーティーね。豪勢に宴会できるよ」
オレの左右の前足を掴みクルクル回転して喜ぶナノとオレ。嬉しいなぁ、ガンクもイルマも喜んでくれるかな。
「1つご注意願いたいのですが」と、緑髪のお姉さんは人指し指を1本立てた。
「薬草の採集にご協力感謝致しますが、乱獲はお控え下さい。今後の採集量を減らす結果を招く恐れが御座います。
同様に昆虫,動物類の乱獲もお控え下さいますようお願い致します」
「分かった? ランドちゃん」
オレはしぶしぶ尾を振って応えた。狩りは楽しいのに残念だな。
そんなオレ達を見やり、ギルド職員のお姉さんは口元に微笑をつくる。
「ランド様には早急に昇級出来る様に便宜を図らせて頂きますね」
「ありがとう。助かるね」
イルマの言った通りだね、とナノが笑う。
「E級冒険者の討伐禁止の項は、冒険者の生命の安全を守る為に設定されておりますから、ランド様の場合には……」
騒々しい足音に入口を向くと、扉が開き4人の男達がギルドに入ってきた。
「ったくよぉ、こんなんじゃ商売アガったりだぜ。ここ2日3日で森がやけに静かになってんだよ」
「なぁ、奇妙なもんだよな。一斉に魔物共が消えやがって、不思議なもんだ。時期外れの冬眠かっつーの。
こっちから蚕持って行商でも行ってみるか」
「ガハハ、悪くねーなぁ」
「それは困ります。持ち出されては」
「堅ぇこと言うなよ。困った時はお互い様じゃねーか。細けぇ野郎だな」
その中には3日前に見たヴァンザードとスマルもいる。あと2人は見知らぬ顔だが一人は冒険者風で頭に布を巻いた小柄だが筋肉質の男。もう一人はひょろっとして、少し押しただけでも倒れてしまいそうな感じの眼鏡を掛けた優男だ。
「ん? なんだ、ガンクんとこのねーちゃんとねこがいるぜ」
ヴァンザードがナノに近付いていく。
「よぉねーちゃん。なんだ、こんな所で何やってる。ん? 一人か? 今日は鬱陶しい男共はどうしたんだ? 」
酒場のカウンターでするように馴れ馴れしい態度でナノの横に近寄り質問を浴びせるヴァンザード。オレは彼を睨み凄むも鼻で笑われたようだ。ムカつく。
「ねーちゃん、一人ならよ、今夜の相手してくれや。どうだ、金も弾むぜ」
「バッカじゃないの」
「なんだと」
「キモイから近寄らないで」
そっぽを向くナノ。その様子を見ながら小柄で頭に布を巻いた男がナノに近付いていく。
「おぅおぅ、威勢の良い女は好きだぜ。そんな色気のねぇ服よかドレスの方がよっぽど似合うな。なんなら買ってやろうか」
「アタシ背のチビぃ男タイプじゃなくてさ。あっちいってくんない」
「ガキが。調子乗ってんじゃねえぞ」
小柄の布頭が眉間に皺を寄せる。ドスの効いた低い声だ。
コイツかなり強そうだ。
緑髪のギルド職員のお姉さんが割って入る。
「ドルマック様。争いは控えて頂きます。今日はどの様なご用向きでしょうか」
「定期の金を引き取りに来た。早く用意しろよ。
それに、この女はなんだ、見かけねえ顔だが」
「冒険者のナノ様です。ハストランの平和に貢献して頂いております」
布頭がナノを吟味するようにじっとりと視線を嘗め付けギ、ルド職員のお姉さんに訊ねた。
「この頃、南西の森が沈静化してるんだが、この女が関与してるか?」
「お答え致しかねます」
布頭は、「そうか」と呟くと後ろの男達に声をかけ目的の金を受け取ると足早に帰っていった。
何だったんだろう。
その夜、ガンクとイルマに合流したオレ達。仕事の出来る男イルマは布頭達の情報もしっかり入手していた。
「頭に布を巻いていた男の名はドルマックか」
「そうそう、そんな名前だった。頭に汚ない布巻いちゃってダサいのなんの。そんなチビがアタシを誘ってきてさぁ。簡単に靡くとでも思ってんのかしら」
ナノを無視してイルマは続ける。
「ドルマックはB級冒険者だ。因みに、ヴァンザード,スマルは共にC。
痩せ型の眼鏡の男はおそらく南西の森の奥にある蚕の園の管理者だろう」
「なんだ? 蚕の園ってのは」
ガンクが訊ねる。
「ハストランは絹の特産地でな。その絹を生み出す蚕が生息し養殖されているのが蚕の園だ。南西の森奥に広がる蚕の園で産出される絹は非常に品質に優れているという。
ただ、園の周囲を囲んで広がる森が生業とする者達に通行が難を要する為、専属の護衛を雇っているのだが、それがドルマック率いるグループだ」
「あ、それが定期の金ってやつかー。いいなー」
ナノが油で揚げた豆を気に入り、ポリポリとさっきからずっと食べ続けている。オレも数個もらって口に入れたけど、すぐに油っこくて気持ち悪くなっちゃった。 オレはナノの胃が心配だ。
翌日からの3日間はナノと入れ替わってガンクがオレに付き添い森に入った。ナノと違ってガンクは虫を怖がらないからオレは一緒に行動出来ることが嬉しかった。3日間一人で薬草採集して寂しかった訳じゃないよ。
ガンクとイルマが先行して調査しているガンマリヤの町での話は結局聞けなかったな。何の調査してたんだろう。
昨日ギルド職員の緑髪のお姉さんに乱獲は控えるように言われたから、今日からはガンクとじゃれ合いながら遊ぶのと半々で薬草採集をしようかな。
昼近くになりハストランへ休憩に戻ろうとした頃だった。周囲の森の異様な臭いに気付いたのは。




