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魔王に飽きたので道具屋になって平凡な生活を始めてみました  作者: 橘つかさ
新人教育

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29.報酬部屋

「さすが姉御!」

「さすがです、カエデさん!」


 ボス部屋で亜空間収納から取り出した折りたたみ椅子に座ってボーッとしていると、私の耳に飛び込んでくるロッディとハーリアの称賛の声が飛び込んでくる。

 あ、ボス部屋で留守番していたのは、眠っている二人を起こしに行くのが面倒だったからではなく、ボス部屋が無人になると自動で初期化シークエンスに移行して、最悪のパターンの場合は報酬部屋に入れなくなるから。

 決して行って戻ってくるのが面倒だったからではない、断じて。

 椅子の手すりに肘をついて頬杖しながら、私は三人の様子を眺める。

 先頭を歩くカエデの脇をロッディとハーリアの二人が称賛しながらついていく。

 まんざらでもない様子のカエデが、私の視線に気づき「フフン」と鼻を鳴らす。


「お待たせしました、店長」

「……何を二人に吹き込んだわけ?」

「カエデが店長を守りつつ、華麗に迷宮主(ダンジョンボス)を撃破した概要を簡単に伝えただけです」


 本当のことを話せない、話す気はさらさらないので、カエデが活躍して迷宮主を倒した事になっているのに不満はない。

 不満はないけど、ドヤ顔のカエデにイラッとするのは別問題のはず。


「……まあいいわ。ロッディとハーリアは、パーティ同行も含めて迷宮踏破は初めてよね。記念に報酬部屋に続く扉を開けていいわよ」

「え? マジか!」

「でも、アタシたちは迷宮主が倒されたとき、そばにいなかったし……」


 二人の反応がそれぞれ違うのは中々楽しい。

 迷宮探索を生業とする冒険者は報酬部屋に対する反応がつまんなくなっていくのよね。


「私は非戦闘員で、店員は何度も経験しているから遠慮しなくていいわよ。初めては自分たちだけで迷宮踏破したときとか決めてるなら、無理強いはしないけど」


 私の言葉を聞いて、二人は顔を見合わせる。

 言葉でやりとりはないけれど、視線だけで通じ合っている二人。

 表情の変化から、もの凄く悩んでいるのが分かる。

 そう言えば、私が道具屋を始めてしばらく経った頃、メモリアルなんとかーって、迷宮踏破の記念コインを作るのが一時期流行ことがあったな。

 今はどうなんだろ。気合入れて大量購入した記念コイン(無刻印)の在庫がまだあった気がする。

 記念コインを購入時に指定した文字とかをその場で刻印する良い商品だと思ったんだけどな。

 私が物思いに耽っていると、ロッディとハーリアが真っ直ぐに私を見つめていた。


「開ける。オレたちが単独で迷宮踏破なんて、もっと先の話だろうし、経験しておきたい」

「そして、アタシたちだけで迷宮踏破して扉を開けることを目標にする」


 強い意志を感じる視線に、私は思わず頬が弛んでしまう。

 うんうん、成長を感じさせる良い態度だわ。

 カエデと二人の態度に満足そうな顔をしている。いつも通りに無表情に見えるけど。


「なら、ちゃっちゃと開いてしまいなさい」


 私は椅子から立ち上がりながら、二人を促す。

 二人はゆっくりとした足取りで、ボス部屋奥に向う。

