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134.クイーンハルピュイア②イルマの奮闘とトールトさんを腹に生やすガンク

 イルマが『索敵の矢』を射る。矢は弧を描き後方へと飛んで消えた。

 紫色の樹木を腹から生やしているガンクに目を移し、その肩へと軽く手を置いたイルマ。瞑っていた目を開けたガンクはイルマに申し訳無さそうに目を伏せてみせる。


「不甲斐ねぇ。

 策戦は聞いてたぜ。俺の分まで頼む。クイーンハルピュイアにかましてやってくれ」

「ああ。ガンクの出番は残しておかんからな」


 だからゆっくり回復しておいてくれ、とイルマは不敵な笑みを作る。

 ガンクの横に『変わり身人形』を置いたイルマが対魔法、対物理攻撃に堅固な備えを整えて結界の外に出た。



 途端にオレからは見えない角度から降り注ぐ無数の羽根の飛散弾。カラフルな色とりどりの羽根が砂地に突き刺さっていく。

 いつもは後衛にまわるイルマの前線戦闘だ。不安で仕方ない。


 目視で軌道を読みながら躱し色鮮やかな羽根の雨を避けて回るイルマ。オレは両四肢の足の爪を砂地に食い込ませつつ祈るようにイルマの姿を目で追っている。


 それまで直線的に飛びイルマを穿とうとしていた羽根の群れが突然動きを変えた。水中を群れで泳ぐ魚の群れみたいに三次元的な動きでイルマに襲い迫る。


「クッ!」


 ギアを上げるように速度を早めたイルマが追尾する羽根の群れを躱して走る。熱地獄の砂地を跳び駆け回りながら避けるイルマは既に熱射と疲労で汗だくになっている。

 矢を放ち、巧みにサボテンを利用して追尾を妨害しては数を減らしていく。けれど……。



 あぁ!



 それまで数十だった羽根の群れがイルマを取り囲み、包み込むように膨大な数に増えた。数百から数千の何色もの羽根が暴風に乗って竜巻を作るように旋回していき、中心へと追い詰めたイルマに襲い掛かる!


「これは、フェザートルネード!?

 チイィ、結界珠よ!」


 広がった円状結界の外を羽根が暴力的に切り裂く。ガリガリと嫌な音を響かせ結界に火花が散っている。


 嵐みたいになってしまっている。同時にこちらにも羽根が襲い掛かり、外の視界はもう全く不明瞭だ。

 コルテがトールトさんの様子へ目を配りつつ、オレ達を護っている結界へ強化を施す。竜巻の中心にいるイルマは見えなくなってしまった。


 イルマ!


「大丈夫。

 ランドちゃん、イルマを信じて……」


 横でそう言うナノも杖を固く握り締め、魔力を溢れ出んばかりに凝縮させながら堪えているようだ。唇を強く噛み締め、羽根の竜巻を睨んでいた。イルマが合図するその時を待っているのだ。


 オレもイルマを信じよう。今はそれしか出来ることは無い。頑張れイルマ!



 イルマが何かをした。


 ロケットの如くイルマがその場から真上の上空へと言葉通りに勢いよく射出した。勢力を弱め始めた一瞬をついてクイーンハルピュイアのフェザートルネードから逃れた。


 よし。いいぞイルマ!



 そして再度『索敵の矢』を放ったようだ。

 矢はやはり一射目と同じ場所へ向け飛んでいった。どうやらクイーンハルピュイアは先程から場所を移っていないようだ。



 その軌道、到達点を見極めながらイルマが(やじり)のすぐ後ろに呪符みたいな物を結び付けては、その方向へと矢継ぎ早に矢を射っていく。


 遅れて巻き上がる爆炎、それに豪風。

 巻き上がる砂埃とこの場所まで到達する時間からすると、クイーンハルピュイアは離れた位置に潜伏して攻撃をしているらしい。



「姿を表せ、クイーンハルピュイア!」


 凄い! もしかして今ので倒せたんじゃないのか。


 そう思う程、その爆発は威力を感じた。フェザートルネードも雲散霧消になっている。


「やったか!?

 豪炎に豪風、それに抑制呪符帯を数種。その効果はさて……」


 そのアイテムを使うイルマの姿は初めて見るものだ。イルマは様々な道具を駆使して戦う。


 オレも出来れば見倣いたい戦法だ。けれどオレの前足では独力でアイテム袋から有用な道具を見繕い効果的に使用することは出来ない。肉球はカワイイ性質を持っていたとしても指先の器用さには欠けるからなぁ。




 巻き上がった細かな砂の爆散を腕を翳して防ぎ、慎重に状況を見極めていたイルマ。


 しかしその顔が暗く歪む。落下しながら、「やはり上位種か、この程度では!」と歯を食いしばる。



 後方に莫大な魔力の反応を捉えた。ちょっと不味くないかコレは!?

