05.新人冒険者
「なァんでだよ、なんでオレがこんなチンチクリンと根暗そーなやつと迷宮に潜らねーといけねぇーんだよ。ハーリア、話が違くね?」
「ちょちょちょ、ロッディ! 失礼なことを言わないでよ!」
開口一番、私とカエデをディスってくる少年ロッディとフォローする少女ハーリア。
二人とも初心者を脱したばかりの冒険者。
当然だけど、迷宮踏破経験も単独で迷宮探索したこともないとセリアから聞いている。
「魔お――店長、この世間知らずを教育してもよろしいですか?」
「よろしくない! 店員、ハウス!」
笑顔だけど、全く目が笑っていないカエデに、私は慌てて声を掛ける。
同時に発生するのはキーンと耳鳴りに似た異音。
周囲のマナがカエデの威圧感に押し潰されて鳴いている。
今にもロッディに襲いかかりそうなカエデの雰囲気に、私は慌てて彼女の手首を掴む。
この状態のカエデが手加減なんて出来るわけもなく、私の脳裏に描かれるのは公衆の面前に晒す事は憚られるスプラッターな光景と、嬉々として暴れるカエデの姿。
「……大丈夫、です、店長。カエデは至極冷静です」
一ミリも信用できないカエデの言葉だけど、私の咄嗟の反応が功を奏したようで、カエデの表情がわずかに変化する。
付き合いの長い私じゃなければ見落としてしまうほどわずかな変化だけど、マナの悲鳴が徐々に収まっていく。
私はホッと胸を撫で下ろす。
そして私は目の前にいるチンピラのように少し身を屈めて重心を落とし、顔を伏せて下から睨む――ガン付けしてくるロッディに、憐れみの視線を向けようとしたところにセリアが間に滑り込んでくる。
「ロッディくん、上位ランクではない冒険者にー、王宮でも通用する礼儀作法は求めないわー。でも、依頼人に最低限の礼儀を踏まえた言動が出来ないのはー困るわ……」
「――ッ! さ、サーセンッ! お、オレは別にセリアさんのメンツに泥を塗るつもりは――」
頬を膨らませたセリアに、慌てふためきなら弁明するロッディ。
ははーん、コイツはセリアに惚れてるな。
私は自然とニマニマと生暖かい笑みになってしまう。
ロッディの相棒――ハーリアを確認するは、額に手を充て「やれやれ」と大袈裟な動きでため息をついていた。
ロッディの強ぶった態度も、セリアに対して良いとこ見せたい思春期の浅はかな考えと思えば可愛らしさが出てくる。
私の中で、ロッディの立ち位置は、鎖に繋がれてキャンキャン鳴く小犬に決定する。
うん、もう何を言われようが、広い心で穏やかに対応ができそうだ。
私の心の準備が終わったタイミングを見計らったように、セリアが場を取り持つ。
「こちらが依頼主のリーゼちゃ――さんです。この街で道具屋を営んでいらっしゃいます。横のカエデさんは、リーゼさんの付き人で、この街の冒険者ギルド唯一のB級冒険者です。二人とも依頼主にきちんと挨拶をしてください」
仕事モード――いつもの受付業務よりお硬い感じ――で、セリア。
ロッディはそのままだったが、ハーリアは軽く身なりを正す。
セリアに促されて、二人は自己紹介を始める。
「オレはァ、ロッディ。E級冒険者だ。職業は剣士。E級だからって舐めんなよ。いずれ聖剣を手にして、剣聖と呼ばれ崇め奉られる男だからなァ」
「ハァ……初対面相手に妄想を語るのは止めてよね。アタシは、ハーリア。職業は魔術士ですが、実際の適正は回復士です。パーティーの火力不足で……」
ハーリアはモゴモゴと言葉を濁す。一瞬、ロッディを見ると盛大なため息をこぼす。
普通に考えれば、迷宮探索で攻撃職と支援職、それぞれ一人ずついた方がパーティーバランスは良いはず。
それなのに、わざわざ適性の高い職を取らずに攻撃職を選択しているということは、よっぽどロッディがヘッポコということなのかしら。
不安要素ではあるものの、元々が迷宮探索の許可を取るための人数合わせ。察しの良い経験豊富な冒険者より、初心者の方がコチラも都合が良い。
