45.休憩所で偶然の遭遇?
「ハ、ハーリアさん、どこで魔力圧縮増幅を教えてもらったんだ?」
「へ? まなばーすとのゔぁ?」
戦闘が終わり、迷宮探索を再開した矢先、パナケルがハーリアに唐突に質問する。
彼女は首を傾げたあと、ポンと柏手を打つ。
「バーン! となるやつは、この前の迷宮探索で死にかけたときに出来るようになったんです。威力は上がるし、魔力の消費は減るので魔力温存にいいかなーと」
「じ、自分で思いついたのか……! そんな、バカな……」
パナケルが驚愕して口を開けたままになる。
彼は少し呆けていたけれど、すぐに我を取り戻す。
「ま、魔力圧縮増幅は、少ない魔力を限界まで圧縮して魔術式に過負荷を起こすことで魔術の威力を増幅させる。過去の勇者が編み出した秘技の一つだよ。それを独学で使えるようになったなんて、ハーリアさんは……天才だよ」
そして早口で捲し立てるパナケル。
興奮して瞳孔が開きっぱなしになっているわね。
ハーリアはパナケルの謎の熱量に若干引き気味。
魔力圧縮増幅って、瘴気の濃度が高すぎて魔術の発動が上手く出来なくて、偶然編み出したのよね、勇者が。
あの時は、たまたま私が不機嫌なときで瘴気が濃くなっちゃってたのよね。
おかげで少し楽しめた誤算だったわ。
私が少し過去を懐かしんでいると、ワタワタとハーリアがフォローを入れていた。
「ぱ、パナケルさんはアタシよりも凄いし、アタシより上手くその魔力圧縮増幅を使えるんじゃないんですか?」
「む、無理だよ。加減を間違えると、魔力が暴走して新米の新星爆発とは比較にならない規模の爆発が起きるんだよ。そ、そんな頭のネジが外れたような危険なことに、チャレンジする度胸は自分にはないよ……」
サラッとディスりを混ぜるパナケル。
ハーリアの顔が一瞬ムッとなる。
パナケルの発言は一理あるのよね。効果に対してリスキーすぎるから別の方法を考えた方が建設的だと思うわ。
例えば増幅効果のある触媒を使うとかね。
魔獣の魔石――魔核とか古代竜に稀に現れる額の魔石、神竜の神眸とかを用意すれば、魔術が元の威力の十倍〜百倍にはなるはず。
「お喋りはそこまでだよ。休憩エリアに到着した。僕たち――〝神託に導かれし者たち〟だけなら休憩は不要だけど、ロッディくん、ハーリアくん、リゼットくんがいるから、少し休んでいこう」
「ハァ? ザコザコ連中に合わせる必要あんの? ウチらのペースにザコザコが合わせるべきじゃね?」
「ヴァニ、パーティ全体で足並みを揃えることも大切なんだよ。A級になると大規模作戦に招集されることもあるから、格下のメンバーと行動しなきゃいけない機会も増えるんから理解してくれよ」
「……チッ、ファルサスはー優しすぎねー」
不満そうに頬を膨らませるヴァニタス。
それでも、それ以上は反論してこないのは分かりやすいわね、ヴァニタス。
「おお、ファルサス殿たちではないか! 偶然でござるな!」
不意に野太い声が周囲に響き渡る。
視線を向けると、筋骨隆々で筋肉ダルマという表現がしっくりくる男――ジン=ハギリの姿があった。
わずかにファルサスの周囲に漂う空気が濁る。
「……奇遇だね、ジン。こんな不人気迷宮で遭遇するなんて。もっと人の多い迷宮を探索していると思ったよ」
「ガハハハッ! 某も稼げる迷宮に呼ばれると思っておったので肩透かしでござるよ!」
ジンの豪快な笑い声が響き渡り、ファルサスの眉が少し歪む。
彼がこの迷宮にいるなんて想定外だったでしょうね。
私は手で口元を覆い、こみ上げてきた笑いを隠す。
「店ち――リゼット、奇遇デスネー」
「カエデ様、本当に奇遇ですわね。まさか冒険者ギルドではなく、迷宮でお会いするなんて」
ジンの後ろから、スッと姿を現したカエデ。
私とカエデは営業スマイルを顔に貼り付け、挨拶を交わす。
背後でロッディとハーリアが、笑いを堪えている気配がするわね。
私は肩越しに二人に視線を送る。
二人が瞬時に背筋を伸ばして直立する。
「ロッディ、ハーリアも、珍しいところで会ったね。元気?」
「あ、姉御!オレは元気です!」
「はい、アタシも元気です!」
「カエデ殿、三人と面識があったでござるか。某も本来は三人と迷宮探索をする予定でござったが、いやはやいやはや急きょ支援要請がござって予定変更となったでござる。まあ、カエデ殿とお近づきになれたので、全然問題ないでござるがな!」
豪華に笑うジン。
カエデが私しか気づかないほど、わずかに面倒そうな顔をしている。
彼女は暑苦しく絡んでくるやつには苦手意識があるから仕方ないわね。