 思わずそう感じる程の危険を察知した。背中の毛が沸き立つ感触を覚える。


 魔力を感知したイルマもアイテム袋の中をまさぐり、取り出した結界珠を幾つも即座に展開してクイーンハルピュイアのおそらく本気の攻撃に対応しようとしている。



 砂漠地帯の風景が切り替わっていった。白昼猛暑の白砂の海が浮遊するようにして舞い上がる。


 オレ達がいるテント周囲を残して、強大な魔力の磁力みたいなものがゆっくりと中にあるものを絶え間なく振動させていた。

 空中へ飛び上がり自由落下の最中にいたイルマは逃げる暇を与えられず、地上へと着地する前に浮遊させられ中空で捕らえられている。


 何だこれは!?


 共に舞い上がる砂塵の隙間の奥で即座展開した結界を軋まされながら、苦渋の顔でイルマが鳩尾(みぞおち)に手を当てている姿をオレの目は捉えた。


 その部分は、イルマの胸当てに内臓されている魔石加工した霊獣玄武の魔核が備え付けられたところだ。指の隙間から青白い強力な魔力が放出している。その魔石に願うようにして、イルマはその瞬間が訪れるのを待っていた。


 上手にいくのだろうか。心配だ。オレは目を瞑らないように懸命に目蓋に力を込める。


 イルマ!



 宙へと上る大量の砂が動きを止めた。それに合わせて細かな振動もピタリと止む。その瞬間辺りを覆っていた莫大な魔力が膨らんだ。


「『変わり身人形』よ!」


ドオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 大爆発が巻き起こった。




 大爆発の音響が鼓膜を激しく痛打する。結界に護られている外側では凄まじい暴風と暴熱が烈火のごとく吹き荒れていた。


 オレもナノもコルテも、安全圏にいることを忘れて反射的に伏せて蹲っていた。





 豪雨のように砂粒が、狂った暴風がオレ達を包む結界を襲う。


「なんだどうしたっ、大丈夫か!?」

「コラッ、ガンクは寝てて。トールトさんが倒れちゃうでしょっ」

「いてぇっ」


 あまりの轟音に飛び起きたガンク。その頭をコルテが叩いて制している。


 未だ轟音が支配する最中、ドサッと何かが地面に落ちる音が聞こえ、そちらを向き見やる。

 イルマだった。


「おい、状況を教えてくれ」

「! イルマ、無事だったのね」


 イルマは結界内に置いておいた『変わり身人形』と無事入れ替わることが出来たようだ。忍者みたいだぞ!


 胸当ての霊獣玄武の魔石をまだ光らせたまま、汗と砂埃に煤にと全身酷く汚れたイルマが薄ら笑う。ここまで成功出来た余韻に浸るように。


 コルテがタオルを投げる。


「間一髪だった……」

「うん、見事みごと。良かったね。

 にしてもこんな砂漠の、それも砂粒を使って大規模な粉塵爆発を引き起こすなんてね。そうなんでしょ?

 ったく、流石上位種のハルピュイアね。恐れ入ったわ」

「敵を褒めるな」


 クイーンハルピュイアに感嘆するコルテを戒めるイルマだけど、当のイルマも満更でも無い様子だ。


「果たしてどんな魔法を行使してくるか肝を冷やしたが。まさか砂塵で粉塵爆発を誘発するとはな。この地で戦い馴れしている。

 予め魔力抑制の呪符を放ち威力を抑えておいて正解だった。これより規模が肥大しておれば、この結界も消し飛んでいたかもしれぬ」


 外は砂嵐の熱風が未だに猛威を奮っているようだ。



 クイーンハルピュイアはどうやら、結界に包まれたイルマを強大な魔力の閉鎖空間に飲み込むと、その中にある砂を利用して魔力で可燃化させ、さらに微細振動を起こし停滞させると大爆発を巻き起こしたらしい。


 その規模は果てしない。


 オレ達がいるこのテントの周りの結界を残してクレーター状に砂が爆散していた。コルテがこの結界を強化してなかったらと思うとゾッとする。



 結界を改めて強化した後でイルマが言う。


「オレの役目はこれで終わった。後はクイーンハルピュイアがオレの生存を確認する為その姿を見せてくれれば成功なのだが。変わり身した人形をな」


 粉塵爆発の直前まで自身で展開させた結界の中にいたイルマは、オレ達がいる結界の中に置いた『変わり身人形』と入れ替わっている。

 変わり身して救ったイルマ人形は張ってあった結界によって粉塵爆発から護られた後、主の居なくなった結界が役目を終え消滅したためにそのまま爆風と熱風に晒され、切れ切れの格好で地面に横たわっていた。その上に砂が粉雪のようにいつまでも降り注いでいる。




「む、様子を確認しに来たようだな」


 降り頻る砂を掻き分けるようにして色鮮やかな鳥の姿をした魔物が飛んで現れた。一匹だけだ。


 ナノが訊ねる。


「一匹だけ? どうするイルマ?」

「……やむを得ん、あやつだけでも仕留める。いってくれ!」

「分かった!」

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