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魔王に飽きたので道具屋になって平凡な生活を始めてみました  作者: 橘つかさ
新人教育

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20/34

20.ボス部屋はまだ遠く……

「あわあわあわ……数は増えるし、強くなっていくし、もー迷宮(ダンジョン)なんてイヤーーっ!」

「キンキン甲高い声で叫ぶなッ! 頭に響くだろーがッ!」


 涙目のハーリアが喚きながら、魔物――スケルトンナイトの剣を躱す。

 彼女の声に顔を顰めながら、ロッディがスケルトンナイトに体当たりをして姿勢を崩す。

 間髪入れずにハーリアが涙目のまま、スケルトンナイトに駆け寄る。


「浄霊の霧よ、《ピュリファイ・ミスト》!」


 彼女は少しの無駄な動作もなく、初級浄化魔術を発動する。

 穢れを払う浄化の霧に包み込まれたスケルトンナイトは苦しそうにもがき始める。

 あの苦しみ方は確実にダメージが入っているわね。普通は初級浄化魔術で入るダメージは微々たるものなのに。

 格上相手に連戦で魔術行使させたから、練度が急上昇したのかしらね。


「……死ねッ」


 ロッディがのたうち回るスケルトンの胸部を短剣で刺す。

 彼が短剣を引き抜くとスケルトンから動きが消える。

 先程まで繋がっていた関節が外れ、バラバラとなって床に落ちる。

 スケルトンを動かしていた〝核〟を正確に短剣で突いたようね。

 ヒトが魔晶石を核――偽魂(ぎこん)を正確に攻撃するのは難易度高いはずだけど、神々(くそったれども)の用意する核は、ロッディの能力と相性が良いのかしらね。


「んー、ただの短剣で突いたくらいで破壊できるはずはないのだけど――」


 私は小首を傾げながら周囲を見渡す。するとカエデがドヤ顔で親指を立てていた。


「――ああ、なるほどね。さすが仕事が早いわね」


 そう呟きながら、私はロッディの短剣を凝視する。

 うっすらとカエデの魔力を帯びていることが確認できる。弱体化しているとはいえ、この距離で私が意識しないと気付かない付与をするなんてね。


「まだこの階層をウロチョロしている魔物も多いし、階段部屋にたどり着くには、もう少し時間がかかりそうね。二人とも順調に魔物を処理できているのだけど」

「テンチョー、そっちに一体逃がしましター。暇潰しに倒してくださーイ」


 ロッディとハーリアの奮闘を眺めていると聞こえてくる棒読みのカエデの声。

 ちらり、と視線を向けると錆びてボロボロの手甲を眼前に構えたスケルトンモンクが私に向かってきていた。

 数体のスケルトンを相手している二人が私の援護に向かう余裕はない。というか私の方に魔物が突っ込んで来ていることに気付いてもいない。

 格上の魔物相手に頑張っているから、仕方ないわね。


「あーもー、めんどくさい……」


 私はリュックに手を突っ込むと、蓄光硝子玉を取り出す。

 太陽の光を溜め込む陽光石の粉末を混ぜ込んで作ったガラス玉。

 三個ほど右手に握り込むと、迫ってきていたスケルトンモンクを眺めながら――


「|蓄光硝子玉、少しお高いんだけど」


 ――容赦なく投げつける。

 パキンと小さな音を立ててガラス玉が割れると同時に内包していた陽光が溢れだす。

 陽光は私の手の届く距離まで迫っていたスケルトンモンクを容赦なく灼く。


「グギャァァァ!」


 スケルトンモンクの絶叫が響くと上半身は消え去り、残っていた腰から下の骨がカランカランと音を立てて床に落ちる。


「……店員」

「さすが店長。素晴らしい道具(アイテム)チョイスでした」

「蓄光硝子玉の代金は給料から天引きしておくわよ」

「それはご無体。カエデは気を利かせて魔物を通してあげただけなのに……」


 確かに眺めるだけで暇を持て余していたけれど、油断大敵。

 気を抜いて私たちの正体がバレるわけにもいかない。

 涙目でカエデが訴えてくるが、グッと堪えて発言を撤回しない。


「ハァハァハァ……。スケルトン軍団、倒し終わりました……。ロッディは、何かドロップしてないか、軽く見て回って……ます……」


