17.冒険者ギルド
オレは腹一杯食べ一晩ぐっすり熟睡したことで体調はすっかり全快していた。
前後に身体を伸ばしてストレッチをしてから体全体をブルブル振るう。んー、快調♪
部屋の中をぴょんぴょん飛び回り遊ぶ。テーブルからカーテンから花瓶に活けられた小花の匂いまで嗅いで周り、テーブルの脚で爪を研ぐ。
思えば数ヶ月の間、朝から夜半までマズマ師匠の訓練メニューを日々欠かさずこなしてきた身体だ。訓練をサボったことになっちゃう。
道理で体のキレが悪いハズだ。いや、今朝は病み上がりだけど。
あぁ、体を動かしたい。走りたい。
ナノの枕元に行き、起きて、朝だよ、外に出ようよ。そう鳴いた。
頬を舐め、鼻を押し付け、爪を引っ込めた前足で頬を打つ。けれど、ナノは、うーん……、と唸るだけでなかなか起きてくれない。りルはすぐに起きて外に出してくれるのにな。ナノは朝が弱いのかな。
仕方ないので窓辺に行き窓の錠を前足で引っ掛けて開ける。ここは2階か、問題無いな。体分だけ窓を開いて明るくなったばかりの外に元気よく飛び出した。
コカコ村と違ってハストランの町は地面の整備が行き届いているみたいだ。土の代わりに敷き詰められた石が多い印象だな。靴を履かないオレたちねこは少し足の痛さが気になる。
迷っても困るから、ちゃんとこの宿を覚えておこう。2階建ての青い屋根だ。オレは新鮮な朝の匂いを吸い込みながら駆け出す。宿の周囲を周り、そのまま近くの2階の屋根に飛び乗って地上と2階に3階にとジグザグに走り回る。
コカコ村は3階建ての建物は村長さんの家だけだけど、ハストランはチラホラ3階建ての家もあるし、煉瓦作りの趣のある家や何かの工場みたいな広大な敷地の大きな建物もあった。
しばらくして息が上がった頃にナノの部屋に戻ると、ナノはまだ寝ているようだった。ぐっすり幸せな顔で眠っているままだ。
オレは花瓶を傾けて水を飲み、また毛布の上に戻る。まだナノは起きない。せっかくだからナノの布団の上に飛び乗って匂いを嗅ぎ、隣で丸くなってナノの目覚めを待つことにした。
ん、誰か近付いてくる。
耳を部屋の入口の方へ向けていると、ノックの音がしたから走ってドアの前に移動した。
「おーい。ナノ、起きる時間だぞ。下に降りて来いよ」
ガンクだ。入って来ないようで、そのまま来た廊下を戻っていったようだった。
ナノを振り返ると、「うーん」と、唸りながらまだ眠ったままだ。
しょうがない、起こしてやろう、と先程より強めにナノの顔に朝の攻撃を繰り返していると、やっと起きてくれた。
「おはよう、ちびちゃん。起こしてくれてありがとね」
おはよう、ナノ。
着替えたり朝の準備をしてるナノの側で、ナノの布団に潜ったりテーブルからベッドにジャンプして遊んでいると、オレはナノに捕まった。
「ほら、ちびちゃんも準備しないと」
ナノが首輪を着けてくれた。ありがとう。自分じゃ着けれないからな。
1階に降りて食堂でガンクとイルマに会う。彼等もナノと同じく昨夜のラフな部屋着から戦う冒険者の格好に戻っていた。
食事を終えたオレ達は、宿の主人にお礼を言い冒険者ギルドに向かったのだった。
「ここだ」
石造りで質素だけど堅固そうな2階建ての広い建物だ。観音開きの扉から中に入っていく。扉の正面には7~8組のテーブルと椅子が並び、男ばかり2組のグループが着席していた。ちらっとこちらに視線を送った後また話に戻ったようだ。
室内の左右両側にカウンターがあり、各カウンターには数人の制服と思われる似通った服を来た男女が待機していた。