 私はカエデが畳んでくれた椅子を亜空間収納に仕舞い込んでから、二人の後に続く。

 二人は扉の前で立ち止まると、息ぴったりな動きで、それぞれ扉に手を添える。

 そして、一度視線を交わして頷くと、ゆっくりと扉を左右に開く。


「……ハァ?」

「……へ?」


 報酬部屋に入った二人が同時に間抜けな声を出す。

 まあ、当然の反応かしらね。

 冒険者って小さい頃に憧れた英雄譚とかで、ドラゴン倒したら溜め込まれていた金銀財宝がザックザクって先入観を持っているパターン多いし、拍子抜けするだろうね。

 立ち尽くす二人の脇から、私は報酬部屋を確認する。

 十メートル四方の白い壁の部屋。

 天井の照明で昼間の様な室内の中央に、ポツンと宝箱が置いてある。迷宮で見かける宝箱より少し装飾が多いけれど、至ってノーマルな宝箱。

 ごくごく標準的な報酬部屋のレイアウト。


「まあまあハズレ寄りのアタリですね。良かったですね、報酬なしを引き当てなくて」

「店員、標準(デフォルト)の宝箱が置いてあるからアタリでしょ。ハズレ寄りなら、もっとボロボロの宝箱になるんだから」


 私たちの言葉に二人は我に返ると、まだ状況を飲み込めていないような顔で私たちの方を見る。


「え、でも、あんなに強い迷宮主(ダンジョンボス)だったんですよ。死ぬかと思ったんですよ。その分、報酬もスゴく良い物が……」

「つ、強い魔物を倒せば、レアなアイテムが出るんじゃねぇのか……」

「迷宮探索はランクの高い迷宮より、中程度の迷宮が好まれる理由の一つです。いやらしい(トラップ)、強い魔物、そして物資を投入して迷宮主を倒しても、報酬が見合ったものとは限らない。骨折り損のくたびれ儲けが全然あり得るのです。なので、自分の実力で無理のない迷宮をチョイスして、周回する冒険者が多いのです」


 淡々と二人に説明するカエデ。

 二人は露骨に肩を落とす。

 初迷宮踏破で報酬部屋に踏み込んで、想像以下の報酬に落胆して、パーティで言い争ってパーティ解除ってあるある話なのよね。

 なので、初迷宮踏破は既に経験済みの冒険者と一緒の時が好ましいのよね。冷静にツッコミ入れることが出来るから。


「ほら、とりあえず宝箱を開けてみ。あ、報酬部屋の宝箱に(トラップ)はないはずだけど、疑うことを忘れないように。たまに迷宮主とみせかけた階層主で報酬部屋自体が罠になっていることがあるから」


 まあ、そんな意地悪設定をしている迷宮はあまりないけど、確実にあるのよね。

 私が暇つぶしに設定したから。

 二人は気を取り直して、宝箱をゆっくりと開ける。

 キィと小さな音を立てて、宝箱の蓋が開くと、複数のアイテムが入っているようで、即二人から歓喜の声が上がる。


「フォー! すっげー! こんなにアイテムが宝箱に入ってるなんて初めてだぜッ!」

「すごいすごい! ゴミ以外のアイテムが宝箱に入ってるなんて!」


 私は手を取り合って喜ぶ二人の脇から、私は宝箱の中身を盗み見る。

 一番高そうなのは銀インゴット。

 あとは儀式用ぽい短剣に付呪(エンチャント)付きの指輪と腕輪、中級回復ポーション三本ね。


「店長、ざっと見繕って金貨十五枚くらいですかね? 報酬部屋産の未開封ポーションとか割と需要があって高値で買取してませんでしたけ?」

「長期保存の結界付きだから通常価格の五倍くらいするわね。貴族が備蓄用で買い漁ってくれるわよ。んー、私の予想だと店員より、も少し高い気がするわね。まあ、誤差範疇だわ」


