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139.砂ぶくれの洞窟①

「!

 イルマ、……あっちに向かって」

「む、どうした突然?」


 後ろを走るナノが声を掛けた様で、見上げると振り向いているイルマの顔が見える。

 ナノが魔化コッコーを走らせる進行方向を左寄りの方向へと修正させようと腕を上げ指し示している様子だ。


 怪訝な顔でイルマが尋ねる。


「あちらに何かしらあるというのか?」

「うん、お願い。……多分だけどあっちに目的の祠があると思う。だから……」


 ナノが示した方向を小首を傾げつつ睨んだイルマ。


 辺りは暗く夜の帳が落ちた砂漠だ。大きめの月が真上で存在を主張するように煌々と照り輝いている。


 前方の遥か遠くを眺めて見ても、近付いた途端吸血すべく動きだすサボテンがポツポツと散らばっていたりするくらいだ。あとは延々と続く砂山の海が月光を受けて幻想的に広がるばかり。



 一度、「フム」と思案した後でイルマはナノの直感を受け入れ、先頭を走るガンクに指示して進行方向を左寄りに変える。


 イルマは以前にナノが報せで岩の祠のある場所を発見したことを思い浮かべたのかもしれない。

 というよりイルマもガンクにしても、冒険をする上でナノがたまに下す直感的な判断やひらめきを信用しているからといえそうだ。





 しばらく進むと、先頭を走っているガンクが何かに気付いたらしい。


「おい、何かこの先おかしいぞ。変なふうになってら。

 もしかして、あれが、あのクソ鳥が言ってた礼竜の祠じゃねーか?」

「いや、安易にそう決めてかからないでおくべきだ。慎重になった方が無難だろう」


 前方に見えたのは周囲の砂山を押し退けるように出来ている、とても大きな砂の山だった。


 それも普通の砂山とは異なり、なんというか遠方からだと野球スタジアムみたいなドーム状に隆起した砂山のドームだ。でもその天井部分は真っ平らな形状となって見える。


 それはここまでこの砂漠地帯を移動してきて初めて目にする地形だった。


「ナノが何か感じたってのは、あれか?」


 まだ距離がだいぶ離れていて感知魔法が十分に発揮出来ないらしいイルマ。警戒するように目を細めるイルマを見やりながらガンクがナノに尋ねた。

 おそらく全力を出せばイルマなら感知魔法か探索魔法に何かが引っかかるかもしれないけれど、そこまで強い魔力を練り込んで放出するのは逆にオレ達の存在を報せるものだとして避けているのだと感じた。


 だって、何か出そうだもん。魔物とか、この前の黄金の鳥だとか。





 後ろのナノが慎重ながら乗り気で声を上げた。


「うん、多分あれがそうだと思う。ねぇ行ってみよう。

 ……それに、あの黄金の鳥さんは今はいない気がする」

「へぇ、ナノちゃんそんなことも解るんだ?」

「うん、なんとなくだけどね」

「すごいすごーい。不在が分かるのって親しいお友達みたいだね」

「は? 何で。変なこと言わないで」


 最後尾を走るコルテが探るような、でも可愛らしい甲高い声でナノに突っかかっているようだ。幼児体型のコルテは無邪気なフリして変に鋭い尖った台詞を吐く。

 だから困るよねぇ、とそのやり取りを耳にしていたらしいイルマの顔を見てオレは言いたかった。






 それは近付けば近付く程に異様な光景が広がる場所だった。無機的なスタジアムのドームというより、どこか水ぶくれが砂に変わって成長を続けているような印象を受けるのだ。


 砂ぶくれとでも言うのかな。



 接近したらただ感覚としては勾配がある砂地の坂道にしか思えない。けれど、どうやらとてものんびりした速度でサラサラと砂が上方から下方へ流れ落ちているようだ。


 魔化コッコーに乗って前を向いて走っていれば地面のその状況を見逃してしまったかもしれない。でも停止してその場にとどまっていればその奇妙な砂の流れを感じることが出来た。魔化コッコーの逞しい乳白色の足首が徐々に絶えず上から流れてくる細かな砂粒で埋まっていく。


「砂が、動いているのか?」

「でも生物の気配は無いようだけど」


 魔化コッコーに乗りながら足元の砂粒の流れを目で追っているイルマ。ナノは降りるのを躊躇っているらしい。



コケッ! コケッ!


