09.到着、そして――
「うぉーーー! これが未調査迷宮てやつかァ! すげぇオーラとプレッシャーがビシビシと伝わってきやがるッ! ここからオレのォ伝説が始まるぜェェェ!」
「ロッディ! うっさい! 魔物が近くにいるかもしれないのに大声出さないでよ!」
「……二人とも、静かにしてください。店長、これからどうしますか?」
目的地――前日に構築した即席迷宮――に到着するなり、テンションMAXなロッディとハーリア。
素直に感情を露出させる二人の姿は微笑ましく、私は思わず微笑んでしまう。
カエデも微笑ましくは思っているようで、注意をしても表情は穏やか(ただし、私くらいしか分からない)だ。
「まずロッディは汗を拭いて。セオリー通りなら、迷宮の一階は魔物も少ないし、安全地帯も多いはずよ。だから一階に拠点を敷設して休憩からね。外だと雨風しのげないし、魔物がどこから出てくるか分からないから。迷宮の中なら天井に壁があるし、動線がハッキリしてるから魔物に対する警戒もしやすいわ」
「……すっごい、リーゼさん! 冒険者じゃないのに、すっごく詳しい!」
「あぁ? そんなの冒険者の常識じゃね? ハーリアはいちいち感心しすぎなんだよな」
私の指示に対象的な二人の反応。
まあ、予想通りなので私からは特に何かあるわけではないけれど、私はカエデの様子を窺う。
ピクリ、とカエデの柳眉が動く。じわりと寒気のする何かが彼女から滲み出している。ここに魔王軍四天王が揃っていたのなら、蜘蛛の子散らすように姿を逃げ出しているに違いないわね。
コホン、と私はわざとらしく咳払い。
「一階に拠点を敷設するまでは、先導を店員に任せるわ。あと迷宮調査のパーティー配置も」
「承知しました、店長。まずは探索拠点を敷設。そこで食事をとってから、軽く探索を行います。パーティー配置の調整もあわせて行います。二人とも良いですか?」
「は、はい! アタシは指示してもらえば、その通りに頑張って動きます」
カエデの確認にハーリアは即座に返事する。が、ロッディは両手をズボンのポケットに突っ込みながら、カエデを睨みつける。
顔の汗は拭いたようだが、まだ肩で息をしているロッディ。多少の可愛げはある、かな。
「なんでオレが、下っ端みたいに使われなきゃいけねぇンだよぉ。ここはさァ、オレが仕切る場面だろうがよォ」
「ちゃ、ちょ、ちょ、ロッ――」
「フフフ、なかなか興味深い反応をしてくれますね、彼は」
慌てるハーリアを妖艶な笑みを浮かべるカエデが制する。
せっかく私がカエデの堪忍袋ゲージを減らしてあげていたのに、一気にゲージを溜めるなんて。ある意味、スゴい才能だわ。
ヒトならここで神に祈ったりするのだろうが、あいにく私は神々(くそったれども)に祈るような信仰心は微塵もない。なので、確実に効果のある行動をとることにする。
「店員、探索するから大きなダメージが残るようなことは禁止よ」
「フフフ、その点は重々承知しております。言葉が意思疎通が出来る存在であったとしても、実力差を身に沁みさせることは大切ですから」
しずしずと私のそばから静かに離れるカエデ。そして、彼女は視線でロッディに同じ様に離れる様に指示する。
私はチョイチョイと手招きして、ハーリアを呼び寄せる。彼女は顔を青ざめさせたままハラハラとした表情で二人を心配そうに見守る。
「可哀想なので、カエデは左手――いえ、左の人差し指で相手をしてあげます。ロッディは何を使っても構いませんよ」
「ア゙ァ゙? ハンデがあったから負けましたって、ダッセェ言い訳は通用しねぇぜ! オレの実力がヤベェって気づいても遅いぜ」
吠えるロッディに余裕たっぷりの涼しげな顔のカエデ。彼女は右手を持ち上げるとクイクイ、と
ロッティを挑発する。
即反応するロッティ。彼は腰に下げていた剣を抜き放つと、勢いそのままにカエデに斬りかかる。
「重心が高いですね」
「ぐぎゅ!」
ロッティの斬撃を軽々と躱すと、カエデは素早く彼の膝の裏あたりを人差し指で突く。
ただそれだけロッティは体勢を崩し、 両膝を地面につく。
「っ! 今のはタイミングが悪かっただけだ! オレの実力はこんなものじゃ――」
「おっそ」
カエデは辛辣な呟きとともに、素早くロッディの正面に回り込み、人差し指で彼の額を弾く。ただそれだけでロッディは派手に吹っ飛ぶ。
「くそがァ! 何か細工してやがるなァ! 派手にぶっ飛ばすだけじゃオレに通用し――ガッ!」
ロッディが起き上がると同時に彼に肉薄したカエデが追撃――額にデコピン。再び吹き飛ぶロッディ。
今度はゴロゴロと転がって衝撃を逃がし、立ち上がると同時に剣を抜くロッディ。
「喰らえやァ! オレの強さを思い知れやァ!」
ブォン、と鈍い風切音を響かせながら、ドタバタと音を立てるたどたどしい足運び。
ロッディの素人同然の動きに私は呆然としてしまう。横を見るとハーリアが手で顔を覆いながら恥ずかしそうにしていた。
「ねえ、ロッディって剣を扱う才能、なさそうなんだけど?」
「……はい。アタシも村にいた頃から散々指摘したんだけど、聞き入れてくれなくて」
「だろうね。苦労してるのね」
思わず、私はハーリアの方をポンポンと叩いて労ってしまう。
ブンブンとデタラメに剣を振り回すロッディ。剣筋なども考えてないため、例え剣が当たったとしても大したダメージにならないのは見て明らか。
カエデは涼しげな顔のまま見事な足取りでロッディの攻撃を回避している。たぶん剣風すら届いていない。さすが元魔王軍筆頭、初心者同然の冒険者に後れを取ることなどあり得ない。
「……店員、めんどうだけど、足腰立たなくなるまで扱いてやって」
コクリ、と私に視線を向けることなくカエデは小さく頷く。
それから私とハーリアは隅の方でお茶をしながら、ロッディが疲労で動けなくなるまで、カエデの演舞のような体捌きを眺めるのだった。




