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第16話 巡礼する意識と贄の系譜

1.世界を繋ぐ回路


偽りの救世主・オルタが霧の中へ消えた後、神殿には重苦しい静寂が戻っていた。凪と明日美、そして残された四人の末裔たちは、互いに武装を解きながらも、張り詰めた緊張感の中で対峙していた。


「……対話だと?我々にオメガを裏切れと言うのか」


アーサーが、剣を収めながらも鋭い視線を向ける。彼の背後には、未だ消えぬ「断絶」の盾が揺らめいている。


「裏切る必要はありません。ただ、聴きたいのです」


凪はEgo Cube「鏡面ミラー」を穏やかに浮遊させ、神殿の床を指差した。


「貴方たちがなぜ、それぞれの国で「異端」とされ、オメガに救いを求めたのか。……その根源にある背景を」


「背景……?」


シャオが小首を傾げる。


「ええ。この神殿は、自己修復された「無限の記憶」の中枢です。そしてオメガは、ここを起点に世界中に「エゴ・コア」を配置し、ネットワークを構築しています」


凪は言葉を続ける。


「僕の「鏡」で貴方たちの記憶を反射し、明日美の「海」で接続を安定させれば、エゴ・コアを逆流して、貴方たちの「故郷」へ意識を飛ばすことができるはずです」


「……私たちの過去を、追体験しようと言うの?」


エルザが鼻で笑う。


「趣味が悪いわね。私の故郷なんて、火薬と血の匂いしかしないわよ」


「構いません。……僕たちは知らなければならない。オメガが何を利用し、何を統合しようとしているのかを」


凪の真剣な眼差しに、四人の末裔たちが顔を見合わせる。やがて、盲目のラシードが静かに進み出た。


「……良かろう。心の目は、言葉よりも雄弁に真実を語る。我らの痛みを知ってもなお、対話を望むと言うなら」


ラシードが承諾したことで、他の三人も渋々ながら同意した。凪と明日美は、四人と円陣を組むように立ち、それぞれのEgo Cubeを共鳴させる。


「行きます。……世界を巡る、巡礼の旅へ」


凪が鏡面を展開すると、神殿の景色がホワイトアウトし、意識は急速に地球上の座標へと吸い込まれていった。


最初に景色が結像したのは、石畳が冷たく光る、歴史ある欧州の城塞都市だった。だが、そこは美しい観光地ではない。空は重たい鉛色に覆われ、広場には巨大な「断頭台」のような処刑器具が設置されている。


「ここは……私の故郷だ」


アーサーが、苦々しげに呟く。彼の姿は、甲冑姿の守護者ではなく、鎖に繋がれた一人の青年の姿になっていた。


「この国では「秩序」こそが絶対の正義だ。伝統、格式、血統。それらを乱す者は、たとえ英雄であっても排除される」


凪と明日美は、広場を取り囲む群衆の中に立っていた。人々は無表情で、処刑台を見上げている。 そこに引き立てられたのは、かつて国を救ったはずの騎士。若き日のアーサーだった。


「彼には、異能の力が宿っている!」

「秩序を乱す悪魔の因子だ!」

「排除せよ!我らの平穏のために!」


群衆の罵声が響く。アーサーは、誰よりも国を愛し、その特殊な「断絶」の力を使って外敵から人々を守ってきた。だが、平和が訪れた途端、人々は彼を恐れ始めたのだ。自分たちとは違う、理解できない力を持つ「異物」。それが存在するだけで、彼らの安寧な秩序が脅かされると感じたのだ。


「……私は、彼らを守るために戦った。だが、彼らが守りたかったのは私ではなく、「変わらない日常」だけだった」


アーサーの幻影が、悔しげに拳を握る。


「秩序を維持するためには、共通の「敵」が必要だったのですね」


凪が静かに言った。


「貴方は、そのための生贄にされた」


「……そうだ。処刑の前夜、オメガが現れた。「その力を、正しく評価する場所がある」と。……私は、祖国を捨てたのではない。祖国に捨てられたのだ」


凪の鏡に、アーサーの孤独な背中が映る。明日美は胸を痛めながら、その光景を見つめていた。 (……正しいことをしたのに、それが「特別」というだけで排除される。……父、真澄が深海家から明日美を遠ざけた理由と、どこか似ている)