 息も絶え絶えな様子のハーリアが、私たちのそばにフラフラと近づいてくる。

 さすがにこれ以上の連戦は難しそうね。


「分かったわ。店員、休めそうな場所はありそう?」

「そうですねー……」


 カエデは周囲を見渡す。

 少し離れたところに、魔物が寄り付かない区画がある事に彼女も気付いているはず。


「あちらの方に魔物の気配が薄い場所がありそうです」


 私が思っていた方向を指さすカエデ。


「なら、そこを目指すことにするわよ。店員、極力魔物との接触を避けるルートをお願い。ハーリア、ロッディは体力温存で私と並んで、店員の後ろを歩くわよ」


 ガラクタを必死に集めていたロッディの頭を叩いて止めさせ、私たちは安全地帯と思しき区画を目指した。


*****


「んー、この辺のはずだけど……」


 呟きながら私は左右を見る。

 石造りの通路に、等間隔に並ぶ光の玉――魔導ランプ。

 手入れの行き届いたとは言えないけど、スケルトンが徘徊しているとは思えないほど、清潔感のある通路が伸びている。


「何も無いだろッ。さっさと移動しねぇと魔物が寄ってくるぜッ」

「リーゼさん、ロッディの言う通りですよ。気になるところはあるかもしれませんけど、通路で立ち止まってたら、スケルトンに挟み打ちされちゃいますよ」


 忙しなく左右を確認するロッディとハーリア。

 歩いてきた通路に、所々魔物避けに聖塩を落としてきたから、しばらく後ろから魔物が襲ってくることはない予定。


「失礼します、店長」


 カエデが私のすぐ横で、両手を通路の壁につけて目を閉じる。

 そして、彼女は「フゥー」と静かに息を吐く。呼気に合わせるように、カエデの魔力が波紋のように壁いっぱいに広がっていく。


「……ふむふむ、分かりました」


 そう言うと、カエデはトコトコと数メートル横に歩く。少ししゃがんで無造作に右手を壁に突き出す。


――ガコッ


 小さな音を立てて、壁の一部が奥に押し込まれる。

 壁の内部から何かが動く音が断続的に響いてくる。

 身構えながら周囲を警戒する二人を横目に、私は音――仕掛けの駆動音が止まるのを待つ。

 時間にして一分程度。

 ひときわ大きな音が鳴ったと思うと、壁の一角がズズズッと音を立てて左右に開く。

 ヒンヤリとした空気が、開いた空間から漂ってくる。


「……ッ、イヤな空気」


 私は空気に混じる神気に、思わず悪態をついてしまう。


「か、隠し扉! 凄い! どうして分かったんですか、カエデさん!」

「さすが姉御ッ! 隠し通路看破の特技(スキル)持ってんですか?」

「フフフッ、騒がない騒がない。これがB級冒険者の勘というやつ」


 驚く二人にドヤ顔で応えるカエデ。

 だけど、ピンと逆立つ尻尾が、彼女の心境を表現している。

 カエデも神気を警戒してるみたいね。


「……どうしたんですか、リーゼさん? なんか顔が強張ってませんか? 隠し部屋、なんか、こう、安心感みたいな感じがしてきませんか?」

「そうね、ハーリアたちには、そう感じるはずよね。(トラップ)がないが心配してただけだから、気にしないで」

「あ、確かに罠は怖いですからね! でも、こんなに巧妙に隠された隠し部屋ですから、罠なんて仕掛けてないですよ、きっと」


 楽観的なハーリア。彼女は隠し部屋に何の不安も感じていないようだった。

 ヒトにとって、神気は安らぎとか心地よさとか感じるモノらしいし、当然の反応かしらね。

 ロッディも同じ様に、隠し部屋に警戒していない様だった。

 私は視線をカエデに送る。彼女は小さく頷く。


「隠し部屋に入ります。中に魔物の気配はありません。罠があるかもしれないので、カエデが確認するまで動き回らないでください」


 カエデの言葉に素直に返事をする二人。

 緊張感の足りない声に、私は思わず肩を窄めて嘆息してしまう。

 部屋の中に魔物の類はいないようだけど、気になる気配はあるのよね。

 私は周囲に意識を向けながら、カエデたちに続いて隠し部屋に足を踏み入れた。


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