「えー、ジンの旦那がなんでここにいるのさ。糞ザコパーティのヘルプに行ったんじゃなかったの?サボり?」
「やや、ヴァニタス殿、それは人聞きが悪いでござるよ。某は冒険者ギルドの要請に従ってシー級冒険者の支援で同行しているでござる。たまたま迷宮が同じだったということでござるよ」
「うっそくせー。だったら何でウチらと遭遇すんのさ。そんな難易度高くないじゃん、迷宮って」
露骨に疑いの眼差しを向けるヴァニタス。
しかし、ジンは気にした素振りは微塵もなく豪快に笑い続ける。
「C級冒険者のサポートで同行している。A級冒険者が探索するペースとC級冒険者が探索するペースは大きな差がある。C級冒険者はより慎重に進むから、A級冒険者の三分の一くらいのペースで探索できていれば、優秀な方」
「ハァァァ? なにそれ。おっそすぎじゃねー。ぜってー冒険者としてのてきせーねーじゃん」
ケラケラとお腹を抱えて下品な笑い声を響かせるヴァニタス。
ジンとカエデの後方から攻撃的な気配が生まれる。
五名の冒険者が睨むまではいかないものの、友好的とは思えない視線をこちらに向けている。
居心地の悪さを感じているのか、ロッディとハーリア、パナケルはソワソワと落ち着きがない。
「適材適所という言葉があるよ、ヴァニ。僕たちみたいに迷宮踏破を目的にしているパーティと油虫みたいに迷宮を隅から隅まで駆け回って、金になりそうな物を探し回る冒険者もいるんだよ。その過程で迷宮のマッピングが完了するんだから、大切な存在だよ」
薄っぺらな笑みを顔に貼り付けたまま、ファルサスが優しい声音で話す。
虫唾が走り、私は危うく不審者を見る目をしてしまいそうになってしまう。
横目でカエデを確認すると、いつもの無表情で背後の冒険者をジェスチャーだけで宥めていた。
「パナケル、向こうの冒険者五名に、中級回復ポーションを二つずつ渡してくれ。同行は出来ないけど、下の等級を労うのは大切なことだからね」
「わ、分かっ――」
「施しは不要。迷宮探索の準備を出来ているかどうかを確認しているから」
カエデがパナケルの返事を遮る。
少し強引だけど、軋轢の元になりそうな要素を排除するのは正しい判断だわ。
柔和な笑みを崩さず、ファルサスが肩を竦めて息を吐く。
「ふぅー、厳しいね。たかだかポーションの一つや二つ、影響はないと思うんだけどね」
「ガッハッハッハ、フラれてしもうたな、ファルサス殿。カエデ殿は実に高邁でござる。迷宮で人から労なく物をいただくことは狡いこと扱いでござるよ」
「ハァ? ばっかじゃね? 迷宮は使えるものは何でも使うが原則じゃん。コレだからB級はーアマチュア意識が抜けきれてねーんだよ。A級昇格断ってるって噂だけどー、実は自分でバラまいたデマなんじゃね?」
チリチリと肌に感じるヴァニタスの殺気。
カエデは無表情――面倒くさそうな顔だけど、私にしか分からない――で、彼女の殺気を真正面から受け流す。
反応が薄いカエデの様子にヴァニタスの表情が歪み、殺気の濃度が増す。
ファルサスとジン、あと私以外は、緊迫した表情で二人を見守る。
カエデは羽虫が飛び回って煩い程度のことだけど、ヴァニタスはいつ斬り掛かってきてもおかしくないわね。
煽り耐性低そうだし。
――パンッ!
大きな破裂音が周囲に響き渡る。
小さな悲鳴をあげてロッディに飛びつくハーリアを横目に、私は音の発生源――ジンを見る。
彼は胸の前で両手を合わせた姿勢で立っていた。
「飯でござる。人間、腹が減るとカリカリしてしまうでござるからな。ファルサス殿、食事はまだでござるか?」
「あ、ああ、まだだよ」
「うむ、それはちょうど良いでござるな。では支度をするでござるよ。ロッディ殿、ハーリア殿、リゼット殿、手伝いをお願いするでござるよ」
大笑いをしながら調理の支度を始めるジン。
あまりにも唐突すぎる行動に、ヴァニタスは毒気を抜かれて呆然と立ち尽くしている。
カエデも若干驚いているようね。
「分かりました、ジン様。私は何をすればよろしいですか?」
「リゼット殿は刃物の扱いは得意でござるか? 食材を切って欲しいでござる」
「承知いたしましたわ」
私はジンの完全に空気を読まない提案に、全力で乗っかることにする。
まだ神託に導かれし者たちのシッポを掴めてないし、こういうあえて空気を読まない行動も嫌いじゃないからね。
目を白黒させているロッディとハーリアに目配せをして、食事の支度に参加するように促す。
さてさて、ファルサスとヴァニタスがどう反応するか楽しみね。
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