47.不意に遭遇
「くっそザコばっかじゃん! くそ笑えるー!」
笑い声を響かせながらヴァニタスが出てくる魔物を片っ端から倒していく。
ゴブリンやら昆虫やらグリズリーやら、迷宮が開放型かつ森林タイプだから、出てくる魔物豊富だわ。
でも、森林タイプの迷宮は昆虫系の魔物が多くて嫌ね。
種類もだけど数も多いので、面倒なことこの上ないわ。
しかし、疑惑はあれど、A級パーティの一員といったところで、彼女が魔物を倒すのに苦労した素振りは一切ない。
ただし、本来の目的である「経験の浅い冒険者を同行させて鍛える」は全く出来ていない。
さっきまで一緒に斥候していたロッディも、今はヴァニタスの後ろをついていくだけになっている。
「ヴァニタス殿、張り切るのは悪いことではござらんが、少しは手を抜いてくれるとありがたいでござる」
「ハァ? 何言ってんの?ウチのどこが張り切ってんよ。ジン、目が腐ったんじゃね?」
ジンの野太い声に、ヴァニタスが動きを止めて声を荒げる。
その様子にファルサスが「やれやれ」といった様子でため息をつく。
カエデの連れていた五名の冒険者が、ヴァニタスに嫌悪感を見せつつも、素直に 感嘆の声を漏らしているのが原因でしょうね。
最初は面倒そうに動いていたヴァニタスが後ろに控える冒険者の声に反応して、 どんどんテンションが上がっていった。
滑稽を通り越して清々しいとさえ思うほどだわね。
「落ち着きなよ、ヴァニ。キミが先頭にいるから必然的に魔物を倒すことになるのは理解してるよ。だけどジンの言うことも一理あるからね。同行している経験の浅い冒険者にも経験させることも務めだからね」
「……メンドくさッ」
ヴァニタスはそれ以上は反論せず、素直に立ち位置を後ろに下げる。
それでロッディが単独でパーティの先頭に立つことになる。
「カエデ殿、ピット殿をロッディ殿と並ばせてもよいでござるか?ピット殿はハーフリングゆえの敏捷性と目と耳の良さがあるので魔物に遅れを取ることはござらん。致命傷でなければ罠にかかっても某が対応できるでござる」
「……ピット、いける?」
「お、おう、いけるぜ」
五名の中で一番小柄な男性――ピットが前に出る。
身長は一メートル二十センチくらいかしらね。
ハーフリングではだいぶ大柄な方ね。
ヒトで見た場合、十五歳ぐらいに見えるけど、魂の色合いから三十代前半といったところかしら。
少し気になるのは、彼が腰に下げているのが小型の斧とナタという点。
「……ピット様は戦士なのですか?」
「え、ち、違うぜ。ハーフリングで大柄な方だけどよ、他の種族に比べて力がないことは自覚してるからな、年の功ってやつで」
苦笑いをしながら、私の質問に答えるピット。
私が追加で確認するか思案していると、彼は腰に下げた斧とナタを手に取って見せてくる。
「お嬢ちゃんが、斧とナタを見て、オレを戦士と思ったんなら早とちりだぜ。武器にもなるけど、草刈り芝刈りするために携帯してるだけだ」
「そうだったのですね。あまり使い込まれていそうな感じがなかったので」
「それは商人としての目利きか? 迷宮に入る前に買ってきたんだよ。元々、斥候したことなくてさ。後衛でチマチマ小型の弓とかスリングとかで戦ってたんだよ」
少しバツが悪そうな顔をするピット。
ハーフリングで魔術を使えない後衛って、パーティのお荷物確定なやつね。
私が何を考えているのか察したカエデが補足を入れてくる。
「ピットは冒険者を一度引退してる。当時加入していたパーティが悪かった。家庭の事情で復帰を検討中。前は斥候してなかったから、カエデが鍛える予定」
「オ、オレは、戦闘は無理なんですって。カエデ嬢みたいに動けないって……」
「斥候は戦うことが全てじゃない。戦う前に斥候の仕事は終わってるから。魔物に片っ端から飛び掛かっていくのは斥候を分かってない」
意味ありげな――いや、分かりやすい視線をヴァニタスに向ける。
ヴァニタスはファルサスと会話していたので、幸いカエデの会話に気が付かなかった。
面倒になりそうな行動は控えなさいよ、カエデ。
「――ッ! 強い魔物の気配が索敵魔術にヒットした! 戦闘準備を!」
突然、パナケルが叫ぶ。
〝神託に導かれし者たち〟三名とロッディ、ハーリアは瞬時に戦闘態勢に切り替わる。
カエデが同行していた五名はワタワタと慌ただしく武器を構え始める。
「ジン! パナケル! 防御結界を!」
「承知でござる!」
「わ、分かったよ」
ファルサスの声に、ジンとパナケルが即答する。