「右は依頼関係、主に冒険者用の受付窓口だ。反対側は商業ギルド関連だな」
ガンクが説明してくれた。オレ達は右側に進み、冒険者用のカウンターへ向かった。
「いらっしゃいませ。ハストラン冒険者ギルドへようこそ。冒険者のガンク様ですね」
「ああ」
「今日はどの様なご用件でしょうか」
「先日の依頼の成功報酬の申請と、えっと、新しく仲間に入る奴がいるから、そいつの冒険者登録の、えー、お願いというか、だな」
歯切れの悪いガンクの物言いに少し困惑した風の受付のお姉さん。鮮やかな緑色の髪の毛を左に流し纏めている。
「左様ですか、畏まりました。では、まず依頼の品を拝見致します」
イルマが懐体を折り畳んだシートを取り出す。中を開きチャックを開けた。これは魔道具のアイテム袋だ。ゴートの店にも鞄タイプの買い物用として使うアイテム袋があるけど、イルマの取り出したアイテム袋は広げると随分大きいからいっぱい中に入るんだろうな。
あの中はよく分からないけど亜空間になっているんだって。生き物は入れられないけど、ゴートの持ってる袋で冷蔵庫一つ分くらいは軽く入るんだから、イルマの持ってるあの大きさのアイテム袋ならもっと沢山入りそうだ。
ちなみに冷蔵庫には魔石が必要だけど、アイテム袋は魔石いらずの便利な道具だ。その分だいぶ値が張るみたいだけれど。
「これは……、ロックワームですね。大きい個体と小さい個体計4体、それにこれはブラックワームですね。こちらで確認させて頂きます」
イルマはアイテム袋の口を広げ中を見せる。魔物が大きいので別の部屋に案内されるようだ。
緑髪のお姉さんに案内された部屋は簡素な作りの無機質な部屋だ。部屋の隅に1組のテーブルと椅子が置かれている。
「こちらで確認致しますので、袋から出して頂けますか」
他のワームは分かるけど、巨大なロックワームをどうやってあのアイテム袋に詰めたんだろう。袋の入口とロックワームの巨体を交互に眺めるけど、意外な程簡単にイルマは魔物5体を取り出した。部屋の中はロックワームで埋まり、身動きすら難しい状況になった。
「うぇ、気持ち悪い」と言い、ナノは外に出ていく。ガンク,イルマとオレは何とか部屋に残った。
「焼かれたのですか。少し状態が悪いのが残念ですね」
「ナノが加減を誤ったからな。値はどうだ。落ちるのか、やはり」
魔物を吟味するギルド職員のお姉さん。か細い指先でロックワームの体皮を触ったり、口内の牙を確認したり、気色悪い薄緑色の舌を掴み引きずり出してその具合の程度を調べている。気持ち悪くないのかな。見ているこっちが心配になるよ。
「小さいロックワームはそれほどご期待に添うことは出来かねますね。1体70デル、大きい個体は500デル。ブラックワームは800デルにてお引き取り致しましょう。いかがでしょうか」
「ほう、まずまずだが、小さい方でもう少し何とかならんか」
イルマが買取り交渉をしている。ちなみにデルというのは通貨の単位だ。昨夜の宿は3人と1匹で、1拍2食付きで70デルだったそうだ。
「そうですね。50デルでも通り値どおりですが、ハストランの安全に貢献して下さった点を考慮致しましょう。小さいロックワームを80デルで買い取り致します。これでいかがでしょうか」
「助かる。それで結構だ」
イルマは満足いったみたいだ。横でガンクが腕を組んで頷いてるけど、ガンクは横で見てるだけで何もしてないよな。オレと同じだ。
オレ達は再度受付カウンターに戻ってきて金を受け取った。
すると側に知らないオッサン2人組がやって来た。




