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10.小川での攻防

「こんにちわー」

「あ、この前の。いらっしゃいませ」


 リルが座席へ案内する。この前の冒険者3人組だ。確か、ナノ,ガンク,イルマって名前だ。


 死んでなかったんだ、とオレは安堵する。あれっきり久しく見なかったし。不謹慎かもしれないけど。リルも同じ事を思ってたのかな。ほっとした顔をしてる。


「ご無事そうで安心しました。魔物退治はどうでしたか」

「私達にかかればちょちょいのちょいなのよ」

「そんなに強くなかったな。ちょっと数が多くて手を焼いたけどさ。殲滅はしきれてないけど、あと少しってとこだ」


 リルは空いてる席へ彼らを誘導する。


「そうでしたか。商人さん達も腕の良い冒険者が来てくれて助かったって言ってましたよ。街道が安全に通れるって」


 オレは顔を魚の切り身へ、眼は彼らの方に向けて食事している。リルは注文を取ってゴートに伝える。



 この人達結構強いパーティだったんだ。見かけにはよらない、ていうのかな。


「あ、でもね、ボスがなかなか見付からないのよ。だからまだ完全に安全とは言えないのよね」

「だな。街道の通行は大丈夫と言えるんだけど、巣穴が見付らないことにはな」

「そうなんですか。じゃあまだ油断は出来ないんですか?」


 オーダー表を抱きしめ顔を曇らすリル。


「それがね、最初に発生した人喰い蛾はやっつけたんだけど、次にでっかい芋虫みたいなのが……」

「オイ。余計なことを伝えるべきじゃないぞ。不安にさせてどうする」

「あ、そうか。ごめん」


 ナノがリルに頭を下げる。突き出した手の平を慌てるように振るうリル。そんなに恐縮しなくても、とオレは思う。


「いいですよ。私は村の外へ出ることはありませんから。平気ですよ」

「なら安心ね。

 この村への被害はあんまり無いよ。困るのは街道を渡る商人くらいなもんよ」

「また余計なことを。まあいい。まだ終わってはいないから、己に被らぬ危険であったとしても決して気を許さぬことだ。用心に越したことはないからな」

「大丈夫だって。もーすぐだろもーすぐ。俺がさっさと見付けて、ぶった切ってやるよ」


 人食い蛾にでっかい芋虫か……。どんな姿なんだろう。興味湧くなぁ。



 三人組の中で紅一点、おしゃべりで明るいこのパーティのムードメーカーなのはナノだな。前と同じ青いローブを着ている。今日は木の杖を持っているし、まず魔法使いと見て間違いないなさそうだ。


 ナノの言動に注意のツッコミしてるのがイルマって男だ。店内を頻りに見渡して何か探してるのかな。あ、目が合った。睨まれたぞ。こっちを見てなんか怪訝な眼をしてる。怖い。なんだ?


 自信満々な顔して元気いっぱいの少年って感じなのがガンクか。今日もツンツン頭だ。肉料理に偏った注文してるよ。お腹減ってんだろうな。何皿も頼んでそんなに食べれるのかな。



 うーん、彼らを観察していたいけど。なんとなく居心地が悪いや。


 オレは美味しいご飯を食べ終わると村の小川にやって来た。これから午後の特訓をするのだ。


 水面に映る自分の顔を眺める。黒い小さなねこだ。眼が真ん丸に爛々と輝いている。



 オレも彼ら冒険者達みたいに周りから頼られてみたい。バッタバッタと敵を倒して困っている人を助けて、「ありがとう」って喜んで貰えたら嬉しい。照れちゃう。



 とりあえずの魔物として巨大な鼠と奮闘して、やっとのことで勝利するイメージをしてみた。口元を綻ばせる。


 よし、やるぞ。気合いを入れて小川に入水した。


 すいすいと水中を進んでいく。水鳥もびっくりな泳ぎっぷりだ。


 えっへん。だいぶ泳げるようになったんだ、凄いでしょ。



 コツを掴めば簡単なものだった。遮二無二もがいて暴れるのは一番の暴挙だ。自分と水を同一化するような、融合させるようなイメージを心掛けるようにする。


 そうするとほら、水中でも楽に移動出来るし川上へだって進める。潜って川底を嘗めたりも出来るし泳いでる魚だって捕まえられそう。


 マズマ師匠は水中でここまでは出来ないから、オレ凄いでしょ、って威張れるんだよな。




 うわぁ!


 いきなり背後から矢が飛んできた。なんだなんだ?