景色が歪み、次は極彩色のネオンが輝く、アジアの巨大電脳都市へと切り替わった。空を埋め尽くすドローン、行き交う人々にはARグラス越しに常に「数値」が表示されている。


「ここは私の国よ。……効率と最適化を正義とする都市」


シャオが、無機質な高層ビルの屋上で足をブラつかせながら言った。彼女の姿もまた、あどけない少女の姿に戻っている。その手首にはQRコードのようなマークが刻まれたブレスレットを着けていた。


「この国では、生まれた瞬間に遺伝子と才能が解析されてランク付けされる。……ランクの低い人間は、高い人間のための「部品」として扱われるよ」


シャオは、最高ランクの頭脳を持つ「特待生」だった。彼女の演算能力は、都市のインフラを制御し、経済を回すために酷使された。だが、彼女は「感受性」が高かった。計算だけでは割り切れない、人間らしい情愛や優しさ。それが、この管理社会では「バグ」と見なされた。


「エラー検出。個体名シャオ。……感情係数が規定値を超過。演算効率低下の恐れあり」

「再教育、もしくは廃棄を推奨」


冷徹なAIの審判が下る。シャオは、隔離施設へと送られることになった。そこは、社会の歯車になれなかった「不良品」たちが、最後のエネルギーとしてリサイクルされる処分場だった。


「私は逃げた。……都市のシステムをハッキングして。でも、居場所なんてどこにもなかった」


シャオが寂しげに笑う。


「……オメガは、貴女のその特性に居場所を与えてくれたのですね」


凪が問うと、シャオは頷いた。


「オメガは言ったよ。「お前の特性で、世界を最適化してみせろ」って。……ここでは私がルールになれる。誰にも廃棄されない、私の考えを具現化できる」


凪は、自身のEgo Cubeを通して、この都市の光景を記憶に刻んだ。高度に発達した文明。だがその裏で、システムに適合できない弱者は、社会の維持コストとして切り捨てられている。形は違うが、本質はアーサーの国と同じだ。

どこの世界にも「生贄」のような考え方が存在するようだ。



2.選別される命の数値


三度、景色が変わる。熱風が吹き荒れる砂漠の遺跡。そこには、崩れかけたモスクがあり、痩せこけた人々が祈りを捧げていた。


「……ここは、神に見放された地だ」


ラシードが、砂塵の中で膝をつき、祈っている。彼の目は白濁し、光を失っているが、その周囲には陽炎のような「幻影」が揺らめいていた。


「この地では、貧困と争いが絶えない。人々は現実に絶望し、救いを求めて信仰にすがる。……だが、祈りで腹は膨れない」


ラシードは、生まれつき目が見えなかったが、人の心の色を見る「心眼」と、人々に希望の夢を見せる「幻惑イリュージョン」の特性を持っていた。彼はその力で、餓死寸前の子供たちに満腹の夢を見せ、傷ついた兵士に天国の幻を見せた。人々は彼を「預言者」と崇め、彼に縋りついた。


だが、それは長くは続かなかった。権力者たちは、民衆が自分たちよりラシードを崇拝することを恐れた。


「あれは悪魔の術だ」


「偽預言者を殺せ」


権力者はラシードを異端として捕らえ、公開処刑しようとした。


「……私は、ただ彼らに安らぎを与えたかっただけだ。……だが、彼らが求めたのは「真実の救済」ではなく、都合の良い「麻薬」としての奇跡だった。私は国外へ追放され、そのとき救いの手を差し伸べてくれたのがオメガだった」


