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20.過去を思い出して

 冒険者カードは一律のサイズだという。人間が登録しても、ねこや馬に発行されたとしてもその大きさにかわり無いとのことだ。


 もし、こじんまりしたねこ用ミニサイズだったのなら、首から提げてもいいかも、と思っていたんだけどな。オレの頭よりもでデカくて残念。


 でも身分に〔ねこ〕、役職にも〔ねこ〕って。なんだかなぁ。これ登録したのお姉さんだよね、意地悪してるの?


 さらに下の項目を見ていく。気になったのは、特性の欄の【ねこ魔法(創造支配)】と【転生者】だ。


 【身体強化】や【硬質化】はマズマ師匠と同じだから、今では耳馴れたフレーズだ。しかし、【ねこ魔法】ってなんだ?。そんなもの知らないし使えないよ。でもオレの特性にあるから持ってるってことでいいのかな。


 【物質操作】や【物質変換】はオレの予想通りのものだ。水を操作して楽に遊泳できるから、これはよくやる。でもオレ以外の物質に魔力を流すのは苦手だし難しいから魔力の消費が激しくて、出来れば実戦では使わずにいたいけど。


 物質の構造を上手くイメージ出来れば、もっと操作は簡単なんだけどなぁ。


 この前ブラックワームからナノを救出するときに使った爪を伸ばすのが【物質変換】だ。オレは魔力を変換させて、強力な長い爪を造ったのだ。同時に【身体強化】もかけていたけど。


 ガンクみたいに剣を使えたり、マズマ師匠みたいにもっと強力な腕力があったなら、一気に疲弊しちゃわなかったと思う。オレはまだまだ未熟だからな。鍛練が足りないや。


 内容の掴めない【ねこ魔法】、それに【転生者】か。


 うーん。転生者って冒険者カードに載ってても前世の記憶が思い出せない。これも記憶喪失みたいなものなのかな?


 目を閉じて、オレは記憶の糸を手繰っていく。オレの一番古い記憶は……。


 ……、オレは薄暗がりの中にいる。辺りに誰もいない。濃密な死の気配。立ち込める血の臭い。


 寒い、寂しい。ここはどこ。誰か助けて。ここから出してよ。なんで俺がこんな目に合わないと行けないんだ……。


「ど、どうした、ちび……ランド!」

「ランドちゃん?」


 俺が何した。俺は悪くない……。


「ランドっ、白目だぞ?」

「ランドちゃん? しっかりして」

「チ、どうした。何か、この冒険者証に原因があるというのか」


 ああ、良かった。助けてくれるんだね。ありがとう。お日様の匂いがする。天女様みたいだよ。でもこの天女様、俺を軽々持ち上げるなんて凄い怪力だな。


 あぁ、温かい……。


「ちょっ、あんた何した?」

「心配には及びません。睡眠を誘発する魔道具にてランド様には眠って抱きました。

 おそらく、ご自身に関わる重大な記述を目にして混乱されたのでしょう」

「あぁ? 何だそれは」

「私から申し伝えることはできません」

「ガンク、個人の機密事項は本人からしか知り得ぬ。ギルド職員に訊ねても無駄だ」

「しかしよ、ランドは俺達に伝える術がねぇ。

 ギルドカードには過去の情報の記載も確か載るんだよな。あの様子だとだいぶ厄介なものを見たって雰囲気だった。過去を詮索するのは性分じゃねぇけど、俺達が助けになってやれればいいんだけどな」

「大丈夫よ、ガンク。ランドちゃんはアタシ達の仲間だもん。アタシにとっては命を助けてくれた救世主だし。ランドちゃんが拒絶しても逃がさないから。絶対に支えるんだから」

「フ、そうだな」

「仲のよろしいパーティですね」



 オレはうっすら目を開けた。あれ、オレは何していたんだっけ。


 寝惚け眼でぼんやり周囲を見渡す。思う様に頭が働かない。まるで強力な眠りの中にいたみたい。


 ようやく知覚出来始めてきた。ギルド内の一組のテーブル席の椅子の上に居たようだ。身を起こし首元を掻いていると、隣席にイルマが座っていた。


「良く眠っていたな。目覚めはどうだ」


 うー、まだ頭が重いよ。


 オレはぼんやりどこを見るわけでもなく眺める。イルマは黙っていた。しばらくしてぼそりと呟く。


「俺は幼少時の早い段階で親を亡くした。物心付く頃にはとあるグループの一員となり、彼等と過ごした。そうせざるを得なかった」


 イルマはぼそり、ぼそりと続ける。


「俺は少年期に重い罪を犯した。それも複数回だ……」


 オレは黙って聞く。それ以外に選択肢は思い浮かばない。


「俺は何度も人を殺した。……フ、皮肉なものだろう。本来であれば俺こそが討伐対象。俺は重い枷を背負い生きている」


 そうなんだ。大変だな。


「こんな事で罪滅ぼしになるとも思えぬが、俺は冒険者として世のために俺の持てる力を使う。そのためにここにいる。ガンクやナノ、お前達だ」


 そぅ、なんだ。どんな言葉をかけたら良いの、オレは。


「誰もが拭いきれぬ過去を持っている、そういう事実を知ることだ」


 そうだ、オレは過去を思い出そうとして。上手く思い出せなかったけれど。


「今、ガンクとナノがお前の為に依頼を選んでいる。E級で新米のねこのお前がこなせる依頼をな。

俺はこれまで生きてきた経験から、猟犬でもないねこのお前が役に立つとはまるで思えない。そう考えていた。共に行動するのはナンセンスだと感じていたよ」


 なにぃ、酷いこと言うなよ。


「フフ。今でもそれを完全に否定するのは難題と思えるがな。それでも仲間として、一つよろしくやろう」


 なんか随分と失礼なことをいけしゃあしゃあと思うまま言ってるけど、イルマらしいからいいや。


 こちらこそよろしくね、イルマ。


 ガンクとナノが戻ってきた。手にはチラシみたいな紙を持っている。


「お、ランド。起きたか。お前の初仕事見つけてきたぞ」

「ランドちゃんおはよう! アタシと一緒に草むしりに行こう」


 草むしりって、何の依頼だよそれ。


 オレは、現在の仲間の元へ尾を降りながら駆け寄って行った。


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