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21.森で薬草(昆虫)採集

「これなんだけどさ。どうだ? なかなか手頃でお前に良いと思うんだよ」


 ガンクが手に持っているチラシを拡げて見せた。オレはその依頼書に視線を置く。


 依頼名 :〔薬草採集〕

 対象級 :E,D

 場所  :ハストラン南西部の森林一帯及び最奥、蚕の園付近

 内容  :薬草の調達の要望あり。種類問わず。金額は量,素材品質,希少価値,また時価による。

 注意点 :魔物遭遇の恐れあり。D級以上の冒険者と同行すること              』


 薬草を取って来ればいいのか。簡単な内容だな。気を付けるのは書いてある通り、魔物と遭遇した場合かな。


「フム。確かに、ガンクとナノにしては褒めてやりたいほどのものだな。よく探してきたな」

「えへへー」

「ナノ、俺ら褒められてるのと同時に貶されてもいるんだけど」

「えー、そうなの」


 でも薬草採集か。もっと効率的に出来そうな仕事もあるんじゃないの。魔物討伐とか、護衛とか。


 オレの思惑を感じ取ったみたいで、イルマが説明を始める。


「先ずもって、お前の級はEだ。これは庶民と変わらぬ。冒険者登録しさえすれば誰でも手に入る級。

 E級の冒険者はこの地域、このハストラン支部の管理区からは移動は不可能だ」


 あれ、確か冒険者カードは他国間を移動するのに使える身分証になるって聞いたぞ。


「他国間をこの冒険者登録証を提示して渡ることはD級から可能。E級では冒険者としてまだ認識されないということだ」


 えー、そうなの。じゃあオレはずっとハストランにいなきゃダメなのか。


 イルマの目はあい変わらず細く射抜くように鋭い。オレを選別するように見ないでくれよ。


「では、どうやってEからDに級を上げるかは考えなくても解るだろう。D級に上がらねば俺達と共には来れぬぞ」

「ちょっとイルマ。またそうやってすぐランドちゃんに意地悪するんだから」

「ねこと馴れ合うつもりは無かったんだがな。これがなかなかどうして。見所はあるようなのでな」


 ナノが首を傾げる。


「どういうこと? イルマの話はイマイチ理解に苦しむんだけど。ねぇ、ガンク」

「ああ」


 ナノとガンクの2人は、他人と距離を置こうとするような癖の話し方をする仲間に困っているようだ。


「言っただろう、見所があると。こいつは見た目に反して玄人の気を感じた。先のブラックワームの一戦でな。

 ブラックワームは俺達でも手に余る、冒険者B級対象の魔物と聞いた。依頼内容によるが、こいつならそれほど労せず昇級は可能だとふんでいる」


 へぇ、とイルマを見直すように見る他2人。オレは少し照れ臭くて鼻をヒクヒクさせた。頑張って依頼を沢山こなして、早くD級に上がるぞ。


「因みにではあるが、E級では魔物の討伐は厳禁だ。手出しすら禁止されている。

 しかし、この〔薬草採集〕の依頼に関しては、対象級はEとD級だ。魔物遭遇の恐れあり、とのことだが、お前は率先して魔物を狩ってこい」


 え、でもE級のオレは魔物を相手にしちゃダメなんじゃ。


「何言ってんだよ、それじゃランドがギルドから罰を受けるんじゃねーのか」


 ガンクがイルマに食って掛かるが、彼はそれを嘲笑う。悪い笑みをしているぞ。


「そうだ。本来はな。しかし、対象級はD級以上とあり俺達も含まれることになる。

 魔物との遭遇となれば、たとえE級の内容だとしても難易度も上がれば報酬金額もギルド貢献度も上がるだろう。

