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魔王に飽きたので道具屋になって平凡な生活を始めてみました  作者: 橘つかさ


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08.移動中

「なー、ハーリア、マジで最悪じゃね?」

「ちょ、ロッディ! なに言い出すのよ!」

「発見された迷宮の調査に行くんだぜ。現地まで徒歩とかおかしくね?フツーはさ、馬車とかで移動して体力の温存とかさ拠点構築とかあんじゃねーの。徒歩で持てるだけの荷物抱えて移動とダサすぎんだろ」


 重心の安定しない足取りで前を歩くロッディは不満をたらたら。横を歩くハーリアは、そんなロッディを逐一諌めているものの効果は皆無。

 雇い主――私に会話の内容が聞こえていても全く気にしていないのは、むしろ頼もしく感じてしまう。

 だが――


「……ハウスよ、カエデ」

「ご安心ください、店長。一声いただければ、カエデが一瞬で今までの行いを心の底から後悔するように躾けてご覧差し上げます」


 横目で確認したカエデからは、じわじわと殺意が滲み出していた。

 私が雇っているだけなら、ここで契約破棄して心の安寧を選択するのも一つの手なんだけど、そういうわけにもいかない。

 私はカエデを宥めることにしてみる。


「カエデはギルドから依頼受けてるんでしょ。ボコして終わりじゃセリアが悲しむわよ」

「……それは、困りますね」


 右手を顎にあてて、わずかに眉を顰めるカエデ。

 冒険者として活動しているカエデは、セリアに色々と面倒もかけているので、こういう時にセリアの名前を出すと思い止まってくれる、事がある。

 とりあえず、これで目的地――即席迷宮――に到着するまでは、ロッディの寿命はあるはず、たぶん。


「ぶっちゃけ、セリアが馬車を用意するって話を断らない方が良かったのではないですか、店長」

「冒険者の基本は足腰でしょ。経験の浅いうちから楽を覚えさせる必要はないわよ。それに、迷宮の中に馬車では入れないし、迷宮の外に置いておくなら誰か残る必要があるわよ。私とカエデは迷宮に入る必要があるわけだから、あの二人のどちらかを残すことになるんだけど、カエデはどっちを選ぶ?」

「無理です。消去法でもカエデは選べません」

「そう答えると思ったわ」


 ハーリアを馬車の見張りを頼めば、ロッディを迷宮探索に連れていくことになり、ロッディが絶対面倒ごとを起こす。逆にすれば馬車の見張りに飽きて一人で迷宮に突入するはず。そう私は確信している。

 ロッディとハーリアをワンセットで扱う事で、ロッディの行動をハーリアが制御してくれるはず。それが一番マシな選択のはず。


「セリアは、馬車が街に自動で戻る魔導具を搭載させるとも話していました。片道だけ馬車で移動して、迷宮に到着して馬車を街に帰還させても良かったのでは?」

「馬車を自動操縦する魔導具は便利だけど、無人で運用すると盗賊とかに狙われやすいでしょ。馬車が無事に街に戻ってこなかったとしても私たちは責任に問われないと思うけど、セリアに迷惑かかったら嫌でしょ」


 コクコク、と頷くカエデ。

 魔物避けとヒト避けの結界とか展開すれば、確実に自動操縦で馬車を確実に街に帰還させることは出来るのだけど、そんなことを辺境の道具屋店長が出来るのは不自然すぎるので自重している。

