41.神託に導かれし者たち
「セリアさん! こんにちはッス!」
「セリアさん、こんにちは!」
ロッディとハーリアが元気よく挨拶をしながら、冒険者ギルドの受付カウンターに駆け寄る。
走ると転ぶとか野暮な注意はせずに、私は二人の後を大人しくついていく。
「あ、ロッディくんとハーリアちゃん。もう体は大丈夫なの?」
「はい!お陰様で全快ッス!」
「アタシも元気全開です!」
力こぶを作るような感じのポーズを作り、元気アピールするロッディとハーリア。
私は二人の陰から、セリアと話していた〝神託に導かれし者たち〝のメンバーと思しき冒険者の様子を伺う。
高身長に装備の上からでも分かる鍛えられた肉体。
癖のない赤毛を肩口まで伸ばし、端正な顔立ちに穏やかな笑み浮かべていたが、セリアとの会話を遮られて二人を一瞬睨んだ。
だけど次の瞬間、驚愕した顔をする。
慌ててソイツは表情を取り繕うと、物凄く薄っぺらい穏やかそうな笑みを一旦顔に貼り付ける。
「ロッディくん! ハーリアくん! 無事だったのかい?!」
大きな声を上げると、見世物小屋の道化師もビックリするような下手くそな演技で、ソイツは二人にヨロヨロと歩み寄る。
瞳に涙を滲ませるのは、あからさますぎて反吐が出てくる。
まだ魔王に敗れて命乞いするふりをして、隙を狙う屑勇者の方がマシな演技をしてるわ。
「ファルサスさん、無事だったんッスね!」
「よかったです! アタシは、迷宮から脱出出来たんですけど、満身創痍だったから……」
「満身創痍だって! 大丈夫だったのかい?」
オーバーリアクションで驚く〝神託に導かれし者たち〝に所属している冒険者――ファルサス。
一応、A級冒険者ということで、身のこなし一つ一つは実力を感じさせる。
だけど、滲み出る屑さは隠し切れていない。
「セリア嬢、二人は〝行方不明〟ってダッシュボードに表示されていたと思うんだけど、どうして冒険者ギルドにいるんだい?」
ファルサスは笑顔でセリアに訊ねる。
彼から隠し切れない凄みが滲み出している。
普通の冒険者ギルドの受付嬢ならば、しどろもどろになるところだけど、百戦錬磨のセリアは動じない。
穏やかな笑みを浮かべたまま、セリアはファルサスの視線を受け流す。
「二人ともボロボロで、冒険者として復帰できるかどうか分からない状態だったので、一旦〝行方不明〟のままにしておきました。二人とも正式に加入しているパーティーもないので、更新優先度が低くなっているんです」
「二人とも僕たちの〝神託に導かれし者たち〝に、仮加入していたんだよ。二人が迷宮から帰還した時点で、僕に連絡があってもよくないかい?」
「仮加入と伺っていたのでご連絡が後回しになってました、すみません。ファルサスさんはA級パーティーですし、サポーターの方もたくさん所属されているので、仮加入まで逐一ご連絡してはご負担になる思い、配慮させていただきました」
ニッコリと微笑み返すセリア。
ファルサスの圧を微塵も感じさせない頼もしさ。
彼は薄っぺらい笑みを崩さないが、魔力の揺らぎが、彼の苛立ちを如実に表している。
「それより、ファルサスさんたちは大丈夫だったんですか? オレたちを逃がすために囮になってくれて心配だったんですよ」
「ああ、僕たちはキミたちを逃がした後、火力を一点集中して魔物の群れを突破することに成功したんだ」
「そうだったんですね! さすがA級パーティー! アタシたち、全滅しちゃうんじゃないかと怖くて怖くて、必死に迷宮の出口を目指して……」
「これが迷宮の怖いところだよね。僕たち、辛うじて全滅を避けることが出来たよ。それもキミたちが上手く先に戦線を離脱してくれたからだよ」
ロッディとハーリアの言葉にファルサスはしみじみとした顔で答える。
随分とスラスラと口が回るところをみると、何度も使い回している言い訳のようね。
「あ、二人とも体の方は回復したんだよね。まだ仮加入期間は残っているけど、復帰するかい?」
「あ、そのことで、ご相談があるんですけど……」
ロッディがチラリと私に視線を送る。
私が一歩前に出るとファルサスが値踏みするような視線を私に向けてくる。
