111.その後①
イルマがオレ達に向けて一つずつ丁寧に話していく。オレ達はそれらについて時には頷き、ある時は意見したり反論したり、また質問したりした。
【魔族軍侵略戦争の終結について】
まず第一に、魔族軍との戦争についてはメールプマイン沿岸町に集結した部隊の防衛という形の勝利に終わった。
オレがアホのソルノのせいで暴走化している間に、サーモアンでは侵攻してきた魔族軍を退け駆逐することに成功している。
イルマの話から今回の敵軍の動きを総括をすると、アーバイン王国の領土に上陸した魔族軍主要部隊はサカネに襲来した部隊が第一軍、さらに第二,第三と侵攻を見せたものの、元々小さな港町であったサカネをすり抜けるようにサーモアンへ足を伸ばし展開していった後で全滅したという。
アーネット隊長がいたメールプマイン都市警備隊が主力のサカネは、開戦と同時に大打撃にさらされながらも徐々に敵魔族軍の量も質も減ったことにより、早い段階で自陣の防衛区域内を占める敵兵を殲滅するに至ったそうだ。
その背景にはドルマック組が沖に停泊していた敵船団に大規模な攻撃を仕掛けて壊滅させてしまったことが大きく関わっている。それは後から判明したことだけれど。
なぜなら、魔族軍の兵隊は魔力や念波を受け取る受信機と思われる特殊な魔道具装着した歩兵が大部分を占めていて、ある瞬間に一斉に彼らの動きが乱れてしまったからだそうだ。それはおそらく、彼らを操る魔法の念波を飛ばしていた指令者が死亡した為に他ならない。
オレとナノが連れていかれそうになったエンデとカンデを守るために戦った魔族斥候の奴も何か付いていたもんな、と思い出した。
一方、サーモアン側ではサカネから流れてきた敵主力部隊との激しい交戦が長く続くことになった。そしてこちらもサカネ同様に大打撃を受けてしまった。
「戦死者数はどのくらいなんだ?」
ガンクが恐い顔で訊く。イルマは、「正確な人数はまだ出ていないが、俺が聞いた人数じゃ五百名に近い……」と答えた。
イルマは決して自らの行いをひけらかすような自慢はしなかった。けれど、サーモアンのどの地区で交戦が激化しているかの把握や死傷者への適切な指示や的確な指揮で全体が機能しなければ、被害も状況ももっともっと悪くなっていたとオレは思う。
さすがイルマだ、頑張ったんだな。オレはイルマを褒めてやりたい。
ナノも強力な魔法でしっかりと貢献していたそうだ。
ナノはレームスさんの連れのサーモアン防衛に割り当てられた人達と組み前線に向かったという。剣を振り回していたり槍や斧や弓を使っている人達の後ろに隠れながらとんでもない魔法をぶっ放してるナノの姿がオレの目に浮かんだ。
しかし、敵魔族軍の勢力も予想以上に凄まじく、拮抗状態が続いていく中、終止符を打ったのが町から町へ戦場を駆け巡っていたギャンダンさんとドルマック組の”星剣士サクスティー”だ。
まずギャンダンさんはサカネの防衛に尽力した後、頃合いを見計らいサーモアンに移動すると押し寄せて来ていた魔族軍を薙ぎ払っていた。しかし、単身で囚われの町の住民と敵魔族軍幹部と思しき者をミョウビシへ連れ帰ったといるサクスティーの報を受けたギャンダンさんは、彼らを引き受けるためミョウビシまで戻ったという。
囚われの人々を安全な場所へ移し敵幹部を幽閉した後、サクスティーと連れ立って未だ交戦継続中のサーモアンへ赴くと、敵の残存部隊を全滅させ作戦成功へと導いたんだそうな。
だから、今回の戦で市民から一番株を上げたのはサクスティーだったってワケだ。
鮮やかに敵船に乗り込んだイケメン冒険者が悲劇の住民を救い出し、無事町へ送り届けた後には前線へ華麗に返り咲いて敵を果敢に一掃した、それはそれは天晴れなナイスガイ、“星剣士サクスティー”っていう。
オレからしてみればどうでもいいことだけれど。
「納得いかねー」
かたやそう呟いているガンクの評は、少し辛辣なものだ。
仲間のねこ《オレ》が暴走したせいで事態をややこしく掻き回したが、それを見事に終息させた者。当初ドルマック組の敵本隊迎撃支援としてオーシャル海沖に向かう役目も、共に船に乗り込んだヨゴ達志願兵隊の司令を放棄して身勝手な行動を開始してしまった自分本位なリーダーというものだ。
……。
真実はまた違うんだけれどね。
今回またその名を上げたドルマック組がギャンダンさんに説明を加えたせいで(ドルマックとソルノの二人だ)、ガンクはギャンダンさんに悪印象が付いてしまっているようだった。そのせいで、ギャンダンさん直々の謝辞を受けたのはガンク組のリーダーのガンクではなくイルマだけに留まっている。