ラシードの声には、深い悲しみが滲んでいた。


「オメガは、貴方に「本物の神」を作る機会を与えた……ということですか」


明日美が問いかける。


「そうだ。……人の心は弱い。ならば、強制的に統合し、迷いのない世界を作るしかない。……それが、私がオメガに賛同した理由だ」


三つの世界を巡り、凪たちの意識は一度、白い神殿へと戻りかけた。だが、凪はその「接続」を維持したまま、四人に向けて語りかけた。


「……見えてきましたね。貴方たちの背景にある共通点が」


凪の言葉に、アーサー、シャオ、ラシードが顔を上げる。まだ語っていないエルザも、何かを感じ取ったように沈黙している。


「秩序、効率、信仰。……どれも社会を維持するために必要なものです。ですが、それを絶対化するために、必ず「異分子」を排除しようとする力が働く」


凪はEgo Cubeを展開し、三つの世界の映像を空中に投影して重ね合わせた。


「貴方たちは、その社会の歪みを一身に背負わされた「生贄」だ。……そしてオメガは、その「排除された恨み」と「特別な能力」を利用するために、貴方たちに接触した」


「……だから何だと言うのだ」


アーサーが低い声で言う。


「利用されていることなど百も承知だ。だが、我々にはそこしか行く場所がなかった。……世界が我々を拒絶したのだから!」


「いいえ。……世界が拒絶したんじゃない」


明日美が一歩前に出る。彼女の「母なる海」が、三人の悲痛な記憶を優しく包み込む。


「……あなたたちは、誰よりもその国を、人々を愛していたのね。……だからこそ、裏切られたことが許せなくて、悲しくて……。その反動が、今のあなたたちを縛り付けている」


明日美の言葉が、彼らの頑なな心の殻に染み渡っていく。憎しみではない。彼らの根底にあるのは、受け入れられなかった「愛」の残骸なのだ。


「……私たちが、新しい場所を作るわ。……誰かを犠牲にしなくても、違いを認め合える場所を」


明日美が手を差し伸べる。その手が、彼らに届こうとした、その時だった。


「そこまでだ」


神殿の空気が凍りついた。頭上に浮かんでいた巨大な「眼球」が、どす黒く変色し、血走ったように脈打ち始めた。


「それ以上踏み込むことは許されない」


響き渡る祖父・深海源の声。それと同時に、始まりの女性の末裔たちのEgo Cubeから、強制的な「拒絶」のスパークが走った。


「ぐあぁぁぁッ!?」


アーサーたちが頭を抱えて苦しみ出す。オメガにより、彼らのCubeに埋め込まれていた「拒絶プログラム」を強制起動させたのだ。


「彼らは生贄ではない。……世界の崇高なる計画に必要な要素だ。……これ以上の対話は不要。彼らの自我を閉ざし、純粋な器として再起動させる」


「やめろッ!!」


凪が叫ぶが、黒い雷光が四人を貫いた。

彼らの瞳から、理性の光が消え失せていく。残ったのは、目に見えて感じる破壊衝動と殺意。


「さあ、異物を排除して明日美をこちらに連れてくるのだ。……「共感」などという甘い幻想などに浸っている場合ではない」


オメガの嘲笑と共に、正気を失った四人が、一斉に凪と明日美に襲いかかる。分かり合えそうだった心は、再び強制的に分断された。


「ガアアアッ!! 消エロ! 排除、排除ォッ!!」


白亜の神殿は、四人の放つ無差別な攻撃によって崩壊寸前だった。アーサーの断絶剣が空間を裂き、シャオの計算された罠が爆発し、ラシードの幻術が精神を蝕む。そして何より、エルザの「爆砕」の火力が、戦場を紅蓮の地獄へと変えていた。


「くっ……!物量が多すぎて処理が追い付かない!彼らに刻まれている拒絶プログラムの原理は、太陽さんがGaeaの「命を奪うチカラ」を使って僕に新たな「基準点ゼロ」を刻んでくれたことと理論は同じはずだ……それを解析する」


凪は、Ego Cube「鏡面ミラー」をフル稼働させ、四方八方から迫る攻撃を紙一重で弾き返していた。だが、今の凪の目的は「勝利」ではない。彼らのEgo Cubeに刻み込まれたオメガのプログラムを解析し、解除コードを見つけ出すことだ。攻撃を防ぎながら、同時にナノ秒単位で変化する彼らのCubeにハッキングを仕掛ける。それは、針の穴に糸を通すような極限の集中力を要する作業だった。


