19.情報整理
「カエデ、あのロックゴーレムの行動はどう思ったかしら? 神々のいやーな臭いがしていなかった?」
「……そうですね。連中の臭いがしました」
「でしょう。憂鬱すぎるわ」
私はため息をつきながら、テントの天井を見上げる。
ドクンと胸の奥底で熱い何かが胎動するが、私は気づかないふりをする。
「基本的に迷宮は〝魔王システム〟で創られるわ。カエデには一部管理を丸投げしていたから知っていると思うけど」
「そうですね。魔王様が飽きたと言ってカエデに押し付けてきましたから。迷宮の仕様と設定値を弄れば、魔素が枯渇しない限りシステムが自動運営してくれるので、大変楽です。それをわずわらしいと申された魔王様のズボラさは、どうにかならないものかとカエデが悩んだのも懐かしいお話です」
ジト目を向けてくるカエデを私はあえてスルーしておく。
本筋から外れる話題に乗っかるのは良くない、良くない。
「神々の一部に迷宮創造の権限がある加虐嗜好たちがいるわ。神々の試練とか言い訳して、魔王の計画とかガン無視して、迷宮を創る迷惑な連中ね」
「その迷宮はシステム上で〝特殊迷宮〟と表示されていたのをカエデは記憶しています」
「そうね。原則、神々が迷宮を創る仕組みも魔王と同じはずだから。システムで捕捉はできるのよね。操作は何も受け付けないけど」
魔王の直轄地に無断で迷宮創ったバカが後を絶たなかったのよね。ヒトが迷宮に入ってくる前に、私が迷宮踏破して休眠期にしてやったのに懲りない連中だったわ。
「連中とは違う多種多様な迷宮を創るために、貯蔵庫に備蓄していた素材を投入――魔晶石の欠片とか、古代植物の樹液とか――する必要があったとカエデは記憶しています」
「そうね。基本的な部分が同じだから、迷宮を構成する素材に差をつけないと似たり寄ったりになるわね」
カエデはスッと目を細める。
「……即席迷宮は混線することがありますよね?」
「そうだったわね。忘れていたわ。神々の素材が混入したわけね。ただでさえシステムの管理者――〝魔王〟が不在で不安定だから、混線が起きる確率も上がるわ」
私は軽い頭痛を覚えてコメカミを揉む。
神々が懇意にしている神都から離れているし、即席迷宮に影響が出るとは考えてなかったわ。
「素材の消費に気づいて、神々が即席迷宮に押しかけてくるかしら?」
「怠惰な連中なので、それは無いとカエデは考えますが、迷宮主の性能は予想が出来ません。……まあ、いざとなればカエデが全力を出して相手をするので、問題は何もありません」
「ふふふ、さすがカエデね。頼りになるわ」
えっへん、と胸を張るカエデ。
私は思わず頬が弛んでしまう。
「それはそうと、ポーションの素材は集まっているんですか、店長?」
「……ボチボチよ」
必要数の一割にも満たない量しか集まっていない素材。
ニッコリ笑うカエデに、私はぎこちなく笑い返すことしか出来なかった。
迷宮主、良い素材を出してくれないかしら。
*****
「嫌な予感は確定ね」
私は思わず呟いてしまう。
階層主の階から降りると、それまでの坑道のような内装から、神殿を彷彿させる内装に変わる。
ちらり、とカエデを確認すると目を見開いて口を開けた――猫のフレーメン反応みたいな――状態になっていた。
物凄くイヤそうな顔をしている理由は、ありとあらゆる感覚を弱体化している私でも分かる。
空間に残り香のような神気が漂っている。
この程度の神気、私やカエデに何の影響もないが、気分は最悪になる。
「……店長、帰りませんか?」
「ダメよ。帰れるわけないでしょ」
「店長の返事は分かりきっていましたが、カエデは確認せずにはいられませんでした」
硬直から復帰したカエデは肩を落としながら、ため息をつく。
