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141.砂ぶくれの洞窟③

 洞窟内部を魔化コッコーに乗ったまま進んでいく。内部は広大な地下空間となっていた。周囲の砂岩の壁や天井は不思議な光を放っているおかげで時刻は深夜のはずが視認性は高い。


 壁全体に堆積した地層のものと思われる線がびっしりと何重にも積み重なっているのが見える。地層の断面だ。その周囲の壁を進んでいくとまるで時間旅行しているような不思議な感覚にとらわれる。


 立ち止まったイルマは壁に手を触れ、「この地層断面は……」と何やら感慨深そうに神妙な顔で唸っている。


 これまで『ノードラバース』を地中へ埋め続け測量結果と毎日睨めっこしていたイルマは、専門外だった地質学にだいぶ明るくなってきているようだ。脳内で必死に分析を繰り返している様子だ。


「……おそらく外の砂が堆積し続けていることからも、この場所から砂漠が生まれ現在も拡がり続けているのではないか。そんな気が俺はする」


 いつも大体二番手の位置に付けるイルマがじっと動かず、今はオレ達の最後尾で壁を前にして停止していた。


 訝しみながら早く先に行けと急かしに近付いたコルテにイルマは見解を述べたようだ。


「どういうこと?」

「外で砂が流れ落ちていたろう、この場を起点としてハックバール砂漠は拡大しているという俺の予想だ。この現象をどこかで食い止めぬ限り遠い未来ではいずれ大陸が砂で埋まるということに他ならない」

「えぇっ!?」


 それって一大事じゃない、と慌てたコルテにオレを乗せたガンク達も駆け寄り一緒に驚愕する格好になった。


 それって砂漠化、か?


 地球では森林を焼いたり干ばつだったり温暖化の影響で砂漠化が加速していっていたけど、この世界では魔力だとかのよく解らない不思議な力で砂漠化が進行しているということなのかな。


 オレが前世の日本にいた時にはほぼ無関係だと過ごしていた遥か海外の問題のように思えたものだけれど、今生きているこの世界ではまさに現地で生きている今の問題だ。深刻だぞ!?


「砂漠を拡張させている原因が果たして魔物なのかもしくはそれ以外の動力源が作用しているのかは、見てからでないと判断付かぬが阻止せねばな」

「そうだな。砂に飲み込ませてたまるかよ」


 目に意志を宿し力強く歯を噛み締めたガンク。全員が首肯する中でおもむろにナノが口を開く。

 ナノが告げたその言葉にまた全員が驚きを隠せないように目を見張っていた。唯一オレだけは知っている事実だったけど。


 ナノが話したのは最初の休憩地点として発見した岩の祠は真竜教の祠の一つである、ということだ。義竜の祠だと。

 オレも初めて知ったのは、ナノが話すに本来祠には強力な結界が貼られていて魔物などの邪な生物を寄せ付けない機能を有しているらしい。


「俺達が休んだあの岩の洞窟がか?」

「そう。あそこは義竜を奉った神殿みたいなものなの。

 そしてこの洞窟のどこかに礼竜を祭る祠があるんだと思う。同じ感覚がまだ先の方から微かに届くの」

「ナノには分かるのか?」


 真っ直ぐにガンクを見据えてナノが答えた。ナノの金色を含んだ黒目が力強く輝いた気がした。


「アタシは真竜様の巫女よ。だから感じることが出来るんだと思う。

 でもとても弱々しくて儚いの。助けを呼んでる。力無く明滅してるような、思わず手を差し出さなきゃって感じちゃうような苦悩を感じるの」


 義竜の祠ではその周囲に張られた結界が作用していて余分な戦闘を避けられる安息の場所だった。でも礼竜の祠があるらしいこの場所では義竜の祠と同じ結界が機能を果たしていないようだ。だって魔物がでるもんな。


「ふむ……、ではやはりここにあの黄金のハルピュイアがいるということになるな。それにカルクスも。

 ハックバール竜穴があるともいっていたな」


 洞窟通路奥の方からザザザ、と音が聞こえてきた。イルマの言葉が掻き消される。



 何かいる。こっちに来る!


