表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/152

136.会議のお供に名酒『宝落』

 良かった、ナノが目を開けた! 


 瞳を開けたナノはぼんやりとテントの天井をしばらく眺めていた。瞳だけ緩慢に開閉を繰り返している。

 枯渇した魔力の消耗は回復している筈だ。けれどまだ精神が混濁したままらしい。ぐったりしているのが分かる。


「……アタシまたやっちゃったんだ。ランドちゃん、看ていてくれてたの」


 気配に気付いたナノは、手を伸ばしてそっとオレに触れた。



 仮眠をとっていたガンクが起き上がる。


「……ん、起きたかナノ。 良かった」

「ガンク? ごめんアタシまた迷惑かけちゃった」

「ああ、いいよ気にするな。俺だってあのクソ鳥にやられちまってダウンしてたしな。コルテがトールトさん出して救ってくれなきゃ一大事だったよ、きっと」


 ガンクは言葉を切り、ナノの調子を検分しているようだ。そして続ける。


「まだ体調悪いんだろ。もう少し休んでな。

 イルマとコルテは外で見張りしてる。オレとランドが次だ。気にせず寝てて大丈夫だから」

「ありがと。そうする」


 体を起こしかけたナノが再び体を横たえる。オレを包み込む格好だけど、身体は冷えてるようだ。 


「……あの後さ。ナノが寝ちまった後のことだけど」

「! そうだ、あの金色の鳥はどうしたの。倒せたの」


 ガンクが、ニシシと歯を見せて笑う。


「俺が追い払ってやったよ。あんなの大したことなかったぜ」

「本当? すごいね……」


 ガンクのやつ、嘘付いてる。オレはいい嘘だな、と思う。



 ゆっくりと時間が流れるテントの中、オレを抱き抱えるナノの心音に耳を傾ける。それはとても緩やかな安らぎの音だ。

 ガンクはしばらくの間ナノへ目を留めていた。彼女を推し量るように。


「ナノ、何かお前、俺達に隠してるだろ?

 ……いや、悪ぃ。その言い方は違うか。何か秘密にしてることあるんじゃねーか?」

「……」


 ナノは無言で答えた。


 ガンクはそれを肯定の意味として受け取ったようだ。オレはその秘密を知っている。


「……ごめん。言いたくないっつーか、言えないことや言い難いことってあるよな」


 ナノは天井の虚空を眺めたままだ。ガンクは頭を掻く。オレの背中に感じるのは朧気なナノの感触だ。


 ナノには一緒に旅をする仲間にいつか明かさなければいけない真実を抱えている。対するガンクはリーダーとして仲間として、ナノが抱えている秘密を共有したいと考えているように感じられた。


 昼にあの神の鳥と名乗ったクイーンハルピュイアがそれを匂わす台詞を告げてしまったからだ。


「……ああっ、もうこういう時スラスラ言葉って出て来てくんねーよな。

 そうだ、腹減ってんだろ。もう夜更けのいい時間だ。ナノが目を覚ましたらみんなで飯食おうって決めてたんだよ。俺腹ペコでよ。減ってんだろ、腹」

「……うん」


 ガンクの腹が鳴った。ナノの腹の音も小さく聞こえた。

 オレは尻尾を動かした。オレも、って。


 口元を緩ませガンクはまた寝転ぶ。


「なんかよ、イルマが話があんだって。それも重大な隠し事らしいぜ。あいつ何企んでんだっつーの。

 ……なぁ。もし言えるようならその時ナノもその秘密を口に出してみねーか? 案外言っちまったらスッキリするもんだぞ」

「……そうかもしれないね」


 オレは立てた耳を伏せナノにもっとくっついた。無防備に自分の体に顔を埋める。モゾモゾと身動きするオレの背をナノの手が柔らかに移動する。


「なぁ。俺達さ、随分遠くまで来てるよな。しかもこの先どうなるのか分かんねー毎日だし。こんな辺鄙な砂漠で旅してよ。

 だから、いやだからって訳でもねーけど、俺達はいつだってどんなことになってもずっと大切な仲間だと思ってる。絶対に見捨てねーから」

「ふふっ、いきなり何それ。

 ……そうだね。アタシも同じように思ってるよ」


 オレもだぞ!