「初めまして。私は〝リゼット〟と申します。F級冒険者です。A級パーティー〝神託に導かれし者たち〝のリーダーにお会いできて光栄ですわ」
私は仰々しくお辞儀をする。
ちなみに『リゼット』は冒険者登録時に使用した愛称で、偽造とかはやってないから。
色々な事情で本名を隠したいヒトは多いから、本名を表に出さずに登録できるのよね。
「……ご丁寧にありがとう。僕はファルサス・スカルド。若輩の身ながら〝神託に導かれし者たち〝のリーダーを任されてます」
「ご謙遜を。A級パーティーのリーダーなんて、実力者じゃなければ務まらないですわ」
「ハハハ、冒険者なりたてなのに、お世辞が上手いね。将来有望だ」
ファルサスが小馬鹿にしたように笑う。
横目でロッディとハーリア、セリアの顔を確認すると、何とも言えない微妙な顔をしている。
必死に笑うのを我慢しているようね。
あとでお仕置きしようかしら。
「それで相談というのは?」
「オレたちと一緒に、リゼットも仮加入させてもらえませんか?」
「A級パーティーと一緒に冒険に出る機会なんて、そうそうないからリゼットちゃんもアタシたちみたいに良い経験させたいんです」
ロッディとハーリアが頭を下げるのを見て、私もひと呼吸遅れで頭を下げる。
ファルサスが何か良からぬことを考えている事が、私には気配で伝わってくる。
私がまともに冒険者稼業をするのであれば、こんな気配を漂わせるヒトには絶対近づかない様にするわね。
「なるほどね。経験は何物にも代え難いものだからね。リゼットくんの職業はなんだい?」
「私は〝罠士〟です。道具の目利きを鍛えるためにも商人ギルドにも登録しています」
「へぇー、勤勉だね。少し前に同じように商人ギルドにも登録していたパーティーメンバーがいたよ。彼は冒険者で稼いだお金で自分の店を持つことが出来て、脱退したんだけどね」
「あら、それは残念です。私も商人ギルドに登録したので、あわよくば商人として成功して、セカンドライフも安泰と思っていたので……」
「いいね、その考えは。冒険者ば危険と隣り合わせだし、いつ冒険に出ることが出来ない身体になるか分からない。冒険以外で生計を立てる術を検討するのは大事だよ」
柏手を打って私を褒めるファルサス。
私は少し顔を赤らめるように最大限の努力をしながら俯いて、互いの人差し指を突き合わせてモジモジしてみる。
「ぶほぉ! げほっ! げほっ!」
「ど、とうしたんだいロッディくん、急にむせて」
「す、すいません。ファルサスさんが寛容過ぎて、感動してたら変なところに息が入ったみたいで……」
ロッディが大きく咳き込みながら謝る。
やっぱりロッディは腹芸とか無理なタイプだわ。下手に作戦の詳細を教えると、墓穴を掘るタイプね。
そして、必死に吹き出すのを我慢する顔を上手くファルサスから隠しながら、ロッディの背中を擦るハーリア。
彼女がロッディが墓穴を掘る前にフォローしてくれると信じるしかない状況に、私は一抹の不安を感じてしまう。
「で、では、リゼットさんも仮加入する手続きを行なっても大丈夫ですか?」
「僕は問題ないのだけど、〝神託に導かれし者たち〝は僕のワンマンパーティーじゃないから、一旦パーティーに話をさせてもらえないか?」
セリアの確認に、少し考える素振りを見せるファルサス。
カエデの事前調査で、〝神託に導かれし者たち〝の運営方針は、ファルサスがほぼ牛耳っていることがわかっているのよね。
サブリーダーが頑なに拒否しなければ、こいつの発言がそのままパーティーの運営方針になる。
ここで念の為、更に餌を増やしておく。
(カエデ、いいわよ)
「あら、二人とも久しぶり」
「あ、カエデさん!」
「姉御ッ!」
私の念話を合図にして、カエデが偶然を装って声をかけてくる。
カエデを絡ませる事はロッディとハーリアに教えていないので、良い反応をしてくれる。
そして、他に反応が三つ。
一つは当然、目の前のファルサス。
あとの二つは〝神託に導かれし者たち〝のNo.2とNo.3ね。
さて、ここからどう反応してくれるか楽しみだわ。