「こちらへ向かってくる、敵だ!」


 イルマが叫び終わったところで姿を現したのは大型の蜘蛛だ。通路反対側の後方からも二体の同じ種類の蜘蛛が来ている。挟まれる格好になってしまった。


コケーーッ!?


 これまで戦闘時には降りて主にコルテが防御と沈静化の魔法結界を張って魔化コッコー達を守っていた。サンドワームとかの弱い魔物なら乗って走ったまま倒して先へと進められた。


 それが今回は魔化コッコーに跨がったままで、しかも前後に自身の数倍はあるだろう蜘蛛に挟まれて逃げ場を失ってしまったことから魔化コッコー達は自制心を失いかけているようだ。手綱を引っ張り挙動を制止しようとしてもオロオロとあちらこちらに慌て動いている。


 大型車くらいのサイズの毛むくじゃらの蜘蛛達がオレ達に狙いを定めて何個もある赤目を怪しく光らせ、絶対に逃すまいと機を窺っていた。


 手綱を引きながらイルマが唸る。


「むぅ、タランチュラ系の魔物だろうが、初めて見る為俺にも詳細は掴めぬ。要心が必要だぞ」

「分かった。前一体はランドとイルマに任せた。後ろ二体はオレとナノでなんとかする。コルテはまず魔化コッコー達を落ち着かせてくれ」


 分かった!


 オレは乗っていたガンクの魔化コッコーから飛び出して前の一体の蜘蛛へと向かう。ガンク達も魔化コッコーから降りて戦うようだ。

 コルテが急いで魔化コッコー達を集め、落ち着かせようと鶏冠から胴体までを一匹ずつわしゃわしゃと撫でていく。今のコルテは幼児体型だから大型バイク程の大きさをした魔化コッコー全てにそれをするのはなかなか大変そうだ。



 オレは想像のままに創造する!


 走りながら魔力を循環させて、発生させた円上の力場の中へでっかい蜘蛛を入れようと広げ伸ばした。けれど、オレの魔力の干渉範囲の感触を敏感に察知したらしい蜘蛛がそれから逃れ、ぶわっと飛び上がり天井へと退避した。


 早い! それに見た目が気持ち悪い!


 急停止して天井に張り付いたでっかい蜘蛛を睨む。そこへイルマの矢が飛ぶ。その弓矢を巻き込みながらでっかい蜘蛛が口から霧吹きのようにオレ目掛けて地面一帯に大量の液体を塗布し始めた。


 弓矢が溶けたぞ!? うわぁっ!



 なんとか後ろに飛び退いて回避した。辺りに強烈な酸の臭いが立ち込める。地面の砂地まで煙を立てながら溶解している。その光景を目にして冷や汗が吹き出す代わりに背筋の毛がぞわっとした。


 あの体液を浴びれば多分オレだって溶けちゃいそうだ、危なかった!


「ランド、不用意に飛び掛かるなといったろう!」


 背後からのイルマの叱責に尻尾をひらひら動かして応じた。イルマの言う通りだ。不注意はダメだよな。


 今の蜘蛛の動きを見て直ぐ様後方のガンク達へと情報を伝えるイルマだ。


「ガンク、粘酸性の毒霧を吐くぞ、注意しろ。近接攻撃は命取りやもしれん」

「了解、ナノ!」


 ナノが杖を掲げ魔法の詠唱を初めたらしい。あっちはナノの強力な魔法攻撃からのガンクの必殺技で、必勝パターンに乗れば上手くこのでっかい蜘蛛を撃退出来るだろうな。


 問題はこっちだ。



 キャットニードルミサイル!


 大型なのにすばしっこい蜘蛛が八本の毛だらけの足を気持ち悪く高速で動かして、飛ばしたオレの針の雨を避ける。その蜘蛛の起動を先読みしながらイルマが弓矢を放ち続ける。だけどそのどれもを巧みに躱していく。


 くそ、素早い!


 あのいっぱいある赤目がどうもこちらの攻撃を読み捉えて把握しているような気がする。



 うわ、こっち来る!


 接近してくる巨大な蜘蛛を遠ざけようと針を撃ち込む。キャットニードルラビットファイアだ!