「どうする? イルマ達呼んで飯にするか」

「ううん。もうちょっと、このままがいい」

「そうか」


 やがてテントに大きな腹の音が鳴り響き始めた頃、ようやく起き上がった二人はイルマを呼びに外へ出た。







コケ~……


 さっきから鳴き声が聞こえると思えば、マッサージがてら魔化コッコー達の羽毛をとかしていたらしい。

 鶏の筋肉を指圧するイルマの図。羽毛の奥に埋まった砂埃を払い手櫛で整えている。表情筋が無くてイマイチ判り辛いけれど、魔化コッコー達も和み気持ちよさげだ。



 外に出たナノにイルマがニヤリと笑い掛ける。


「む、起きたか。無事で安心したぞ。もう立ち上がって平気なのか」

「迷惑かけちゃってごめんね。アタシはもう大丈夫。お腹減っちゃった」

「うむ。

 今コルテが晩餐の準備をしている。今夜は会議を開こうと考えてな。重大な発表がある」


 魔化コッコーの手入れをするイルマを見ていると農夫のようにも見えた。とても優しい手付きだ。







 大きな真ん丸の月が煌々と地上を照らしてあえる。今夜は満月の夜だった。穏やかで少し冷えた風がテントを張った大きな岩山の割れ目を吹き抜ける。


 鼻腔をくすぐるカモシカ肉の匂いと灰の匂いが強烈に辺りに漂っている。結界も張ってあるし大丈夫かな。オレ、口の中が涎でいっぱいだ。



 ガンクは岩山の向こうを覗き見た。空きっ腹で少々気が立っているらしい。


「コルテの奴はまだかよ。何やってんだ。もう飯の準備は整ってんだろ」

「女の子には色々あるんじゃないの」

「エルフだろ。コルテはもうそんな歳じゃねーんじゃねーか」

「む、来たぞ」


 コルテがやって来た。大人体型になっている。


「今の聞こえたわよ。あたしは女の子」

「ハイハイ、分かった分かった」

「おざなりね。まぁいいわ。

 で? てっきりもう始まっちゃってると思ったんだけど待っててくれたんだ?」


 コルテがナノの両肩に手を起き気遣う姿を見せる。


「まだ完全回復には至ってないか。でも、久しぶりに飲みたくない?」

「え、お酒あるの」

「うふふ。こんな夜の為に取って置きのお酒用意してあるのよ。ほらこれ、『大吟醸 宝落』。ちょっとお高い美味しいお酒。飲むでしょ?」


 どうするか悩むナノの頬に手を当て、「酒は百薬の長。冷えた身体も減った魔力も滾れば元に戻るわよ」と呑兵衛の理論で誘うコルテだ。


「おい、ナノは病み上がりだぞ」

「だってほら、随分血色も良くなってるみたいだし」


 あれ、コルテってば魔法使ってないか? ナノの頬を擦りながら回復の魔法でも使ってるみたいだ。

 ナノは頷き、「アタシは大丈夫だよ」と応じた。


「ほらこう言ってることだし。だから飲みましょ。熱い議論を交わすにはそこにお酒って要るじゃない。

 そこの堅そうなオニイサンもほら、いつまでも鶏にかまけてないでこっち来て座んなさいな」



 コルテに文句をぼやくイルマを笑うように魔化コッコー達が鳴いた。





 今夜は一旦調査の旅を中断して全体会議を開くという。


 ガンクが酒を片手に乾杯の音頭みたいなものを切り出す。


「あー、みんなお疲れ!」

〔「「「お疲れ様~!」」」〕

「砂漠に入って早二ヶ月ちょっとか? 数々の困難と幾多の修羅場と、えっと……、まぁ色々と潜り抜けて来てよ」


 ガンクは緊張しているようだ。


「堅苦しいのはイルマだけにして~」

「おい、先程から聞いておればコルテは……」

「カンパーイ! みんなお疲れ~」

「ナノ! 勝手に始めるな。俺まだ喋ってるぞ」

「えー、だって一向にお酒飲めないし。あ、これおいしー」


 どうやら宴がスタートしたみたいだ。杯を掲げ突っ立ったガンクが悲しい雰囲気を醸しだした。


 オレも酒にチャレンジしてみた。前世から見ても初めてのアルコールだ。どんな味なんだろ。


 うぇ、変な味っ! まっず!!


「ランドちゃん、大丈夫!?」

「どんな名酒もねこには毒かもね」

〔うう、匂い嗅いだ時点で飲まなきゃよかったぞ〕

「確かにこれは上物だな。ランドにはこれをやろう」


 イルマがオレの前に置いたのは乳白色の液体。牛乳(ミルク)だ! 

 オレの為にこんなものまで用意していてくれたんだな。酒が飲めず一人だけミルクって寂しいけれど、なかなか濃厚で美味しいミルクだ。



 コルテが語る。


「この『大吟醸 宝落』はサカキバラ酒造の一級品でね。銘にある通り、美味に満たされ口から溢れるように宝を落としてしまう意味合いを持つ、そんな名酒」

「サカキバラ? 変わった名の酒屋だな」

「帝国産なのよ。あっちから仕入れたの」


 どことなく日本姓の気がするな。その酒造は転生者が作ったものだろうか。


 全員が味わうように飲む美酒をぜひオレも味わいたい! けどこの舌がっ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