 ポーションの消費期限は三年だけど、報酬部屋産は十五年。ヒトの技術では再現できない長期保存用の結界で保存されているため価格も高い。

 私が暇つぶしに開発した魔術で、一番ヒトに研究されている魔術かもしれないわね。ま、あと百年くらいは解析されないはず。


「中堅冒険者が一週間の迷宮探索で、金貨十枚稼げればマシな方というので、冒険者視点では良い迷宮探索となりそうですね、店長」

「そーね、冒険者視点ならね」


 さらに魔剣を含めると金貨五百枚――白金貨五枚に余裕でなりそうな気がするけど、それは二人には内緒ね。

 私たちの会話は、ロッディとハーリアの耳には届いていないようで、二人は瞳をキラキラ輝かせながら、震える手で宝箱からアイテムを取り出して床に並べている。

 実に微笑ましい光景だわ。

 願わくば、このままピュアな感性のまま冒険者として成長して欲しいところだわ。

 冒険者は経験を積めば積むほど、擦れていく輩が多いからね。

 不意に二人の動きが止まり、私たちの方を見る。


「……リーゼさん、この辺のアイテムって何かわかりますか?」

「んー、どれどれ……革袋の方は星屑の白砂で、そっちの木片を結んだのは神樹の枯木芯かしらね。どちらも錬金術の素材で辺境ではお目にかかれないアイテムね」


 ハーリアから受け取ったアイテムを確認し、私は努めて平静に答える。

 思わず「ゲッ」と声が出なくて良かった。

 二つのアイテムは、私が管理していた迷宮では滅多にお目にかからないレアなアイテム。

 魔王城近くとか秘境とかの高難易度迷宮とかじゃないと排出しない。

 何故なら神々の管轄してる地域で産出するようなアイテムだから。神々の貯蔵庫(ストレージ)と混線したから、排出されたのかしらね、たぶん。

 こんな辺境の大して有名な迷宮がない地域で、こんなレアなアイテムが産出したと冒険者ギルドが知れば面倒になること間違いない。

 私はチラリと視線をカエデに送る。すぐに彼女は小さく頷く。


「さて、ロッディとハーリアに提案があります。この二つの素材は、カエデが長年構想している専用装備を造るために必要なのでもらっちゃいます。そのかわりに宝箱の残りのアイテムは全部二人にあげます。店長、構いませんよね?」

「……まあ、私は上級回復ポーションの材料集めが目的だったから構わないわよ。それよりも二人とも分かってる?」


 私の問いにキョトンとする二人。

 二人の様子を見て、カエデが補足してくれる。


「迷宮内部で起きたことは秘匿する権利があります。包み隠さず報告することは好ましいですが、獲得したアイテムについては別です。情報を横流しして、アイテムを保有している冒険者を襲って奪うバカが後を絶ちませんでしたから。なので、すぐに店に売り払わないアイテムなどは報告しなくても咎められない暗黙のルールが出来上がりました」

「まあ、簡単にまとめると口止めよ。この迷宮探索で何を入手したかは、店員が街に戻って冒険者ギルドに提出する報告書に記載したものだけになるわ」

「つ、つまりアタシたちが口外したら……」

「もち違約金を請求するわよ二人に。それも法外な額で」


 私が満面の笑みを二人に向けると、ロッディとハーリアが顔を青ざめさせながら手を取り合って震え始める。


「店長、ヘタな脅しは逆効果です。無敵の人になるかもしれませんから。とにかく、二人とも迷宮踏破の報酬は二人に譲ったアイテムだけ。良いですか?」

「「はい、仰せのままに!」」


 カエデの念押しに、二人は立ち上がって踵を揃え、背筋をピンと伸ばして返事をする。

 私のときと対応が違いすぎない?


「……まあ、二人がきちんと理解してくれたと信じることにするわ。さっさとアイテム回収して、奥にある帰還用の魔法陣に乗って地上に帰るわよ」


 地上に戻った瞬間に、この即席迷宮は消滅しちゃうけど。と口に出さずに付け加える。

 二人は気づいていないようだけど、迷宮崩壊の前兆――迷宮全体が微細な振動を始めている。

 カエデが冒険者ギルドに提出する報告書は無駄になってしまう事が確定事項。彼女はどれくらい手を抜いた報告書を提出するのかしらね。


 私たちは談笑しながら地上に帰った。

 広義な意味で帰還用の魔法陣は(トラップ)なので、ロッディが本能的に魔法陣に乗ることを拒絶するという想定外のトラブルがあったのは、また別のお話。

 本来の目的だった上級回復ポーションの材料は手にはいらなかったし、納品の契約はどうしようかしら。


お読みいただきありがとうございます!


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