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137.名目の裏側にある目的の真相

 イルマがこれまでの旅で埋めてきた『ノードラバース』による測量結果を伝える。それはオレが前にイルマと一緒の見張り番の時に聞いていた内容に沿ったものだった。


 全員がやはり、大昔に起こった地殻変動なんてどうでもいい、という興味薄い反応をしている。


 だよね。



 ガンクがカモシカの肉を噛みながら、もっともな意見を口にする。


「ずっと感じてたこと言っていいか。

 こんな辺鄙で超が付くほど危険な場所じゃ誰だって住めねぇよな。カダストロフまで行っても、どうせそこもさらにスケールアップした危ない地域なんだろ?」

「おそらくそうだろうな」

「本当に獣人達の建国地にここらの土地を宛がうつもりか?

 ラウルトンさんだって馬鹿じゃねーし、最初から危険性は把握してたろ。いくら獣人達が人間より卓越した能力持ってたってまともに生きられねーよ」


 ガンクの意見に思案顔になったイルマ。コルテを見る。コルテは首肯していた。


「……うむ。今まで隠していて申し訳の一言すらない。他でも無い、今宵伝えておく必要がある真相はそこなのだ」

「どういうことだ?」

「ラウルトン氏から皆へも言い渡されている今調査の名目は『獣人達の建国地候補の調査』だ。ガンクもそう聞いているだろう?

 しかし、実態はそうではない」


 イルマが全員を見渡し、続ける。


「俺が契約書に調印したその内容、つまり真の名目はメールプマインからこの砂漠地帯とカダストロフ山脈までの調査と安全度の高い往路及び復路の発見とその構築にある」

「なに!?」

「『ノードラバース』は測量の魔道具だ。それを埋め周辺の地質に地形、果ては付近に生息する魔物の量と特性までを一月かけて計測するものだ。

 ただ住み良い新天地を見繕うだけならばこうも北から南へと何往復もする必要性は皆無なのだ……。

 俺だって真相を耳にした当初は疑問に感じラウルトン氏に食い下がった。しかし、獣人達の求める理想を叶えるのはどだい不可能だ。たとえこの行き先の果てに安全圏が見付かり新興国として栄えたとしてもだ、いずれ叩き潰されよう。獣人の国であればな……」


 ガンクに詰め寄られながらもイルマは話し続けた。ガンクはまだ怒り心頭の表情だ。けれど、イルマの話は存分に頭へと浸透している様子で、葛藤し狼狽している。


「ならなんで先に、前もって話さなかったんだ。話してくれよ。騙すような格好してまで隠す必要があることなのか?」

「……すまぬ」


 コルテが宥め、止める。


「そのへんになさい。怒る気持ちも理解出来るわ。でもイルマもこうなることは解って話してるんだから」

「お前も知ってたんだな、初めから。ラウルトンさんとグルで俺達を騙してたってことか」

「いえ。そうじゃないわ」

「じゃー獣人達の国は?

 ラウルトンさんが協力してアイツらに手を差し出してくれてんだろ? 今だってマルスノさんがメーチスに建国の為の教育してんだろ。それもみんな嘘っぱちだってのかっ?」

「いいえ」


 矛先を変えて激昂するガンクにコルテがゆっくりと一つずつ、丁寧に説明していく。


 それによると、まずラウルトンさんはこの砂漠地帯とカダストロフ山脈までの過去,現在それに未来の把握をすることでアーバイン王都へ報告するに足り得る調査資料を捻出する必要性があったらしい。


 アーバイン王国へ報告? なぜそんなことを……。


 コルテの話によれば、その調査結果の出来如何によって、獣人達の国、ではなく彼らが物質的にも権利的にも安全に住める集落をこのアーバイン王国内に(・・・・・・・・・)獲得させることが出来るという。そのようにラウルトンさんが王国へ話を付けるらしい。


「ラウルトンさんにそんな権限あるのかよ。謁見すらままならねー王様だって聞いてるぜ」

「あら、随分と過小評価してるのね。ラウルトンはメールプマインを表裏ともに代表する人物よ。あたしが見定めた男をなめてもらってはバチが当たるわ。これでもラウルトンはガンク組に高い評定しているんだから」

