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魔王に飽きたので道具屋になって平凡な生活を始めてみました  作者: 橘つかさ


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17/19

17.階層主

「二人の準備が整っているのなら、大扉を開きなさい」


 カエデの坦々とした声が階層主(フロアボス)の前の安全地帯に響く。

 緊張で二人の心拍音が速まっているのが、私は手に取るように分かる。

 まー、仕方ないか。階層主を見るのも部屋に入るのも初めてみたいだから。誰でも最初は未経験とか言って、カエデが二人に突入を任せたけど、F級冒険者には荷が重くないかしら。

 私がやきもきしていると、二人は一度顔を見合わせると申し合わせたように深呼吸をして気を静める。


「ハーリア、いいか?」

「う、うん。行こうロッディ」


 ……なんか青春ってやつを感じちゃうな。

 二人は頷き合うと、重量のありそうな石造りの大扉に、全身の体重を預けるようにして押す。

 ズズズッと床をこするような音を響かせ、ゆっくりと大扉は開いていく。

 そして、大扉の隙間から漂ってくる威圧感(プッシャー)がジワジワと強まっていく。

 ヒトが並んで二人くらい通れそうなくらい大扉が開いたところで、ロッディとハーリはタタタッと小さな足音を立てながら部屋に駆け込む。

 私はワンテンポ遅れて部屋に入る。

 部屋の中は、淀んだ空気と溜まった暗闇が部屋の中を漆黒に塗り潰していた。

 そして、部屋の中央に浮かび上がっているのは丸い紅い瞳。


「ヒィ! おば、オバケ……」

「バカッ、階層主から目をそらすな」


 暗闇で階層主の全身が分からず戸惑う二人。ロッディの激で、辛うじてハーリアが戦闘態勢を維持する。

 私の視界には、部屋の中央に浮かぶ赤い瞳の主をハッキリと捉えている。

 ゴツゴツとした無骨なシルエット。生物的な部分はなく、無機質な岩石の塊。


――バタン!


 突然、大扉が大きな音を立てて閉まる。


「階層主から目をそらさない。ただ退路がなくなっただけよ」


 反射的に大扉の方を振り向いたロッディとハーリアに、私は注意する。


『侵入者ヲ補足シマシタ。排除シマス』


 間髪入れずに抑揚のない合成音声が岩石の塊から放たれる。

 ブォンという振動音が空気を震わせ、部屋の照明がつく。そして、岩石に筋が入り、分かれていく。

 まばたきの間に――カエデが瞬殺しようとする気配があったけど止めた――手足に変わり、岩石の塊からヒト型に変形した。

 やっぱりロックゴーレムね。核の魔石は冒険者お決まりの換金アイテムだけど、パーティの火力と相性がイマイチだわ。

 私が冷ややかにロックゴーレムを眺めていると、傍らにカエデが立つ。


「ロックゴーレムのようですが、特別(ユニーク)個体のようです。起動させると面倒そうなので、サックリ倒しておきたかったのですが」

「昨日、二人には経験を積ませるみたいなことを店員が話していたのを思い出したのよ。二人と相性が悪そうな相手だし、ちょうど良くない?」


 特別個体――通常の魔物より何かしらカスタマイズされた個体。当然、通常個体より能力が高くて強敵だ。魔物の種類や場所で調整していたけど、発生率の目安は0.02%くらいに調整していたかな。

