19.オレの名前は……
オレ達はお互いの顔を見る。
「ちびちゃん。あなたの名前はなぁに?」
「ナノ、こいつ喋れねーよ。名前有っても答えられねぇって」
おまけに字も書けないから、ってゆうより今まで見た目で呼ばれてたから名前なんて考えたこと無いよ。
コカコ村にいた時もずっとチビとか、チビちゃん、って呼ばれていたし。
「お姉さん、ちびじゃ駄目なのか」
「出来る限り避けて頂いた方がいいと私は思いますが。登録名の変更は出来ませんので、後々成長された時も同じ名前のままですが、それでもよろしければ」
「どうだ、ちびでいいか、お前」
ガンクの確認に首輪が飛んで行きそうなくらい激しく首を振って否定する。嫌だよ、チビのままなんて。
「まだ正式な名前が無いのであれば、お名前を付けられてはいかがですか。名付けをされる事で魔物の使役に数多有利に働くと聞き及んでおります」
「いや、使役じゃねぇ、仲間なんだよ。
なぁ、ちび。お前本当に名前ってまだ無いのか」
無いよ。オレ、ずっとチビって呼ばれてたし。
「この際だし名付けてやってもいいが、いきなりってのはな。なかなか思い浮かばねーな」
オレの仲間達3人が考え込む。オレは新しいカッコイイ名前を期待して待つことにした。
「ハイ、アタシ、『ちーちゃん』がいい」
「ダメ。あだ名みたいだからダメ」
「『黒天牙』はどうだ」
「格好良すぎてイメージに合わねーからダメ」
オレはなかなか良いと思ったぞ。響きが格好いいのに、『黒天牙』って。
「よし、素晴らしい名前が浮かんだぞ。『ブラックダイヤモンドキャット』はどうだ。いい響きじゃねーか?」
「ダサイ。ムリ」
ナノに一蹴されて凹むガンク。
その他にも『ラブリッチ』や『黒爪星』、『スピリットカイザー』に『覇桜丸』、『キャットマン』なんてのも出てきた。
イルマのネーミングセンスいいけどなー。渋くて格好良いし。でも尽くナノとガンクの反対に合ってボツになるんだよな。
「なかなか決まらねーな。しばらく日を置いて考えるか」
「えぇ~、今決めちゃおうよぅ」
「そうだな。こんな事で時間をこまねいているのも馬鹿馬鹿しい。時の無駄だ」
再び考え込む3人。そんなに3人を緑髪のギルドのお姉さんは微笑みながら楽しそうに眺めている。
じーっ、とオレを見つめるナノ。いい名前がそろそろ浮かぶかな?
「ちびちゃん、目が丸くて爛々してるから、『爛々』はどうかな」
「なんか『ランラン』って女の子チックで強そうじゃない。もっとこう、ビシッと締まった名前が良いよな」
あー、もう、いい加減早く決めてくれよ!
オレは受付カウンターをドン、と前足で叩いた。待ち草臥れたよ。
「あ」
ガンクが閃いたのか、ぱちんと手を叩く。
「ランランが、ドン。ランドン。これなかなかいけるかも。
『ランド』はどうだ?」
「あはっ、それいいかも。『ランド』ちゃん」
「『ランド』か。悪くないな」
「どうだ、ちび。『ランド』でいいよな」
それ! 気に入ったぞ。オレは今日から『ランド』だ。
激しく尻尾を振ってその名前に大賛成したオレは、ガンクに飛び掛かって嬉しさの余り舐め付いた。
「おーよしよし。気に入ったか、ちび。良かったよ。よし、今日からお前のことを『ランド』って呼ぶからな、ちび」
『ちび』じゃなくて『ランド』って名前で呼んでくれよ。
「私も『ランド』は素敵なお名前だと思いますよ」
ありがとう、緑髪のお姉さん。なんか、少し砕けた感じになっちゃったな。けど、そっちの方が好印象な気がするぞ。
「さて。それではご登録を始めさせて頂きますが、よろしいでしょうか」
ギルド職員のお姉さんは仕切り直した声で説明を開始した。オレは緊張しながらそれを受ける。
彼女はオレが言葉を理解出来ない普通のねこと勘違いしてるから、他の3人に事細かに話しているけど。オレ、ちゃんと意味を理解出来てるからね。もちろん解る範囲内でだけれど。
オレの解釈で要約するとこんな感じだった。
①、冒険者登録をすると冒険者カードが発行されるけど、身分証明書になるから紛失しないように気を付けてね。
カードの管理はガンクに一任するから大丈夫だよ。
②、登録したら貴方も冒険者です。率先して冒険者として依頼を受けて魔物を狩ったり世間に役立ってね。冒険者としての責務を全うしないと罰則しちゃうよ。
当面の間はオレに出来ることをするかパーティで行動するからこれも大丈夫だよね。
③、依頼を受けるのも報酬を受け取れるのも冒険者ギルドしかないから勝手しちゃダメだよ。
要は、報告も連絡もしっかりしてねってことかな。依頼対象の魔物を狩るのはいいけど、そのまま(生存したまま)どっか雲隠れしないでねってことかな。当然しないよ、そんなことは。
④、冒険者には級があるよ。E,D,C,B,A,S,SSの順に級があるよ。最初の登録開始後は全員Eからスタートだから、焦って飛び級の依頼を受けようとしても出来ないよ。経験と実績を積まないとより高度な依頼はギルドは認めないよ。
ガンク達は冒険者学校の卒業生だから、最初D級からスタートだったみたい。ずるいなぁ。
⑤、冒険者カードは全国全地域の本部,支部の冒険者ギルド,商業ギルドで、その個人の情報の開示や記録も更新も可能だよ。
すごいなぁ。これ1枚有れば何でも出来そうな気がするぞ。
⑥、緊急時、災害時にはギルドから召集をするから出来る限り呼び掛けには応じてね。断ってもいいけど、快諾した方が後々色々と実入りも良ければ知名度向上にもなるし、悪くはならないよ。
もちろん、なるべくそうするつもりだよ。
⑦、小隊、大隊を組むときは、B級以上の冒険者認定証の無い者が隊長やリーダーパーティにはなれないよ。
まだまだ先の話だから聞き流しちゃう。
⑧、ギルドは冒険者に対し、情報の取扱いを重要視している云々の話。
つまりは個人情報の事だよな。身分証明書としての冒険者個人の身分は示すことは誰にでも可能だけれど、特技とかの個人に関わる重要な特定情報は本人もしくはギルド職員しか読み取る事は出来ないよてことだ。
⑨、その他細かい罰則規定。
細かい話は面倒臭いからイルマに任せておけば安心だよな。
以上の事柄を緑髪のギルド職員のお姉さんが説明してくれた。覚えられるか心配だなぁ。
一旦奥の部屋に引っ込んだお姉さんが、「お待たせ致しました」と言って戻ってきた。
「こちらがランド様の冒険者登録証です。ご確認下さいませ」
本名 :『ランド』
冒/商 :冒険者
級 :E
所属 :ガンク隊
登録地 :ハストラン支部
身分 :ねこ
役職 :ねこ
特性 :【身体強化】,【硬質化】,【物質操作】,【物質変換】,【ねこ魔法(創造支配)】,【転生者】
やっとここまでこれました。