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11.小川の攻防の後

「弱いもの虐めするなんてアタシ信じらんない。こんなカワイイねこちゃんに」


 イルマに駆け寄ってすかさず頭を叩くナノ。そして弁解するようにオレに謝った。


「ごめんね。このバカ、動物嫌いで。動物も人も嫌いなものだらけのクソぼっち野郎なのよ。可愛い者を目の敵に出歩いてるようなイカレた根暗野郎なの」

「それ以上言うな。それ以上は流石に俺も傷付く」

「イヤよ。いい機会だから言わせてもらうわ。アタシは忘れてないんだから」


 そこからナノの説教が始まった。


 幼少時にナノの落としたぬいぐるみを踏ん付けてイルマが謝らなかったことから始まり、髪型が変わった事に何の感想も示さなかったことや、最近では疲れた自分をガンクは背負ってくれたのにイルマは手すら貸さなかったと、クドクドと捲し立てている。


  これ、オレ聞いてなきゃいけないかな。ガンクは腰に手を当て、やれやれ、といった雰囲気だ。


「おい、そろそろいいだろ。で、なんでイルマは殺気立ってたんだよ」

「お前達はこのねこの罠にかかっている。こいつは魔物だ。俺の魔力感知に反応した」


 驚く顔のナノと、へぇと顎に手をやり物珍しそうにオレをじぃっと観察するガンク。そんなに見られるとな、気まずいぞ。オレは居住まいを正した。


「まぁ、いいだろ。よく見てみろよ。

 魔物だろうが化け猫だろうが、コイツに悪意は無さそうじゃねーか。目がクリッとして可愛気あるよ。きっと害は無い」

「でしょでしょ、そうでしょ! ガンクの勘は当たるのよねー」

「な、正気か? コイツはかなり強いのだぞ。危険な魔物だ。俺の矢の全てを避けていることからもだな……」

「その割にはさっきからずっと大人しいじゃんよ。全然襲いかかって来ないしさ。キケンのキの字も全く感じないねこちゃんだぜ」


 オレは首を盛大に縦に振るう。そう、人畜無害、公明正大、家内安全、商売繁盛。心優しきねこちゃんだよ。


 パーティ内の二人からの反論に窮するイルマ。押され気味だな。


「むぅ、しかし! 我々は魔物を駆除する立場にある。魔物と知りながらこの村に放置し見逃す訳にはおけん。職務放棄として冒険者ギルドから最悪除名も免れん」

「んー、それも確かにマズイわね……」


 あれれ、一気にイルマが形勢逆転か。どうしよう、呑気に首を掻いてる場合じゃないな。


「……よし。じゃあこうしよう。このねこは俺達が身を預かる。イルマが言うように本当に人間に被害を出すような邪悪な魔物だったなら殺す。

 どうだ、これでいいんじゃねーか?」


 「賛成!」と、はしゃぎ跳ねて喜ぶナノ。イルマは詰め寄り「納得出来ん、考え直せ」と、ガンクの服の柄を掴んで揺さぶる。オレはそんな彼らを呆気にとられて眺めていた。


 預かる、だって?


「それにコイツ、多分だけど俺達の会話解ってそうな気がする」


 うん、ぜーんぶ理解出来てるから、激しく今動揺してるよ。


 オレの身を預かるってことは、オレをこの村から連れて出て行っちゃうってことで、つまりオレは、リルともユーノともゴートともマズマとも、村の皆とお別れしなきゃならないの?