 次から次へと連射した黒毛の散弾を右に左に避けて躱して近付いてくる巨大蜘蛛。悪意の権化みたいな風貌で不気味な八本足の巨大な毛むくじゃらがやってくる。そして赤目の下の口が開いた。


 酸の毒霧か?


 オレは身体を強く硬化させて何重にも魔力で層を作った毛の衣を拵え、強力なねこパンチを喰らわしてやろうと身構えた。


 絶対に溶けるもんか、来るならこい!


 後ろ足に力を込めて伸ばした黒毛の奥で目を光らせる。


 けど予想に反して飛んできたのはねばねばの糸だった。オレが魔力を練り込んで対応しようと反撃の構えをとったことに反応したらしい。またもや洞窟の天井へと飛び上がると、尻から太く強靭な糸を吐き出してオレは不覚にもその糸に絡め捕られてしまった。


「畜生っ、ランド大丈夫かっ?」

〔大丈夫!〕


 動転気味のイルマの声に鳴いて答えた。

 蜘蛛糸でぐるぐるに巻かれて、オレは繭のような格好になってしまっているらしい。そのまま持ち上げられて蜘蛛がいる天井へと引き上げられていく。


 動けない、それに逃げ出せない。捕まってしまって、浮遊感に震えそうになる。チビっちゃいそうだ。でも必死に堪えて勝機を窺う。


 イルマは糸から逃れて、火に光に爆発にと各種属性が付与された弓矢を放ち続けているらしい。けれどそのどれも全てを躱されているらしく、オレは蜘蛛が避けて動く度にぶらぶらと繭のまま宙で揺れて恐慌状態になりそうだった。


 でもなんとか必死に逃げ出すことは出来ないか。その算段を整えないとマズイ。


 どうしよう、どうしよう……。このままじゃ食べられちゃう。殺される!



 そこでオレはふと閃いた。


 体に浴びた電撃を、イメージを呼び起こし魔力を繋げて電気をもう一度必死に生み出していく。

 繭の内側でオレの黒毛の先端がピンピンと跳び跳ねようとするような感触を覚えた。上手くいくだろうか。


 食らえ、ねこの電撃!



 ピリピリと静電気程に作り出した微弱な電流に魔力を上乗せさせて、一気に強烈な電流へと跳ね上げた。


 バチチチ、とねばねばした糸を伝ってその先の蜘蛛へと尻から電流が走って流れたらしい。


 成功したようだ。ずざぁん、と音と共にオレも糸で繋がったまま洞窟に堆積した砂地の地面に落ちたみたいだ。




 やがて視界が切り開かれてイルマの顔を拝めた。


「まったく、注意しろと言ったろう。それにいつからお前は電気まで放てるようになったのだ」


 イルマは顔を歪めながら困難そうにオレの全身に粘着した糸を剥ぎ取ってくれている。オレはぶつりと自分の毛を切り、開け放ってくれた繭の隙間からするりと抜け出すことが出来た。



 外に出て蜘蛛を見ると、弓矢が滅多刺しになって死んでいるのが確認出来た。


 この蜘蛛はオレとイルマが戦っていた方だ。ガンクとナノが戦った二匹の蜘蛛の方はその肢体がバラバラに切り落とされて転がっていた。


 ……凄いや。オレは手こずったけど、やっぱ流石ガンクとナノのコンビだよなぁ。


 感心しながらガンクとナノに視線を移す。蜘蛛のバラバラ死体をひと箇所に集めて焼却するための魔道具の水晶を置いているガンクと杖を掲げているナノの姿がある。新手の魔物が倒した蜘蛛の死骸に引き寄せられて集り出すことを防ぐためだ。不用な戦いを避ける為燃やしてしまうのだ。


「ガンク、こちらの蜘蛛も運んで一緒に滅却してくれ」

「ああ、今いく。ランドは無事みたいだな」

〔うん〕



 コルテが抑えてくれていた魔化コッコー達も早く先を行こうよ、とでも言いたげに足をバタバタと動かしていた。沈静化させてたみたいだけど、どちらかといえばまだ興奮気味のように見えるなぁ。

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