18.絡まれる
「ガンクっつったっけか。ブラックワーム討伐したそうじゃねぇか」
「えっと……、ヴァン……さん?」
「ヴァンザードだ」
厳つい2人組だな。ヴァンザードと名乗った男は背中に大きな剣を背負った筋肉質の中年。盛り上がった胸板が強そうだ。遠くからだと逆三角形に見える風貌が可笑しくて厳つさ半減だけど。
彼の後ろに控えるように佇む男はイルマと同じ神経質そうな印象だけど、青黒い毛髪を額から垂れ下げて右手の指で弄っているその姿はなかなか近寄るのを躊躇いたくなるな。コイツは多分だけど、ヴァンザードと同じくらいの年齢に思える。けど顔に化粧を施してるから年齢不詳だよ。あれ、男も化粧ってするんだっけ、オレは男で化粧してる奴初めて見たぞ。気持ち悪い。
この前髪弄り男は「スマルです」と名乗った。人差し指でこねくり回した前髪を弾いたぞ。ゾクッと背筋に悪寒が走ったんだけど。
「ありがとうございます。で、何ですか、ヴァンザードさんとスマルさん」
やや身構えて訊くガンク。ナノはガンクの背後に隠れるように移動した。色んな意味でこの2人恐そうだもんな。
「ブラックワームは俺達も前から追ってたんだ。なかなか倒せなくてな。強かっただろ」
「何が言いたいんですか」
「いや、なんだ、ちと弱ってたろ」
「報奨金の分け前が欲しい。そう言うことですか?」
ニヤニヤとしたり顔のヴァンザードとスマルの2人。なんか嫌そうな奴等だ。間違いない、こいつら悪者の臭いがするぞ、とガンクに教えてやりたくなる。
イルマが話に割って入った。
「それは出来ない相談だ。討伐したのは俺達だ。別段弱っていた様に感じなかったが、貴殿らが共闘したという認識は控えていただこう」
「何? しゃらくせえな、誰だよてめぇは」
「俺はイルマという」
睨み合うイルマとヴァンザード。険悪な雰囲気だ。
受付カウンターに肘を乗せてもたれ掛かりヴァンザードがため息をつく。
「ハストラン周辺の治安維持は俺達が以前から仕切って上手くやってきてんだ。新参者が出張って身勝手されるとこっちは迷惑なんだよ」
「ほう、身勝手とは。
俺達は魔物討伐の依頼を受け正規の手続きを踏み倒したのだがな。人食い蛾を狩る過程でブラックワームを討伐した行為を、身勝手な行い呼ばわりとは如何か。
どうだ、ご令嬢。どちらが正しいか、判断してもらえぬだろうか」
いきなり会話の矛先を向けられた緑髪のギルド職員のお姉さん。一瞬ビクリとするも直ぐ様平静を装い告げた。
「正しいかどうかの判断は私では出来かねますが、この場合、当ギルドと致しましてはブラックワーム討伐はイルマ様、ガンク様方パーティの討伐成功として受理させて頂きます」
「んだと、ねーちゃん」
ヴァンザードが冒険者受付カウンターの台を拳で叩く。
「ヴァンザード様方は、別の案件、もしくは新たなブラックワーム発生時に改めてご協力頂きたく存じ上げます」
脅しに一切屈しない緑髪のお姉さん、カッコイイ。
チッ、と舌打ちして離れた後方のテーブルに引っ込むヴァンザードとスマル。彼等もギルドに用件があるのかな。何か2人でブツブツ言いながらこちらを見てるぞ。
緑髪のお姉さんが仕切り直して言う。
「申し訳ありませんでした」
「いえ、お姉さんが謝ることはないです。悪いのはあのクソ野郎2人組だ」
「恐縮致します。
さて、次のご用件でした。新しい冒険者登録の申請でよろしかったでしょうか。……失礼ですが、どちら様でしょうか」
お姉さんが困惑顔で尋ねる。ガンク,イルマ,ナノの3人を順に見て首を傾げる。残念ながらそこじゃないぞ。
「コイツなんですが」
「あら、可愛いねこちゃん……。失礼しました。
えぇと、こちらの、ねこ……さま、が新規で登録されるということでしょうか?」
抱っこされてカウンターの上に置かれるオレ。
「ブフッ、ギャハハハハハハハハハハハ」
うわぁ、笑われてるよオレ達。後ろ指さされながら。爆笑してるのはヴァンザードだ。スマルはテーブルに突っ伏して悶えてる様子。
「ギャハハハハハ、腹痛ぇ。何考えてんだコイツら馬鹿じゃねぇか。ねこ連れてペット飼い始めたのかって思いやしたが、ねこをギルド登録だってよ、頭湧いてんじゃねーの。笑い死にさせる気かよ」
あ、ガンクがキレた。後ろの2人組に吠える。
「テメエ、黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって」
「おいおい、やるのかよ。喧嘩なら買うぜ、可愛いねこちゃん連れの坊っちゃんなんざ恐くもなんともねぇよ」
「やめろ、ガンク。ギルド支部内で揉め事は不味い。それに、これは予想出来た事だ」
ガンクの肩を掴み宥めるイルマ。ガンクもイルマもそれぞれの持つ武器を握り締めてるけど、歯を噛み締めて怒りを懸命に堪えている。
うーん、そんなにオレがギルドに登録するのが可笑しな事なのかな。ねぇ、お姉さん。
ん?ナノが俯いて小刻みに震えてるけど、どうしたんだろう。
「お、なんだよねーちゃん、ガキんちょパーティは卒業して俺達と来るかね。歓迎するぜ」
「我が身体を流れる血潮よ今こそ息吹け。疾風の加護を持し彼の者を切り裂く猛き牙となれ……」
ちょ、ヤバイぞ。ナノが何か唱えてるけど、あれって魔法の詠唱じゃないかな。
ああっ、杖を持つ手が、あっ、振りかざして、ガンク,イルマ、止めないでいいの?
「あのう、登録出来ますけどっ!」
緑髪のお姉さんが大声を出した。ビックリして身体が宙に飛んじゃったよオレ。
「……失礼しました。
ご安心下さい。問題無く登録は可能です。ナノ様でしたね、杖をお納め下さい」
「え、あ、はい。本当に出来るの?」
「はい、可能です。ご質問致しますが、このねこ様は、獣人族でしょうか」
獣人族ってなんだ。オレはただのねこだけど。
イルマが答える。
「いや。こいつは普通のねこの筈だが、それより本当に出来るのか」
「ええ。亜人でも動物でも魔物でも」
「そうか。ならお願いする」
安堵するオレ達。後ろの2人組はまたもや不快な出来事に顔をしかめ、「行こうぜ」とギルド建物内から姿を消した。
お姉さんに話を聞くと、高い級の冒険者達の中には魔物や知能の高い動物を使役している者もいるらしく、稀に使役する魔物等に冒険者登録を行う冒険者も存在するそうだ。
だから、魔物であれ動物であれ登録は可能とのことだそうだ。
「……という訳ですが、このねこ様は何というお名前でいらっしゃいますか」
「ちびだ」
「ちび様……、それはお名前でしょうか。ギルドではご本名での登録とさせて頂いておりますが」
あれ、オレって、名前は、なんだ?