 でもそうでなきゃオレは殺される……



「おい、お前、俺達の言葉解ってんだろ」


 慎重にオレは頷く。考えはなかなか纏まらない。


「ほら、な」


 ドヤ顔で笑うガンク。


「解るならよ、お前をこの村に残すのは出来ないんだ。魔物は排除対象なんだよ」


 これにも頷く。


「お前はこの村のボスねこか?」


 ううん、違うよ。首を振り否定する。さっきから横でナノが「キャー」とか、「カワイイ」とか叫んでいる。イルマはがっくり項垂れている。


「じゃあこの村のボスねこはどこだ。そいつも魔力持ちか?」


 オレはしばらく考える。マズマ師匠の事が知れたらマズイと直感が騒ぐ。師匠は負けないにしてもケガしてほしくないし迷惑かけたくない。


「どうだ、魔力持ちはお前だけか。お前以外もいればそいつは殺すことにするが」


 オレは嘘を付いた。大きく首を前後に振るう。


「そうか。ちょうど良かった。さっきから後ろにいるデカイ縞ねこがボスかと思ってたんだよ」


 オレはここでやっと少し離れた背後にマズマ師匠が来てくれていたことを知った。オレの元へいつでも飛び駆けていけるような臨戦態勢で身体全体に魔力を漲らせていた。


「俺は仲間を裏切るような屑は嫌いだ。俺の仲間にも必要ねー。危うくこの村全部のねこを殺して回らなきゃならねぇとこだったよ。お前を飼ってる家族も尋問対象になるし、そんな仕事は俺もご免だ。胸糞悪ぃし」


 マズマ師匠がゆっくり警戒を払いながらオレの横に陣取って座った。対岸の冒険者達に視線を張り付けながらオレに詫びる。


〔ちと来るのが遅くなっちまった。すまねぇ〕


 いいんだよ。大丈夫だ。



 ガンクがマズマに問い掛ける。


「よー、お前この村のボスねこだろ。魔力無しのボスねこでいいよな。横のちびをウチに貰ってくことにするが、いいよな」


 マズマは微動だにしない。歯を噛み締めてるようだ。


「俺は決めたから。まだ俺の一方的な、勝手な話だけどな」


 チラリと、マズマが俺を一瞬だけど見やり言う。


〔おい、お前がやるなら俺もやってやるぞ。どうやら奴等、かなり強いみたいだが、お前を守ってやる〕


 いいんだよ。無理はやめてよ。それにマズマはこの村のボスだから他のねこも守ってあげないと。


〔馬鹿野郎! だからってみすみすお前を奴等に渡せるかよ、ふざけてんじゃねーぞ〕


 いいんだってば。ちょうど冒険がしたかったし、村の外の広い世界も見たかったから。店の皆にも迷惑かけたくないんだ。


「おい、そろそろ話は纏まったか?」


 ガンクが言うなり、あっ、と叫ぶ間にマズマが彼に飛び掛かる。師匠の最速スピードだ。


 瞬時の出来事だったけれどオレは見逃さなかった。マズマを傷付けないようにガンクは剣の腹でマズマの身体を受け止めると、勢いそのまま後方へ受け流し弾き飛ばした。


 受け身を取れずに痛そうに悶えてるマズマをチラリと見やり、「すっげぇ速さ。焦った」と安堵するガンク。その顔はまだ少年のように幼くも見える。


 オレは水面を蹴り対岸の岸に着くと、ガンクの前に座った。


 怖いけど、こいつらは悪い奴らには思えない。それにマズマ師匠が立ち上がれば今度こそ全力で死に物狂いで仕掛けるハズだ。


 そんなことになれば、もう何もかも手遅れになっちゃう。本当に敵として、魔物として扱われちゃう気がした。ゴート達にだってきっと悲しい思いをさせてしまう。


 剣を腰の鞘に終い、オレの瞳をじぃっ、と見つめガンクは笑む。


「俺達と一緒に冒険しようぜ」


 うん。よろしくな!


 オレも新しい仲間に笑みを返し鳴いた。


 大好きなみんなを守るために悲しませないように、オレは精一杯強がって見せた。

ご指摘を受けましたので、捕捉という形でご説明を加えます。


一応この物語の中では魔物や魔力を有する動物などは、こと冒険者の天敵であり討伐対象と見なされてしまいます(ナノはランドの見た目の可愛さから保護する立場に回りましたが)


あと、仲間にして連れていこうとするガンクに、「よろしく」と答える描写がありますが、そうでもしないとマズマを討とうとするガンク達を慮っての応答のつもりです。(ねこのちび自身村の外の世界に興味があることも作用していますが。)


分かりにくくて申し訳ありませんが、引き続きこの先も読み進めてもらえると嬉しいです。



16.08.17


大筋は変えてませんがちょっとだけ修正しました。

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