 EからDに上がるには通常ならば十数回の雑事の如きロクでもない依頼をこなす必要があるが、上手く行けばたった数回でD級に昇級出来るかもしれんぞ。

 同行する俺達も魔物を狩り報酬も受け取れ、一石二鳥だ。どうだ、言うことなしではないか」


 勝ち誇ったような顔してるよ。そんなに上手く行くかなぁ。


 張り切り声でナノが言う。


「よし、じゃあみんなで早速出掛けよう」

「ダメだ。同行は一人でいい」

「えー、なんでー」


 ナノが剥れ顔だ。足をパタパタして駄々こねる子供みたいだ。


 3日置きにナノ、ガンク、イルマの順で入れ替わりオレに同行してくれることになった。オレに付く以外の他2人はハストランの南部のガンマリヤという街へ先行し、そこで何やら調査するらしい。



 というわけで、オレは今ハストラン南西の森の中で薬草採集に励んでいる。


 ここはヤバイ、虫の宝庫だ。宝の山だ。


 見たこと無いバッタがいるぞ。殿様バッタよりでかいヤツだ。胴体が人間の腕くらいのもいるよ。あー面白い。おっきい前足噛んで引っこ抜いて、あ、逃げるな飛んでくな。


 ああっ、こっちはダンゴムシ。拳大のビッグダンゴムシだよ。野球のボールみたいだ。叩いて遊んで、面白いなー。奥まで追っていったオレは目を疑った。普通のサイズからサッカーボール大までのダンゴムシの群集が雪崩の様に転がってきた。


 なんて楽しい森なんだ、ここは。


 薬草は取ってるよ。ちゃんとお仕事してるよ、当たり前じゃん。イルマが買い与えてくれたオレ専用の少し小振りなアイテム袋。前足でガマ口を開くと勝手に収納したい物を吸い込んでくれる便利機能付きだ。


 これがあればオレ1匹でも薬草採集出来るから楽チンなのだ。匂いを嗅いでそれっぽいものがあればアイテム袋に吸い込んで完了ってなものだ。本当に楽で簡単で便利なのだ。


 あっ、ハエの大群? かな。大から小まで様々だけど、空中に止まってるな。うん? 近寄って良く見れば色んな昆虫がわんさかいるぞ。もっと近くに進むと、うわっ、ここは大きな蜘蛛の巣だ。みんな糸に絡め捕られてる。危ない危ない。オレもやられるところだったよ。凄いな。木の下の幹の付近で野犬も糸に絡まれてるぞ。


 キシキシキシキシキシキシキシキシ


 でっかい蜘蛛は鳴くのかな。荷引き馬車くらいかそれより少し小さいくらいか。2~3本の木の茂った枝葉の隙間からわしゃわしゃと降りてきた。毛が足にいっぱい生えて気持ち悪いったらありゃしない。


 楽しそうだからオレは蜘蛛の糸に捕まった振りをした。助けて。動けないよ、ってジタバタもがいてみせる。迫真の演技だろ。


 大丈夫。オレには【物質操作】も【物質変換】もあるからね。無かったら、本当に蜘蛛の糸に捕まっちゃえば身動き取れないからね。マジで美味しく食べられてあの世行きだよ。


 蜘蛛が油断した背後から飛び掛かって、【身体強化】したねこパンチ!


 うわ、この蜘蛛、頭を吹き飛ばしたのに体が動いてるし襲ってくるよ。なんかネチョネチョする体液もかかっちゃった、気色悪。


 よし。なんとかやっつけた。こんなのがいる森にいくら薬草が生えてるからって、人間は採りに来れるのかな。E級は庶民ってイルマが言ってたけど、リルやユーノだったらすぐエサにされちゃうぞ。ゴートだったら立ち向かっていきそうだけど。


 今日の成果だよ、って蜘蛛もハエもバッタもダンゴムシも野犬も、薬草と一緒に全部ナノに見せたら本気で怒られちゃった。涙目にならないでよ。


 でも、虫がいっぱいでこんなに楽しい森なのに、ナノは入りたがらないなんて勿体無いなぁ。

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