二人は即座に魔術を発動する。
物理防御と魔術防御がパーティメンバーを包み込むように展開される。
そこそこ広い範囲にも関わらず、実にスムーズな展開。
術者の技量がそれなりに高いことが伺える。
「うげっ、気持ち悪ィ! 蜘蛛女の魔物かよ!」
「蜘蛛女……アラクネか! 迷宮主がなんでここに!」
ロッディの声に、即座に反応するファルサス。 彼の声に若干の動揺が見られる。
『ギチチチチチ……!』
アラクネの不気味な威嚇音が周囲に響く。
ヒトに本能的な恐怖心を呼び起こさせる音に、カエデが同行していた冒険者五名は顔色が青くなる。
迷宮探索に慣れていない冒険者ばかりみたいだから仕方ないわね。
「ファルサス! 迷宮主の部屋は先じゃなかったの!」
「落ち着いてくれ、ヴァニ。人気のない迷宮だから、魔物大発生が起きているのかもしれない。だけど、ここで仕留めてしまえば問題はない!先制して僕たちのペースに持ち込――」
「――《アイスニードル》!」
「……隙だらけだッ!」
ファルサスが指示を飛ばすよりも早く、ロッディとハーリアがアラクネに連携攻撃を行なっていた。
「なんと! 見事でござる!」
思わず感嘆の声を上げるジン。
ハーリアの魔術でアラクネの意識をそらし、ロッディが会心の一撃でアラクネの足を一つ斬り飛ばす。
冒険者としての能力はまだまだ足りていないものが多いけど、戦闘に関してはB級でも十分通用しそうね。
驚愕しているファルサスとヴァニタスの姿に、カエデが嬉しそうに頬を緩めている。
「ま、まぐれの一撃でチョーシに乗んなし!ジン、ウチに支援はよ!」
ヴァニタスが誤魔化すように声を張り上げる。
ジンは素早く彼女に速度上昇の支援魔術を施す。
「よし! ウチがA級のマジを見せてやんよ!」
口の端をつり上げて、好戦的な笑みを作るヴァニタス。
アラクネが通常の魔物なら彼女のゴリ押しでも余裕で倒せたかもしれないけど――
「……ハーリア様、水系魔術の準備を。規模は極小でお願いします」
「え? あ、了解です」
素早くハーリアのそばに近づき、私は小声で指示をする。
ハーリアは一瞬慌てた素振りを見せたけど、即座に魔術の準備に入る。
「さっさと死に――へ? うきゃぁ!」
『ギチギチギチッ!』
ヴァニタスがアラクネが張り巡らせていた糸に引っかかり、一瞬で絡め取られる。
「ハーリア様!」
「はい! 《ウォーターボール》!」
私の意図を読み取り、ハーリアがヴァニタスが絡まったアラクネの糸へ水系魔術を放つ。
私の拳より一回り小さい水球はヴァニタスに当たって弾けると、アラクネの糸がブチブチとちぎれる。
拘束から解かれたヴァニタスは反射的に飛び退いて魔物との距離をとる。
私の見立て通り水に弱いタイプだったわね。
アラクネの糸は耐刃性が高いだけでなく、属性耐性がある。
割と火に弱い場合が多いのだけど、個体によって糸の属性が違う場合があるのよね。
「た、助かったー……って、ザコザコ! 勝手な行動すんなし!」
「臨機応変ですわ、ヴァニタス様」
「ち、チョーシに乗んなし! ファルサス、どーすんのよ、あの糸厄介だし! なんか見えないんだけど!」
苛立ちを隠すように、ヴァニタスはファルサスに声をかける。
彼は少し目を細めて、アラクネを観察する。
「……ただ糸が細いだけじゃないね。隠蔽系の魔術を使っていそうだ。隠蔽を破らないと戦いにくそうだね」
「隠蔽解除の魔術とかないわけ? ジン、パナケル」
「あるでござるが、今展開している魔術との相性が悪く併用が難しいでござる」
ヴァニタスに声をかけられたジンが苦虫を潰したような顔で答え、パナケルが頷く。
広範囲に影響がある魔術って干渉しやすいのよね。ヒトの魔術は核の部分を流用して魔術式を構築したりしてるからなおさらね。
「レノ、ネネ、いける?」
不意にカエデが同行していたパーティメンバーに声をかける。
「は、はい、いけます!」
「わたしも、いけるです!」
ロッディとハーリアより少し幼い感じの冒険者が一歩前に出る。
「いい返事。まかせた」
カエデの言葉に、二人は気合十分という感じで動き出した。
ドヤ顔でヴァニタスを挑発するカエデに、私は思わずため息をつくしかなかった。
ちゃんとヒトらしく、今は緊迫したふりをしておきなさいよね。
お読みいただきありがとうございます!
ブックマークや評価「★★★★☆」をクリックしていただければ嬉しいです。
感想やレビューもお待ちしております。
更新の励みになっております。