「お兄様、焦らないで!攻撃は……私が全部引き受ける!」


凪の背後で、明日美が叫ぶ。彼女のEgo Cube「母なる海」は、神殿全体を覆うドーム状の結界となり、四指の猛攻を一身に受け止めていた。爆炎が、斬撃が、悪意の波動が、彼女の青い海に突き刺さる。そのたびに明日美の顔が苦痛に歪み、Ego Cubeに衝撃が走る。


「明日美!……無茶だ、それ以上は君のCubeが持たない!」


「平気よ……!彼らの痛みは、もっと深いはずだもの。……それに、信じてるから。お兄様なら、必ず「鍵」を見つけてくれるって!」


明日美の献身が、凪の迷いを断ち切る。


(……そうだ。僕はもう、無力な子供じゃない。守るべきものを守るために、僕は王になる覚悟を持ったんだ)



3.巡礼する意識と贄の系譜


凪の瞳が、銀色の輝きを増す。


「Spell「万華鏡カレイドスコープ」……並列解析パラレル・アナライズ!」


凪の周囲に浮かぶ無数の鏡が、四人それぞれの「心の深淵」を映し出すモニターへと変化した。 アーサーの孤独、シャオの絶望、ラシードの盲目。解析率は90%を超えた。あと一人。最も激しく暴れ、最も深く心を閉ざしているエルザのコードだけが解けない。


「ナゼダ!ナゼ壊レナイ!私ハ最強ダ!誰ニモ負ケナイ力ヲ手ニ入レタハズダァッ!!」


エルザが狂乱し、Ego Cubeを展開させ兵器を具現化する。それはもはや火砲ではない。彼女の全身を覆う、巨大な「鋼鉄の巨人」のような鎧へと変わった。全てを粉砕する暴力の権化。


「……見えました。彼女の記憶の座標が!」


凪のEgo Cubeの自己一致率が100%を超えて、他者のEgo Cubeへの干渉を始めた。


エルザの攻撃の隙間を縫い、鏡を彼女の懐へと滑り込ませた。鏡面に映し出されたのは、荒廃した北米のスラム街。暴力と貧困が支配する、コンクリートのジャングル。


そこに、一人の痩せこけた少女がいた。彼女は、瓦礫の下敷きになった弟の手を握り、泣き叫んでいた。


「誰か!誰か助けて!この瓦礫をどけて!」


だが、通り過ぎる大人たちは誰も見向きもしない。ここは力がすべての世界。弱者は助ける価値もないゴミだ。


弟の手が冷たくなっていく。少女は、自分の無力さを呪った。


(……力が欲しい。誰にも踏みにじられない、誰にも奪われない、絶対的な力が……!)


その願いに応えたのが、オメガだった。


「力をやろう。その代わり、お前の「弱さ」である心(感情)を捨てろ」


エルザは心を捨て、兵器となった。守りたかった弟の記憶さえも、「弱さ」として封印して。


「……違う。貴女が本当に欲しかったのは、破壊の力じゃない」


凪は、巨人の拳を鏡で受け止めながら、叫んだ。


「貴女は、ただ「守る力」が欲しかったんだ!瓦礫を退け、弟を抱きしめるための手が!」


「黙レェェェェッ!!」


エルザの巨人が咆哮し、凪を押し潰そうとする。


だが、その瞬間。青い光が、巨人の装甲をすり抜けた。明日美だ。彼女は結界を解き、むき出しの生身(意識体)のままエルザの懐に飛び込んだのだ。


「明日美ッ!?」


明日美は、巨人の胸、エルザの本体がいる場所に向かって、優しく手を伸ばした。


「……悔しかったのね。……もう、壊さなくていいのよ」


明日美の手が、鋼鉄の装甲に触れる。Ego Cube「母なる海」の波動が、エルザが封印していた「弟への愛」と「喪失の悲しみ」を呼び覚ます。


カシャン……。巨人の動きが止まる。鋼鉄の装甲が、砂のように崩れ落ちていく。中から現れたのは、軍服の女戦士ではなく、あの日、弟を失って泣いていた小さな少女の幻影だった。