 まだあまり走り疲れていない様子のコルテが乗っている魔化コッコーが砂を蹴って遊び始めた。楽しいのかな。


「イルマ、どう感じる? ここはなんか、この砂漠に来て初めてのダンジョンっぽい気がするよな」

「いや、どうにも分からぬ。ただ、行ってみるしかなさそうではあるが」

「行こうってば。アタシ感じるの。何かがきっとあって、呼んでるような」

「あたしも賛成。だけど、ちょっと気を引き締めて行こうね。ナノちゃんを何が呼んでるのかあたしには分かんないけど、きっとどうせいるのはヤバイのだよね」


 ガンクはどこかワクワクして期待に胸踊らせている。逆にイルマは慎重な表情で声色も硬い。ナノはとにかく先を急かし、コルテはどちらかといえば警戒しているのかな。オレはというと、好奇心いっぱいなんだけど。






 埋めるには少し早い場所で『ノードラバース』を砂地に埋め込んだイルマが戻ってきた。広大なこの砂ぶくれの場所近くに測量の魔道具を放つことで観測に役立てるらしい。





 砂ぶくれのてっぺんまで進んでいくと、さらにその内側ではまさに奇形地帯が眼下に拡がっていた。月明かりを受けて輝き照る奇形地帯を臨むことになったのだ。


 その光景は、中心に向かってゴツゴツとした砂岩が幾筋もの層を表面に刻みながら円状に拡がっていた。規則的に滑らかな平行線を作っている部分もあれば、歪に湾曲して歪んでいる部分もある。

 その中でも特にぐにゃりと折れ曲がるように線を描いている箇所では砂岩に亀裂が走り大きな空洞を作っていた。まるでそこから出入り出来る入り口のように黒い穴を窺えた。そんなのが数ヶ所見られた。


 中心部分に向けて窪んでいき巨大なベーゴマ台のようにせり下がっているのが分かる。底は広く平らになっているように見えるけれど、そこには何か白っぽい物が散らばっているようだ。この位置この距離からでは小さな白点のようにしか見えない。





 ーーと、この奇妙な地形を暢気に観察している場合ではなくなってきたぞ。


 ゴフッゴフッ、と何やら変な音というのか息づかいが聞こえてきた、とそう思っていると一番近くの砂岩の亀裂から何か出てきた。


「む、あれはゴブリン? いやトロールか?」

「おいおい結構いっぱい出て来てるぞ」


 まだその砂岩のでっかい裂け目から距離があるため、その姿を現したトロール達はこちらのオレ達の存在を把握しきれてないらしい。


 二本足で立ち、どこで調達したのか棍棒や剣に盾に槍といった武器防具を揃えた深緑色の肌をした魔物数体がキョロキョロと辺りを見回している。

 この砂漠に棲息する獣の毛皮でも剥ぎ取ったのか大事な部分はしっかり隠しているけれど、不気味というより見た目は酷く醜悪だ。


コケーッコッコッコ!


「こ、コラッ! 今遊ぶな鳴くな!」


 後ろに控え息を潜めていた筈のコルテが動く砂で遊び始め、鳴き声を上げてしまった魔化コッコーの頭部をすっ叩いた。


 あっ、ダメだ……、見付かった!


ゴフッ!? ゴフゥッ!


