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魔王に飽きたので道具屋になって平凡な生活を始めてみました  作者: 橘つかさ


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06.小休止

 本拠地――道具屋の椅子に座り、私は温かい砂糖たっぷりの豆茶を啜る。

 じんわりと体の芯から温まる感覚に、思わず息が漏れる。

 やっぱり外出なんかしないで、優雅にダラダラ過ごすことが、やっぱり最強の怠惰な生活スタイルだわ。

 このまま椅子に座って、うたた寝に移行するのが至福、と思っているとカエデが私をジト目で見つめていた。

 直立不動の姿勢で、かれこれ五分は私を見つめている。

 ハァ、私は諦めて、楓に視線を向ける。


「……店長、これからどうするんですか? 初心者に毛が生えた程度の冒険者を引き連れて、稼げる迷宮(ダンジョン)なんて近場にありませんよ」

「んー、そもそも稼げる迷宮は、それなりに実力のある冒険者が集まっているから、私たちの経歴に気づく冒険者がいるかもしれないからリスクなのよね。冒険者ギルドが迷宮探索パーティー人数として、推奨がする人数を集めて、迷宮探索をするつもりだったけど、……正攻法だけが全てじゃないわよね?」


 ニヤリ、とカエデに笑ってみせる。すると彼女は露骨に嫌そうな顔をする。

 まだ核心部分を話していないのに、実に失礼な態度だわ。

 私はすまし顔で、亜空間収納から拳の半分ほどの鉱石を取り出すと顔の高さまで持ち上げる。


「カエデ、コレが何かわかる?」

「魔晶石……ですが、それが何か?」


 怪訝そうな顔をするカエデに、私は勝ち誇った顔する。


「修飾語が足りてないわよ。〝魔素を限界まで吸収させた〟魔晶石よ。亜空間収納に同じような状態の魔晶石が、数えるのも面倒なくらいゴロゴロ転がっているわ。生真面目なカエデが、魔素溜まりを見つけては、コツコツと魔晶石に吸収させ続けたおかげね。全て品質が〝最上級〟と断言できる魔晶石。それを大量保持しているのは、今の世界では私くらいじゃないかしらね」

「……店長が、魔素溜まりを見つけたら処置しろと命じられたので、カエデは愚直に任務遂行していただけです」


 ギロリ、とカエデに睨まれる。

 一瞬、カエデの迫力に怯みそうになってしまう。チカラを封じて見た目が幼くなってしまった悪影響の一つだ。

 私は咳払いをして誤魔化す。


「この最上級の魔晶石を、ヒトの然るべき施設に持ち込めば、数個で王都の庭付き豪邸が一括払いで買えるほどのお金に変えることが出来るわ。まあ、こんな物を表に出せば、入手ルート聞き出そうとする輩やら何やらで絶対面倒ごとに繋がるので、使える方法ではないけど」

「……当たり前のことを言わないでください。ひと昔前なら強力な魔物や魔獣が跋扈していたので、冒険者が拾い損ねた魔晶石を偶然拾ったと言い張って誤魔化すことも可能でしたが、魔王が不在の平和な時代に高品質の魔晶石を内包した魔物や魔獣を見つけたければ、迷宮に深く潜るしかありません。まさか店長、ご乱心するおつもりですか?」

「今の話しの流れで、どーしてそうなるのよ、カエデ。私がやることは、もっとスマートなことよ。この前、カエデが見つけた魔素溜まりは、全部処理済み?」

「まだですが……まさか!」


 少し驚いた顔をするカエデに、私はしてやったりの笑みを作る。


「その〝まかさ〟よ。魔素溜まりに、この最上級な魔晶石を数個砕いて魔素を解放すれば、即席(インスタント)迷宮(ダンジョン)が出現するはずよ、たぶん。誰にも踏み荒らされていない迷宮。誰にも知られていない迷宮。実に稼げそうでしょ」

「出現直後の迷宮は確かに魅力的ですが、未調査の迷宮は冒険者ギルドの調査が入らないと探索許可が降りません」

「甘いわね、カエデ。ちゃんと抜け道があるわよ。発見された迷宮を簡易魔素計測器で測定した結果がD級以下で、発見したのがB級以上の冒険者なら、先行調査を兼ねて探索すること出来るわよ」

「……チッ、失念されていなかったのですね」


 忌々しそうな顔のカエデ。

 冒険者ギルドの黎明期に制定された冒険者規則だけど、間接的に私が関わった案件よ。そうそう忘れるわけがないわ。


「ふふん、私の計画は完璧(パーフェクト)でしょ」

「即席迷宮が内包する魔素濃度がD級以下の場合は、むしろ稀です。カエデの記憶では中央値がB級だったはずです。最初から頓挫する計画では?」

「それはカエデが即席迷宮を〝()っている〟からよ。まずヒトは即席迷宮と通常迷宮の違いなんて分からない。いえ、そういう分類があることすら認識していない。通常迷宮は出現してすぐに測定しても実値とあまり差異がない測定値が出るわ。でも、即席迷宮は魔素が安定するまでに時間がかかる上に、出現してから暫くは測定値がD級以下の測定値に収まるわ」

「――ッ!」


 ハッとした顔をするカエデ。

 識っていることがアダとなることがあるわけよね。

 ヒトが観測している目の前で出現するように設定していた迷宮はないし、魔晶石を砕いたら即席迷宮が必ず出現するわけでもない。

 私やカエデのように〝魔王システム〟に関わっていなければ、識ることがない、いや認識すら出来ない情報が存在する。


「魔晶石を砕いて、即席迷宮を出現させる。すぐに魔素濃度を測定して、カエデが冒険者ギルドに報告すれば、あら不思議。私たちが調査探索として即席迷宮に堂々と入れるようになるわけよ」

「なんともまあ、褒められない作戦です。さすが魔お――店長。効率が良ければ、どんな汚ない作戦だろうと恥も外聞もなく採用する懐の広さが今も健在で、カエデは感無量の思いでございます」

「……それ、褒めてる?」

「褒めてます。褒めてます。カエデは心の底から褒め称えている所存です」


 圧倒的な棒読みで答えるカエデ。

 ツッコミを入れると負けた気分になるのは確実なので、私はあえてスルーする。私が反応しないことに、カエデは若干不満そうに小さく頬を膨らませたのを私は見逃さなかった。


「即席迷宮を長時間放置すれば通常迷宮に変化しちゃうけど、即踏破してしまえば完全に消滅して証拠隠滅も出来るから都合が良いでしょ」

「……足手まといが二人ほど同行するのをお忘れですか? 未調査の迷宮探索はリスクが高くないですか?」

「確かにリスクね。特にロッディの方は実力が怪しすぎるわ」


 ウンウン、とカエデが素直に頷く。

 ハーリアの方は、自分の実力を正しく理解してそうだから、同行させても全然問題がないと思うんだけど。


「……いかが致しましょうか?」

「セリアに手間を掛けさせるのも悪いわ。出現する即席迷宮の性質は、簡単な乱数調整で出来るはずよ。その日の食事や魔晶石を砕く時間とかね。それで迷宮に出現する魔物を調整すれば、問題ないでしょう、たぶん、きっと」

「暇つぶしに散々検証されたデータをカエデも拝見しましたけど、予想していた性質の即席迷宮が出現するのは概ね七割だったはずですが……」

「七割もあれば十分十分。勝負が出来る数値でしょ。明日、即席迷宮をするから、測定器とかの準備は任せたわよ」


 私の自信満々の返事に、カエデはやれやれとかたをすくめてみせた。


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