49.再配置(リスポーン)、そして……
「――っ! ま、また強い魔物の反応が出現した!」
「ハァ? さっむいギャグ言うなし。迷宮主の再出現は最速でも三日はかかるのがジョーシキじゃん」
「そ、それは理解してる! でも現に反応があるんだ!」
必死に訴えるパナケルを胡散臭そうに見据えるヴァニタス。
(……店長、なかなか素早い反応してますよ、彼)
(ホントね。迷宮主が再配置した瞬間に反応したわね)
(今、シメておきますか?邪魔にならないように)
(止めなさい、まだ早いわよ)
ウキウキした空気を漂わせるカエデをたしなめ、私は周囲の雰囲気を観察する。
ファルサスの魔剣を〝覚醒済み聖剣〟と誤認させて歓迎会モードを発動させ、迷宮主を即再配置することは上手く行った。
あとはファルサスたちがどう反応するかが問題よね。
「お、同じくらいの強さの反応がもう一つ!や、ヤバいよ、ファルサス!」
「……それは間違いじゃないのか?複数の魔物が集まっているだけじゃないのか?」
「ま、魔物が集まっていれば大きく見えるけど、強さは個々の魔物の強さが影響してくるんだ」
焦るパナケルをファルサスは不審がるような視線を向ける。
不人気で、それほど難易度の高くない迷宮だから当然の反応かもしれないわね。
パナケルの索敵魔術を疑うのは実に普通の反応でいいわね。
「パナケル、その魔物の反応は動いているのか?」
「も、ものすごい速さでコチラに向かっている。数分もすれば姿が見える」
「方角は?」
「迷宮の奥――北の方から一体、北東からもう一体。距離も速度もほぼ同じだから、同時に出てくる」
ファルサスの問いに、パナケルが指を差しながら答える。
パナケルが指示した方角を怪訝そうに見つめながらもファルサスは魔剣を抜き放つ。
「そう言えば、さっきの魔物は魔石を落とさなかった……迷宮主でそんなことがあり得るのか? ヴァニ、ロッディくん、前方で警戒を。ジンは同行しているメンバーを守ってくれ。パナケルは僕たちに支援魔術。ハーリアくん、リゼットくんは――」
「ファルサス! 出てきたよ、蜘蛛が!」
ヴァニタスの声がファルサスの声を遮る。
『『ギギギギギッ!』』
同時に現れた二体のアラクネの声が不気味にハモる。
生理的な嫌悪感は冒険者から思考の瞬発力を奪う。
後ろに控えている五人が息を呑む気配が伝わってくる。
ロッディやハーリアより等級が上のはずなんだけど、格上を相手にしてきていないのが丸わかりね。
「ピットは少し前で陽動、ガルツは盾を構えて防御優先、ドビーは槍でピットのフォロー、レノとネネは遠距離で攻撃できる魔術を準備」
「「「「「了解しました」」」」」
カエデが素早く五名に指示をする。
思考が止まっていた五名は即座に返事をして素早く陣形を組む。
後衛の魔術をダメージリソースにするオーソドックスな陣形ね。
積極的に攻め込まないため、格上相手にもパーティが崩壊しにくい、陣形の後ろに回り込まれたりしなければ。
(店長、こちらの準備は整いました。ガルツが攻撃に気を取られなければ、アラクネの攻撃でパーティが崩壊することもないです、たぶん)
(……信頼度が低いわね。ガルツ、は魔王堂の常連でしょ、新人時代から」
(だからですよ。ヒトには三つ子の魂百までもという諺があるそうです。ガルツがカウンター使いとして大成する未来はないとカエデは予想します)
カエデの淡々とした返事。
カウンター使い――ベネディクト流剣術が廃れてなければ、ガルツもC級で燻っていなかったでしょうね。
カエデが断言しないところをみると、付き合いの長さで多少は情があるようね。
「テメーの出番は終わってんよッ!」
ヴァニタスの甲高い声。
彼女がアラクネにダガーを一閃する。
だけど、アラクネの前足に弾かれ、甲高い金属音を響かせる。
バックステップで距離を取る彼女から、苛立ちを隠さない舌打ちが私の耳に届く。
歓迎会は〝装備に見合った〟強さに最適化した魔物が出現する。
なので、手にした武器をきちんと使いこなせていればノーダメにはなりにくい。
(……この場合は魔剣の強さに最適化された魔物と判断するべきかしらね)
ヴァニタスが力不足と判断するのは保留して、私は少し思案しながら、ハーリアに視線を送る。
「はい! 《ウォーターボール》!」
彼女は即座に準備していた攻撃魔術を発動させる。
『ギギギッギギギッ』
アラクネがニタリと不気味に笑う。
同時に吐き出されたアラクネの糸が水球にぶつかり四散する。
そして、巨体を回転させるようにして周囲を薙ぎ払う。
「なっ! 嘘っ!」
「――っぶねぇ! ハーリアの魔術をあっさり防ぎやがったッ!」
アラクネの隙を突こうとしていたロッディは大きく飛び退く。
動き自体は悪くなかったけど、魔物は|ロッディに対する警戒心を残したままだったわね。
少し距離と位置取りが甘かったせいね。
(さて、そろそろ私も動くわ。あとは任せたわよ、カエデ)
(承知しました)
私はもう一方のアラクネに静かに視線を向ける。
そして、ゆっくりとほんの少しだけ魔眼に魔力を通す。
『ギギギ……!』
ビクンとアラクネの体が小さく跳ねる。
よしよし、いい子ね。
魔眼でアラクネの思考に割り込む。
私はわずかに口の端が持ち上がっているのを感じ、指先で押し下げる。
あとは自然な感じで演じるだけ。
「ファルサス様! 癇癪玉を使います!」
そう宣言して、私は筒――射出器に癇癪玉をセットして、アラクネに向けて撃ち出す。
『ギギギ! ギギギ!』
アラクネは哄笑しながら私の撃ち込んだ癇癪玉を躱す。
アラクネの少し後ろで癇癪玉の破裂音が響く。
同時にアラクネの糸が私を縛り上げると、自分の方に私を引き寄せる。
「た、助けてくださいっ!」
「っ! リゼットくん!」
「ちっ ちんちくりが出しゃばるから!」
私の助けに反応するファルサスとヴァニタス。
ちなみにカエデは必死に笑いをこらえていた。
残りのメンバーはもう一体のアラクネの相手に必死。
いい配置だわ。
『ギギギギギギギギギッ!』
アラクネが笑い声を響かせながら、高速でその場から離れていく。
カエデとは違い振動は大きく視界はガクガク揺れる。
運び方がなってないわね。
そんなことを考えながら私は機械的に「たーすけーてー」と繰り返し、アラクネに運ばれていった。