 私たちの様子をチラチラと伺っていたハーリアが振り返って私に声をかけてくる。

 ちなみにカエデが私との会話中は、小さな消音結界を展開していたので前を歩く二人に私たちの会話は聞こえていない。


「えーっと、リーゼさん? 目的地の迷宮って、あとどれくらいで着くか分かる?」

「このペースだと、あと半日くらいかな。店員(カエデ)の予想は?」

「カエデの予想も店長と同じくらいです。カエデが店長を背負って走れば、半分に短縮は可能です。二人は走るの得意ですか?」


 淡々とした口調で尋ね返すカエデ。彼女の無表情も相まって、ハーリアは反射的にたじろぐ。

 まあ、カエデに対する反応としては珍しいものではない。


「ハッ! それでオレからマウント取るつもりか? オレはァ地元で電光石火と称えられるほどの走力を持っているんだぜ! B級冒険者程度に引けはとらねぇよ!」

「ちょ、ちょ、ちょ! ロッディ! アンタが得意なのは逃げあ――ひゃぁ!」


 ハーリアの言葉が終わるより早く、カエデが彼女をヒョイと小脇に抱える。


「店長、大変雑な扱いで申し訳ございません」

「仕方ないわ。私を落とさなければ大目に見てあげるわよ」


 私の返事を確認し、カエデはハーリアと逆の方に私を抱える。私もハーリアも小柄とはいえ、旅の荷物を背負った状態で、それなりの重量があるが、彼女は私とハーリアを両脇に抱えたまま涼しい顔をしている。

 側から見たらかなりシュールな光景だろう。ロッディが目を見開いたまま硬直している。


「では、ちゃんとついてきてください」

「へ? ちょ、待て――」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!」


 ロッディが言い終わる前に、カエデが走り出し、ハーリアが悲鳴を上げる。

 ヒトから見れば、なかなかの速さだと思うけど、Gの掛かり具合がだいぶ優しい。この速度なら移動時間を二割くらいは短縮できるはず

 まあ、ロッディがカエデの走る速さに最後までついてこれれば、だけど。


「ま、まて、待てよぉぅ……」


 走り出して数分もしないうちに、ロッディが泣き言を口にし始める。ダラダラと汗を流し、ゼェハァゼェハァと喘ぐように呼吸をしている。辛うじて姿の見える距離を維持しているのは根性だろうか。


「か、カエデさん、ロッディは長距離走は……」

「フィールド移動にしろ迷宮探索にしろ冒険者は長距離走が出来れば、生存率が高まります。魔物に襲われても縄張りの外に逃げれば助かる可能性は爆増です」

「迷宮で発生する魔物には縄張りって意識はないけど、その魔物に指定された再配置(リスポーン)ポイントが重要ね。指定されたポイントがあるフロアから別フロアに移動した場合、魔物ごとに設定している漂流(ドリフト)時間の減衰開始して、ゼロになったら強制的に再配置ポイントに帰還する仕様になっているのよ。一部、特殊な設定を行っている魔物はそれに限らないけどね」

「へーそうなんだ。リーゼさんは、冒険者じゃないのに詳しいのね」


 感心するハーリアに対し、カエデが冷ややかな目線を私に向けていた。

 反射的に「しまった!」と声に出そうになるが、私は何とか耐える。カエデの言葉を聞かなくてもわかる。喋りすぎです、と目が言っている。

 うん、少し反省している。

 ヒトが迷宮について研究しているけど、遅々として進んでいない。

 魔物の再配置ポイントとか、まだ解明できていなかったはず。

 固定でも複数ポイントを用意して、冒険者などが近くにいないポイントを活性化とか、ランダムとか、規則性がありそうでなさそうに見えるように迷宮を構築するように設定しているから。

 冒険者が迷宮に侵入すればするほど、データ蓄積して、設定を更新(アップデート)するようにもしてるから、ヒトの迷宮研究は堂々巡りしてるはず。

 私は小さく手を合わせて「ごめん」とカエデに合図を送ると、彼女は小さく嘆息する。


「道具屋は冒険者がたくさん来る場所ですから。そんな冒険者から、店長は色々な情報を仕入れています。ただし、すべて実証された情報ではないので、参考程度にしてください」

「そっか、迷宮探索の準備や迷宮で拾った道具(アイテム)を売りに道具屋は定番だもんね」


 カエデのフォローにコクコクと頷いて納得するハーリア。

 私の知識の出所について追求がなさそうなので、ホッとする。

 安全のため、話題を変えておくべきね。


「とりあえず、ロッディはどうする? 店員のペースに辛うじてついてきているのは称賛しても良い気はするけど」

「そこは店長の意見にカエデも全面的に賛同しますが、もう少し現実というのを味合わせておいたほうが後の意思疎通(コミニュケーション)に良いかと」


 フフフ、と背中に寒気を感じてしまうカエデの笑い。何かを察したようでハーリアは少し顔を青ざめさせて沈黙を保つ。

 私は心の中で「頑張れ」と念じて、カエデの絶妙な力加減と身のこなしから生み出される程良い揺れに身を委ねることにした。


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