「……あ……ああ……」


エルザの瞳から、ボロボロと涙がこぼれ落ちる。


「……解析完了コンプリート


凪には四人のEgo Cubeに刻まれていた、オメガの「拒絶プログラム」を消すことはできない。

太陽が全てを拒絶していた凪を救った時は、自身の経験してきた「痛み」の感情を凪に共有した。凪は、それを受け入れることで、幼い頃に父から刻まれていた「最強の拒絶」をコントロールするため「受容のプログラム」を自ら構築してきた。

彼らのCubeにそれをコピーすることで「拒絶の感情」を自分の意志でコントロールできるようにした。


Gaeaのチカラを使えば、他者のEgo Cubeに新たな基準点ゼロを刻むことができる。極端に言えばこれは「自我の初期化」のようなものだ。その後、過去を受容して新たな原動力となる絶対値(目標)を見つけられれば、再び歩み始めることができる。

ただし、Gaeaのチカラを扱う者が、基準点ゼロを刻む対象の支配を目的とすれば、深層心理に自身では削除できない、新たな根幹プログラムを埋め込むこともできる。

本人の意思に関係なく、彼らのように「命令への服従」を強いることも可能になる。


神殿に静寂が戻った。だが、それは冷たい静寂ではない。嵐の後の、浄化された空気のような清々しさがあった。アーサー、シャオ、ラシード、そしてエルザ。四人は、まるで長い悪夢から覚めたように、呆然と互いの顔を見合わせていた。


「……我々は、一体……」


アーサーが額を押さえる。


「……オメガに、操られていたのね」


シャオが、外れかけていた手首のブレスレットを着けなおした。


「……だが、不思議と不快ではない。心の霧が晴れたようだ」


ラシードが、見えない目で凪の方を向く。そしてエルザは、その場に座り込み、顔を覆って泣いていた。


「……私は……護りたかっただけなのに……壊してばかり……」


明日美がエルザに歩み寄り、そっと肩を抱いた。


「これからは、護れるわ。……その力は、もう誰かを傷つけるためのものじゃない。あなたの大切なものを護るために使えるわ」


エルザが顔を上げ、明日美を見る。その瞳には、初めて「信頼」の光が宿っていた。


「……深海、凪。そして明日美」


アーサーが剣を地面に突き刺し、片膝をついた。それに続き、他の三人も凪たちに視線を向ける。


「貴方たちは、我々を力で屈服させるのではなく、心で救ってくれた。……その高潔さに、我らは敬意を表する」


「我々の命、そしてこのCubeの力。……今より、貴方たちのために振るおう」


かつての敵が、最強の味方へと変わった瞬間だった。凪は、少し照れくさそうに、しかし堂々と頷いた。


「……ありがとう。ですが、僕たちのためではありません。……この世界の「呪い」を解くために、力を貸してください」


その時。神殿の最奥、祭壇のある方向から、地鳴りのような振動が伝わってきた。四人との戦いのエネルギー、そして彼らの「呪縛の解放」による反動が、深層に眠る「なにか」を刺激したのだ。


「……あ……、あぁ……」


頭の中に直接響く、か細く、けれど世界を揺るがすような少女の声。凪のEgo Cubeが激しく反応する。


「……始まったわ」


明日美が祭壇の方角を見据える。


「深淵の少女が……夢から覚めようとしている」


モニター越しの祖父・深海源の声が蘇る。


『少女は限界を迎えている』


どうやら少女に意志が芽生え始めているようだ。だがそれは、無限の記憶に溜め込まれていた数千年分の「泥」が、制御を失って溢れ出すことを意味していた。


「行きましょう。……父さんが待っています」


凪は四人を引き連れ、神殿の奥へと走り出した。そこは、かつて父・真澄が自らを人柱にして封印した、無限の記憶の最深部。そして、この物語の、全ての因果が収束する場所。深海一族の呪いを終わらせるため。そして、深淵の少女を、孤独な夢から救い出すために。


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