「ロッディとハーリアについて、なんとなく理解したわ。今回の依頼についてセリアから説明済みって認識で大丈夫?」
「大丈夫だよ。セリアさんから『迷宮探索の護衛で目的はポーションの材料探し』って聞いてるよ。どこの迷宮に潜るかまでは聞いてないけど…」
「オレがいるんだぜ。ショッボイ探索されまくって、空っぽの宝箱すら無いよう迷宮に駆り出されるのは勘弁してくれよァ」
「ちょっ! ロッディ! 余計なこと言うんじゃないわよ! まだ正式に依頼を受領できたわけじゃないんだから!」
「ハァ? セリアさんから声掛けられたんだから、それが依頼開始の合図だろ」
慌てるハーリアと眉間に眉を寄せて怪訝そうな顔をするロッディ。
まあ、ロッディの反応もわからなくはない。
冒険者ギルドの依頼掲示板に貼り出されている依頼は、冒険者が選んで受付に受領宣言すればよい。
ただし、今回のような依頼掲示板経由ではない依頼は、危険度やら秘匿性やら何やらがあって、依頼主や受注者に拒否権があったりする。
「この依頼を受注が出来ないと、明日のご飯の心配をしなきゃいけないんだからね。アンタは余計なことを口走らないでよ!」
明日のご飯の心配。
初心者あるあるだ。
実はF級よりE級の方が懐事情が厳しかったりする。
何故ならF級は報酬に冒険者ギルドが少し色を付けている。初心者救済のためだ。
冒険者のイロハを学ばせ、ちょっと貯蓄させて、E級への準備をさせる。
それに気づかず、浪費したり実力を勘違いしたりすると万年金欠低級冒険者の出来上がってしまう仕組みだったりもするのだけど。
私がどう返答しようか考えていると、二人の背後で手を組んだセリアが訴えるような目で私を見ていた。
二人の懐事情について、よくよく知っていそうね。
私は小さくため息をつくと、視線をカエデに送る。彼女を小さく頷くと一歩前に出る。
「今回の依頼で特に重視するのは、守秘義務を守れるかどうかです。この程度の依頼であれば行う必要はないのですが、魔術契約をしてもらおうかと思います。守秘義務を破れば、それ相応の罰を受けると考えてください。まあ、命を奪うほどではありませんが、冒険者を続けられなくなる可能性はあるでしょう」
淡々としたカエデの言葉に、二人の表情が険しくなる。
魔術契約は設定された契約内容を破れば即発動する呪いの様なものだ。契約内容次第では命を奪うことも可能だ。
ロッディはすぐに内心を誤魔化すように毒気づく。
「オレを脅しても意味ねーからな。その程度でビビると思ってんならアンタの頭ん中、お花畑すぎんだろ」
「フフフッ、随分と勇ましいことを言ってくれますね。店長、カエデは二人を雇うことに異存はないです」
「……店員、ヤバいことをするんじゃないわよ」
カエデの微笑みに薄寒いものを感じ、私は念の為に釘を刺しておく。
「セリア、店員が二人で問題ないみたいだわ。二人に依頼を受注させていいわよ」
「ホント! ありがとう、リーゼちゃん、カエデさん」
私の言葉にニコニコと笑みをこぼすセリア。
この笑顔だけで、二人に依頼を受注させた元は取れたかもしれない。
「どこの迷宮に潜るかは一日二日待ってもらうわ。依頼を正式に受注するのはその時にしましょう。その間に気が変わって依頼を断るのもありだから」
「愚問を言うんじゃねーよ。オレがこんな楽ショーな依頼を断るなんてありえねーからさ」
「ロッディ! 魔術契約なんて物騒なものが出てきたのよ。簡単な依頼なはずないでしょうが! えーっと、リーゼ、さん? 依頼を断ってペナルティとかあるの?」
「ないわよ。せいぜいセリアの成績に影響が出るくらいじゃないかしら」
「ちょ! マジかよ! ぜってい断れ――」
「ロッディ! ちょっと黙ってて!」
二人のコントの様なやり取りに、私とカエデ、セリアは苦笑してしまう。
これで冒険者ギルドの迷宮探索に必要な最低人数はクリアしたわけだけど、探索する迷宮はどこにしようかしら。
私は少し考えることにするのだった。