 突然の事で大慌てだ。ていうか、緊急事態だぞ。


 急いで背後に向き直るけど誰もいない。いつもの村の風景だ、日差しの穏やかな長閑な午後……、と思いたい。けど、明らかに怪しい気配を感じる。オレは神経を集中させていく。


 うわぁ!?


 またしても矢がオレを襲った。今のは本当に危なかったぞ。


 敵は誰だ? 何処にいる?


 オレを狙って攻撃してきたんだよな? なんで、どうして!?




 やがて姿を現したのはイルマだった。


 前方の視界に集中していた矢先に背後から物音がしたら驚いて振り返るよね。後方へ石を投げて前方不注意の獲物へ必殺の矢かよ。本当にどうにかよけれたから良いけど、今オレ死んでたかもしれないぞ。


「ほぅ、これを避けるか、魔物め」


 え、 魔物? どこにいるの、近く?


「何をキョロキョロしている。その人懐っこい姿で村に潜み何を企む」


 え……、それオレのことを言ってるの? ええ!?


 もしかしてオレが魔物だって言ってるの??


 長い黒髪を後ろ手に縛り纏め、冷たい顔と声で死の宣告を告げるように言うイルマ。


「死ね」


 うわ、剣抜いたよ。やべぇ。


 急いでオレは動きやすい陸地へと移動する。身体に付いた水を振るう暇が無い。ベショベショのままで走る。

 

 イルマの初戟を横にかわし、水面を蹴り反対の川岸に逃げる。驚いてる様子だけど矢継ぎ早に矢を撃ち込んでくる。オレは飛んできた矢を身を捩って避け続ける。



 なんでだ、どうしてオレが冒険者に襲われることになったんだ。


 さっき店でこのイルマと目が合った瞬間、こいつは獲物に向ける鋭利な眼に変わった。そんな気がする。だから変な空気になっちゃって、あの場に居づらくなったんだ。


 どうしてだ。なんでこんなことをするの? オレはかわいい子ねこちゃんだってのに。



 前にマズマ師匠が言ってた事を思い出す。それは自身の内側に魔力の種をやっと捉えて、それからしばらくした頃のことだ。


〔お前は神経を集中させると魔力が増幅する。普通はそれで正常なんだが、まだ拙く操作が甘い。制御しきれずに自分の意思に連動せずに魔力が溢れ出てきてるみたいだ〕


 魔力に気付かれてオレのことを魔物だと思ったのか。勘違いだ!


 そういえば、師匠はこうも言っていたぞ。


〔俺達が何故真夜中に村を抜け出し、村の外で魔力の訓練するかってのはな。動物が魔力を持ち操れば人間にとって敵になるからだ。危険度の発生する魔物に俺もお前もなっちまったってわけだ〕


 嘘、オレは敵として見られてるってこと?



 イルマは冒険者だ。魔物を狩り討伐するのが仕事だ。ヤバイ展開だぞ、これ。どうしよう。

 オレは人間に敵対しないよ、絶対に。人畜無害なただの魔力を持ったねこだよ。



「チッ、すばしっこい奴だ」


 苛立ちながらイルマは矢を放ち続け、手裏剣みたいな武器を投擲しては怨めしそうにオレを睨んでくる。


 川を挟んでるお陰でなんとか事無きを得ているけど、このままじゃジリ貧だ。いつかのタイミングで殺されてしまうかも。反撃しようかな……。


 オレの魔法の十八番は【物質操作(+変換)】と【身体強化】だ。


 マズマ師匠は【物質操作】なんて聞いたことも見たことねぇ、なんて驚いていたけど、それが出来るんだから、しょうがない。


 【物質操作】と【物質変換】を使えば不安定な水面を固めてひょいひょい渡れるし、川を泳ぐも水中を潜るも楽々だ。

U 【身体強化】はマズマ師匠と同じ。魔力を循環させて高速移動も強力な攻撃も出来るのだ。


 これがオレにとって初めての実践だ。どんな結果になるのか試したい欲求に駈られていく。闘争本能がざわつく。


 やってやろうかな。舌をペロリと舐める。



 ……いや、ダメだ。


 攻撃すれば、オレは本当に人間の敵になっちゃう。それはダメだしそんなの嫌だ!


 魔物になってたまるか。それだけはなんとしても避けたい。



 木々のある対岸と違ってこちら側は広い野原になっている。隠れる場所はどこにもないし後ろへ逃げれば矢が飛んでくるだろう。


 うーん、本当にどうしよう。攻撃したら、正当防衛になるかな。許してもらえるかな。


 オレは魔力を込め始める。



「こら、イルマ。あんた何やってんのよ」

「どこに消えたと思ったら、俺達を置いてくな」


 ナノとガンクが駆けてきた。

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