 ロックゴーレムは、その名の通りに主な素材は岩石。だけど、通常のロックゴーレムより線が細い。更に頭部や肩、手足に鎧のような金属製の追加パーツがある。

 軽量化による速度強化と、部分的に装甲を追加した防御力向上といったところだろうか。

 ロッディの短剣による斬撃や、ハーリアの火系攻撃魔術に対して耐性が高い。戦闘は苦労するだろうね。


「エー、良くないです。全然良くないです。相性が悪い(それ)が分かっているなら、カエデを止めるべきではなかったとカエデは思うのですよ、、店長」


 カエデが不満そうに頬を膨らませる。

 私は苦笑しながら、顎で攻めあぐねている二人を指す。

 カエデは肩をすくめて見せると、すぐに表情をいつもの無表情に戻す。


「ロッディ、まずは投石器(スリング)でけん制」

「分かりました、姉御ッ!」

「ハーリアは水系や氷系の魔術は使えますか?」

「い、いちおう、水系なら……」

「なら、火系を放ったら即座に水系を同じ場所に撃ち込みなさい」

「は、はい、わかりました」


 カエデの言葉に素早く動く二人。


「せいッ! 大人しく食らっとけやッ!」


 ロッディがロックゴーレムを中心に円を描くように移動しながら、投石器で弾を連続で撃ち出す。

 ピンポイントで着弾とはならなかったけど、全弾ロックゴーレムにヒット。着弾と同時に炸裂弾が弾け、爆発音が部屋を揺らす。


「《ファイアボルト》」


 爆煙に包まれたロックゴーレムにハーリアが初級攻撃魔術(ファイアボルト)を撃ち込む。

 そして、すぐさま次の魔術の準備に移る。


「……うまくまとまっ、てよ《ウォー――」

『損傷軽微。魔術反応アリ。迎撃シマス』


 爆煙からロックゴーレムが砲弾のように飛び出してくる。狙いはハーリアだ。

 一瞬、ハーリアの体が硬直する。彼女は魔術の発動を強制キャンセルして、横っ飛び。

 ロッディがロックゴーレムの側面に回り込むと火をつけた拳大の爆弾――小粒の魔晶石を材料にした安物の魔導具――を投げつける。


「……減点ね。カエデ」


 パチン、と私は指を鳴らす。

 同時に大きな爆発音と爆煙が広がる。

 爆煙は私を避けるように後ろに流れていく。 ちょっとだけ空気の流れを細工したから。


「けほっ! げほっ!」


 煙の中から、ハーリアを小脇に抱えたカエデが飛び出してきた。

 ロックゴーレムから貰ったダメージはなさそうね。

 私はロックゴーレムから少し距離を取り、あからさまに安堵しているロッディに声をかける。


「ロッディ、使う道具の効果とか考えて使いなさいよ。さっきの魔導具(やつ)は、音と煙は派手なのだけど、威力は大したことないわよ。そもそも魔物から逃げるときに使う魔導具(もの)だし、ロックゴーレムみたいな非生物に対しては効果が薄いから、全然チョイスが悪いわよ」

「ッ! うっせぇ! 咄嗟に掴んだから判断できなかったんだよッ!」

「冒険者は瞬間の行動が生死を分けるわよ。道具はきちんと整理して、咄嗟のときにも最適な道具(アイテム)を使えるのようにしないと死ぬわよ、()()()

「オレが仲間を死なせ――」

『排除シマス』


 ロックゴーレムがロッディに突貫する。

 通常のゴーレムなら、ロッディの身のこなしで余裕で回避していると思うけど、さすがは特別個体ね。小回りが利くわね。


「ッ! クソがッ!」

「出力上昇。回避パターン学習完了。攻撃ニ移行シマス」


 なんともまあ律儀なロックゴーレムね。

 ロッディはロックゴーレムの攻撃――自分の胴体くらいの拳――を紙一重で回避する。

 一回、二回、三回――ヒトとは違い体力という枷がないため、ロックゴーレムの攻撃は止まらない。

 回避し続けるロッディは少しずつ顔色が悪くなっていく。

 一撃でも当たれば大ダメージ必須。緊迫した精神状態はロッディの体力をガリガリ削り取っていく。

 彼の体力はあと何分続くのかしらね。


「《ファイアボルト》! 《ファイアボルト》!」

『緊急防御行動ヲ実行シマス』


 ロックゴーレムは両前腕を正面に構えて火球を受け止める。

 衝撃にロックゴーレムの体が震えるが体勢を崩すには至らない。

 だけど、その隙にロッディはロックゴーレムから大きく距離を取り、肩で息をしている。


「嘘、全然効いてない! ここまでの魔物はダメージあったのに」

「階層主ですよ。道中の魔物と同じに考えるのはどうかと思います。あと水系をすぐ使うようにとカエデは言いましたが」

「す、すみません」

「謝るのは結構ですが、判断ミスは生死にかかわると理解してください」


 んー、ロッディとハーリアをメインに据えて階層主(ロックゴーレム)討伐は無茶すぎたかな。

 ()る気満々の階層主を眺めながら、私はガサゴソとリュック――と見せかけて亜空間収納――を探す。

 なんか程よい感じの道具がなかったかしら。


お読みいただきありがとうございます。


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