ちなみにナノもその場に同席を求められていたけれど、魔力の使い過ぎで寝込んでいた為、ギャンダンさんに会って話を聞いていたのはイルマだけらしい。
ナノは全身虎皮で虎仕様のギャンダンさんを虎オヤジと呼ぶ。
「アタシそれで良かったわよ。だって虎オヤジ嫌い。追い詰めてたアタシの獲物奪うし。
しかも聞いてよ。手柄横取りしといて、『助けに来たぞ。危ない所だったな』なんつって歯をキラーンってさせるのよ。ウザ過ぎ!」
ナノの嫌いなタイプのようだった。
それに対してサクスティーの方はというと、魔力枯渇させてしまい千鳥足気味のナノを颯爽とお姫様だっこで担ぐと、サーモアン治療所へ全速力で走ったという。そんなエピソードを体をくねらせて語った。
「”星剣士“? 違うわ。彼は”星の王子様“よ…」
オレはナノのことを初めてキモいと思ったぞ。
あんなカッコ付けのキザ男のどこがいいんだか。でも瞳をキラキラさせているナノは乙女だな。あーいうのが好きなのかな。うん、キモいな。
気になっていたエンデとカンデのことだけれど、激戦の町の中で二人とも無事で、二人のママにも友達にも再会出来たそうだ。
良かった。浜辺で石を積み上げて祈りを捧げた甲斐があったね。ずっと気にかけていたから、お父さんのことは残念だけれど二人の願いが叶って本当に良かった。
さて、もう一つ気になるのはことの発端だ。何故魔族軍がアーバイン王国へ侵攻の魔の手を伸ばしたのか?
そして首謀者は?
それらや背景などは現在ギャンダンさんが精力的に調査を進めている。
捕虜として捕らえた魔族軍幹部から情報を引き出せるし、帝国領からの使者や帝国魔族間の軍事事情に詳しい者,魔族について博識深い稀有な有識者や過去の侵略戦争に精通している歴史オタクなど、さすがギルドマスターだけあってギャンダンさんは多方面にツテを持っているのだ。
ことの次第によればそれは国家間の軍事機密に関わるような重大次項に抵触するので、詳細はオレ達へ開示されるかどうかは未定だという。
「なあ、それって無くねぇか? だってオレ達は最前線で剣を振るってた中核部隊だろ。情報を開示してくれるもんじゃねーかと思うんだよ」
ガンクはいちいちギャンダンさんに否定的な意見を主張する。
でもオレもそれには賛成だな。当事者として知っておきたいものだから。
「うむ、おそらくではあるが問題なかろう。
さすがに調査結果が出るまでメールプマインに留まり続けることは難しい。しかし、ギルド伝いにその結果を知る術があると聞いた。
たとえこの先俺達が帝国領へ渡ったとしても、その地のギルドで結果を受け取れるという訳だ」
「え、どういうこと? 帝国にもギルドがあるの?」
「そういうことだ」
ナノにイルマが顔を縦に振る。
ギルドは国に属さない自由組合のため、国を越えた組織として成り立っているという。だからアーバイン側でも帝国側でもメールプマインのギルドマスターであるギャンダンさんの名前を通じてその調査結果を知ることが出来るそうだ。情報を得るためわざわざメールプマインに戻って直接顔を合わせる必要が無いって訳だね。ラクだ。
かといって機密次項なので、いくら情報の取扱いにこうるさいギルドでも簡単に全支部へ流せるような代物じゃないことも分かる。大きな所くらいだろうか。
屋上からビルの下を見下ろすと、一階の食料品店の店先では人集りが出来ている。軒先に並んだ弁当コーナーにお昼を求めた近くの人達が殺到しているのが分かる。一階の奥では今も倒れそうになりながら厨房に立つ犬人達が奮闘しているのが想像出来た。
早くそんな生活から抜け出させてあげないとな。
「ちと長くなってしまったな。昼時だが、場所を変えるか?」
イルマがご飯を食べる仕草をした。
「賛成! ランドちゃんの快気祝い兼ねて豪勢なものにしよう」
「そうだな。でもランド、動いて平気か?」
オレは尻尾を振りながら、身体に負担が掛からないようにナノの肩の辺りにしがみついて立った。
「ちょっと、本当に大丈夫?」
〔これくらいなら平気だよ〕
オレは鳴いてナノに伝えるけど、もちろんナノには「ニャア」としか聞こえていない。
だからオレはナノの目を見て訴えてみる。大丈夫だけど揺れたり大きな振動は痛いよ、と。
「ねぇ! 今アタシ、ランドちゃんとお話出来たよ。
まだ体が疲れてるからアタシに乗ったままがいいんだって」
「ホントかよ」
ちょっと違うけど、まぁいいや。
「よし。小難しい話もランドのこともあるし、落ち着いた個室探して食べよう」