 天頂部から下方内側を隠れ覗き見ていたガンクが叫ぶ。


「気付かれた! イルマ何匹いる?」

「七、いや奥にもいるな。九体だ」

「よし、ランド一緒に行くぞ。

 イルマは弓矢で先に気勢を削いでくれ。あと状況見て何か分かったら教えてほしい。ナノとコルテは一先ず警戒しながら待機だ」

〔おう!〕

「うん」

「ハーイ。頑張れ~」


 オレはイルマの股ぐらから砂地に飛び降り下を見やった。トロール達は片手に道具を掴みながら三つの手足を使い器用にこちらまでの砂岩の坂道を掛け上がって来ていた。深緑の顔にギラギラと光る黄色い目が気味悪い。でもまだ距離は開いている。


 イルマが弓矢を乱れ射る。

 上方にいるオレ達の方が地理的優位があるから効果覿面だ。トロール達は前方からの矢の連射に戸惑いを見せながら、それでも怯む気をまるで見せず殺る気マンマンらしい。足を止めることは無いようだ。


「行くぞ!」


 ガンクが砂岩の傾斜を滑り落ちていく。ぶつかるようにしてそのままトロールに思いっきり斬りかかっていく。



 よし、オレも負けてらんない!


 オレは魔力を込めながら砂の奇形岩の上を走り降りていく。予想に反して結構その表面は固かった。


 繰り出される槍を避け、首筋へと伸ばした爪を当て引き裂く。地を蹴り飛び上がると魔力を円状に展開させ、硬質化させた黒毛の針を上から雨のように打ち込む。キャットニードルミサイルだ!


 そうしてバランスを崩したトロールに近寄り、ガラ空きの脇腹を切り裂き緑色の液体を吹かせるとそのまま転げ落ちることになったそのトロールは後ろから来た仲間のトロールに棍棒を振り落とされ絶命した。そして噛み付かれ食い千切られている。


 うわぁ……。


 この過酷な砂漠地帯では食糧の有無は死活問題だ。

 だとしても、つい先程まで共に行動していた横にいる仲間を食べるだなんて。生き残るための手段だってことは解るけれど、いくらなんでも……。



「ぼやっとするな、ランド!」


 その声にハッとする。

 下方の砂岩の亀裂の縁に手を掛けて顔を出していたトロールの一体が、内部から岩の塊をオレ目掛けて投げ付けようと腕を振り構えていた。その腕に矢が突き刺さる。


「気を抜くな。何やら危険な予兆を感じる」


 ごめん、それにありがとうイルマ!


 気を付けるぞ、と気を引き締めて後方斜め上のイルマを振り向くと、オレではなく上の夜空を見上げている格好のイルマの姿があった。


「ランド、こっちは全滅したぜ」


 ガンクの方は既に最後の一体を切り伏せていた。オレも残る一体のトロールを盾を吹き飛ばしつつ首を刈ってやったところだ。

 先程オレに岩の塊を投げようとしていたトロールは既にイルマの矢が首に刺さりピクリとも動かなくなっている。


 よし、これでこっちも全滅させたぞ。





 と思ったのも束の間、突如として爆撃のような突風が上から襲ってきた。


 うわああぁぁぁぁぁ……!?



 オレもガンクも掻っ攫うような突風の直撃を受けて、砂ぶくれのでっかい窪みの中央部まで転がり落ちることになった。


くうぅぅ……。


 痛みよりも、被害は何より回転し過ぎて目が回ってしまったことだ。まともに立つことも出来ない。四本足で立ち上がっても腰が抜けたように上手く立ち上がれず薙ぎ倒されるようにコテンとひっくり反ってしまうばかりだ。


 やや離れた場所で寝転がり、立とうとしてフラつき崩れ落ちているガンクも同様の状態らしい。


 くそぉっ!



 気付くと疎らな線を刻んだ砂岩の大地に月明かりを受けた大きな影が落ち移動していた。


「ワイバーンだ!」


 イルマの声が遠く離れた下方の位置にいるオレ達までなんとか届く。


 ワイバーンって飛竜のことか?

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