「……そうかよ」

「ええ。彼に任せて安心なさい。その為にはこの砂漠の調査を絶対に高精度に、また実用性高い報告をしなきゃならないの。もちろんそれは貴方の想う獣人達の為になるし廻ってガンク組の名声にも寄与されるわ」


 つまり国外の遥か山の向こうの僻地に建国するのでなく、王威を借り歴とした獣人達の住まう集落をアーバイン国内に築くこの手段をラウルトンさんが操ることで、引いては彼ら獣人達にもオレ達にもその恩恵が与えられるということらしい。


 その為の調査の旅はかなり高い難易度を要するけれどそれだけ見返りは大きいようだ。


「候補地はワユビュリュ,コカコ村南東。候補地はその二つのどちらかになりそうよ。

 あたしはコカコ村近くの方が適地だと考えているんだけどね」

「んなことどうでもいいんだよ」

「あら、どうして? より安全な場所に住めた方が良いに決まってるじゃない。

 熱くならずに冷静になりなさい。考えるまでもないでしょ。国外に建国なんて無理なの。どうやっても」

「違う! 俺は……」

「今まで隠してたことにムカッ腹立ってるのね」

「……そうだ」

「それはさっきから謝ってるじゃない。せっかく見直してたのにグチグチとぬるい男ね。

 明確な目的も無く、希望も無い状態で果たしてこの砂漠を越えられたと思う?

 自分の為にじゃなく、誰かの為。そんな高尚な目的でも無ければあなた達って衝き動かされはしないんじゃないかしら」

「うるせぇっ」


 押し黙ってしまったガンク。



 驚いた。


 その真相にも隠されていたことにも度肝を抜かれたけれど。


 無論、オレも獣人達の住む場所は安全な場所の方がいいから、伝えてくれなかったことは残念だけど、その方が賛成だ。

 そして獣人達の集落がコカコ村近くの場所でだったなら尚更嬉しい。

 遠い危険な場所までは気軽にも会いに行けないし。




 しかしガンクは納得いかない様子だ。プライドが邪魔しているらしく頑なだ。それはオレも分かるよ。ナノが宥める。


「ほらほら、いつまでも駄々捏ねないの。

 こんな危険な場所を通って建国するより安全な国内で暮らしてもらった方がいいんだから絶対。ね、ガンク?」

「……確かにそうだけどよ。隠してたってのは筋が通らねーだろうが」


 ナノはイルマの意を汲み取ることが出来たようだ。


「すまなかった。リーダーであるお前には早くに伝えておく必要があった。それが出来ずこんな形で打ち明けることになってしまい……」

「分かった。いいよもう」

「聞いてくれ!

 誤解無きよう伝えておきたい。ラウルトン氏からはメールプマインへ戻った際まで伏せておくよう言い渡されていた。帰還まで士気を絶やさぬ様配慮の意味があるのだろうが。

 ラウルトン氏も我々へ申し分無い幇助をしてくれている。隠していたことは謝る。見限らないでほしい」

「もう分かったって。俺も感じてたことだ。獣人達が平和な場所で暮らせればそれに越したことはねぇよ。

 けど、とりあえず戻った時にはラウルトンの野郎を一発殴らせてもらわなきゃな」


 ガンクが杯に入った酒を豪快に飲み干す。直ぐ様そこへコルテが新たに継ぎ足す。手に余る駄々っ子がやっと落ち着いてくれた、と言わんばかりに表情を変えている。


「頑固で傍若無人かと思ってたけど、どこぞの布頭とは違ってこのツンツン頭は柔らかなのね」「ドルマックと一緒にすんな」


 ガンクにぴったりくっ付き酌をするコルテ。娼婦みたいな桃紫色の雰囲気を放つ。怖い……。


「あら、いい飲みっぷり。勇ましいわ。ほら、もっと」

「ちょっとコルテ! ガンクに寄り掛からないの。

 ガンクも鼻の下伸ばして最ッ低ー」

「あら残念」


 ガンクに凭れたコルテをナノが引き剥がす。誘惑したり挑発したり、なじったりと使い分け状況に応じて千変万化するコルテをオレは恐ろしく思うぞ。

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