カエデのやる気を一気に削ぐなんて、なかなか出来ることじゃないわ。
この迷宮が魔王軍を対象として創られていたのならば、迷宮創造した輩をやり手と褒めていたところだわ。
「あのー、どうしました? お二人とも急に元気がなくなったみたいですけど……」
「ああ、ごめんなさい。見ての通りよ。この神殿みたいな内装で、私が集めたいと思っている素材が見つかると思う?」
私の言葉にハーリアはポン、と柏手を打つ。そして、軽く周囲を見渡してウンウンと納得したように頷いてみせる。
「確かに! 神殿ぽいから鉱物とか苔とか草とか見つからなさそう!」
「チッ、少し音量下げろッ。凹凸の多いさっきまでの坑道みたいな通路より声が響きやすい。魔物が寄ってくるだろッ」
ロッディの指摘に慌てて両手で口を塞ぐハーリア。
実に微笑ましい反応だわ。
「ロッディ、ハーリア、準備しなさい。来ます」
「え? 階段部屋は安全地帯なのでは……」
「チッ、そいうことか。階段部屋は階段の前の一マスだ。壁を見ろッ」
部屋の壁が階段の方に一マス分――約一メートル凸っている。この部屋と階段が直接繋がっていないため、安全地帯として認識されていないのだろう。
神々が好んでやりそうな仕様の穴をつく図面だ。憂鬱な気分が増してしまう。
これで〝混線〟は確定ね。
そして、神々の要素たっぷりの迷宮主が出てくる確率も爆上がりだわ。
私が顔を顰めていると、部屋に数体の魔物――スケルトンが入ってきた。
武具を手にしていないところを見る限り、最低級のスケルトンのようね。
「す、スケルトン! ど、どうしょ、アタシは聖属性の攻撃魔術は使えないよ」
「落ち着け。回復士の使える浄化魔術とか回復魔術とかあるだろ」
「あ、ある、あるよ。でも、効果範囲が短いよ」
数体の魔物に慌てたハーリアだけど、ロッディの言葉に落ち着きを取り戻す。
初級の浄化魔術や回復魔術は手の届く範囲で扱うものが多かったはず。武器を持っていないタイプとはいえ、ハーリアには少し荷が重いかしらね。
「正面の一体をロッディとハーリアで始末しなさい。ロッディがスケルトンの攻撃を防いで、隙をついてハーリアが攻撃。残りはカエデが相手するので、慌てずに確実に倒しなさい」
「「仰せのままに」」
二人が返事をすると同時にカエデが床を蹴る。
しなやかな動きで、先頭のスケルトンの横を通り抜ける。
ワンテンポ遅れて、ロッディが先頭のスケルトンに突撃する。
『ガァァァァァ!!』
何処から出しているのか、スケルトンが叫びながらロッディに振り上げた右拳を叩きつける。
「当たるかよッ」
逆手に握った短剣で、ロッディがスケルトンの拳を受け流す。
続けてスケルトンが左腕を鞭のように横に払う。
ロッディはしゃがみ込みながら、スケルトンの足を払う。
「ハーリアッ!」
「うん。――《浄霊の霧》!」
駆け込んできたハーリアが倒れたスケルトンに向けて初級浄化魔術を行使する。
一時的に不浄を払う霧に包まれ、スケルトンが硬直する。
「死にやがれッ!」
ロッディがスケルトンの胸部にかかと落としを叩き込む。
会心の一撃ね。
スケルトンは現世に留まる楔を断ち切られ、サラサラと崩れていく。
「よっしゃッ!」
「うまくいってよかったよ……」
喜ぶ二人を眺めていると、音もなくカエデが戻ってきた。
彼女は何処か浮かない表情をしている。
「スケルトンから魔晶石をドロップしませんでした」
「……そう、わかったわ」
この手の魔物は、魔晶石を核――偽魂にして骸を動かす。
なので、魔物を倒すと確実に魔晶石を落とす。
魔晶石を落とさないという事は――。
神々の手口を思い出し、私は胸糞悪さに奥歯を噛み締めた。
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