16.安全地帯
「ゼーハー、ゼーハー……姉御、ボス部屋前の安全地帯、到着だぜッ……」
「つ、疲れた……このまま階層主との戦闘に、直行じゃないです、よね?」
息も絶え絶えなロッディとハーリア。
まだ二人とも、F級冒険者だし、迷宮探索に慣れていないでしょうから疲労が凄そうね。外と違って魔物がいつどこから襲ってくるか分からないから、常に周囲への警戒を解くわけいかないから。
まあ、私やカエデはフロアのどこに魔物がいるのか感知して丸わかりだから、二人の感覚を理解してあげることが出来ないのだけどね。
「ええ、さすがに休憩を挟みます。カエデ一人ならまだしも、二人の状況を顧みて、階層主に挑むことは無謀ですから」
「よ、よかったぁ……」
瞳を涙で潤ませながら、へたり込むハーリア。ロッディも口にはしないがホッとしているのが見て取れる。
約六時間の強行軍。一時間に一、二回の戦闘を挟んでいたのによく辿り着けたと思うわ。たぶん、カエデが最短ルートを選んで進んでいなければ、ボス部屋前の安全地帯に辿り着くだけで一、二日は必要だったんじゃないかな。
「店員、休憩することに意義はないのだけど、階層主の相手はどうするつもり? 未調査迷宮だから、階層主についての情報もゼロ。事前に対策をとることも難しいわよ」
「店長の指摘はもっともですが、方針について大きな変更はありません。ロッディが斥候として動いて階層主を撹乱し、その隙を突いてハーリアが攻撃魔術を階層主に撃ち込む。追撃が可能ならば、ロッディが攻撃です。カエデはあくまでも二人のサポートという形を崩しません」
「二人はそれでもんだいないの?」
「オレは姉御の指示に従うだけだぜ」
「あ、アタシがメイン火力になるのが不安だけど、カエデさんの指示なら……」
カエデの作戦に異論なし、ね。
なんというか、昔っから無愛想ぶっきらぼうだけど、部下には懐かれるのよね、カエデは。私の方は『恐いから従ってる』みたいな子が多かったのに、ズルいわよね。私も〝部下〟は可愛がってあげるのに。
「んー、方針定まっているなら、私から言うことはないわ。あ、私はどう立ち回った方が良いの?」
「店長はー、二人の邪魔しなければ、投石器とか魔導具でチクチクと階層主を攻撃していいですよ? あ、安全地帯で留守番とか言い出してグータラするのはダメですよ。ボス部屋は戦闘中はドアが施錠されますから」
「それくらい分かっているわよ。私が投石器で攻撃して大丈夫?」
私が確認を取るとロッディが嫌そうに顔を歪める。一度、カエデの方に視線を向けるが、諦めたように深いため息をつく。
「……いいけどよ、オレが動いている時に攻撃するのはやめてくれ。リズムが乱れる。ヴァル流暗殺術は精神状態が乱れると精度が一気に落ちる。戦闘中にそうなれば一撃喰らって昇天確実だからな」
精神状態だけで説明が出来る領域じゃないんだけど、とツッコミを入れたくなったけど、私はグッと堪える。
私はハーリアに視線を移す。
「あ、アタシも大丈夫です。というか周囲を気にして魔術を使う余裕がないから。逆にリーゼさんの攻撃の邪魔しちゃうかも……」
「これまでの戦闘を見る限り、ハーリアは十分過ぎるほど周囲の状況が見えているような気がするのだけど」
「そ、それは組んでいるのがロッディだからで……。幼馴染で付き合いが長いから、動く時の癖? 空気? が何となく感じ取れるから、それに合わせて魔術を行使しているだけだから」
二人組――バディがゆえの信頼感ってやつかしら。私もバディ制を取り入れたことがあったけど、著しく戦果の上がった組と下がった組の差が激しくて止めたのよね。
何にせよあれだけタイミングよく魔術を行使できているのは才能だわ。ロッディ以外にもすぐ適応するはず。
「店長、確認事は休憩の準備を済ましてからにしましょう。テントを出してください」
「はいはい、分かったわよ。さっさと準備を終わらせて階層主に備えるわよ」
リュック――と見せかけて亜空間収納――からテント一式を二セット、取り出す。カエデが一セットを掴み上げるとロッディに向かって放り投げる。
かるーく放り投げているけど、重量は五キロくらいあるのよね。ロッディは体で受け止め「グェッ」と声を漏らす。
二人がテントを準備し始めたことを確認し、カエデの様子を確認するとテントを張り終えていた。
ドヤ顔のカエデに私は嘆息しながら背伸びをして、ポンポンと頭を撫でてやるのだった。
*****
「そいえば、ハーリアは、いつからロッディと組んでいるの?」
食事の後片付けも終わった団らんの時間に、ふと思い立った疑問をハーリアに投げる。
彼女は少し驚いたような素振りを見せたが素直に私の疑問に答えてくれる。
「五歳くらいからです。たまたま私の家の隣に空き家があって、そこにロッディが家族で移住してきたから。ロッディ、ロッディのお父さん、お母さん、お爺さん。あ、ロッディのお兄さんも。五人家族が移住してきて村長さんも大喜びしてたんだよね」
「たまたま親父のツテで、ハーリアの村を紹介されたんだよ。程よく田舎で移住の受け入れ枠があったんだよ」
「へー、ロッディはお兄ちゃんがいるのか。お兄ちゃんも冒険者しているの?」
何の気なしに訊ねたのだけど、露骨に空気が悪くなる。主にハーリアが気まずそうにしている。彼女はロッディの様子を窺い、彼はわざとらしいため息をつく。
「わかんねぇ。オレより才能があったから、武器全般を器用に使いこなしてたし、冒険者になってる可能性がたけーとは思うけど」
「わかんない? お兄ちゃんのことなのに?」
「……村を出ちゃったから。アタシが振った後に」
物凄く申し訳なさそうに、小さく呟くハーリア。ロッディが不機嫌そうにそっぽを向く。
期待してなかった展開に、私は呆気にとられてしまう。
「テンチョーはダメですネー。デリカシーが無くて」
「……店員、情報隠蔽していたわね」
「個人情報を無闇にばら撒くことは良くないです。店長に求められれば、カエデは開示するつもりでしたよ。隠蔽するつもりはありません」
したり顔のカエデ。
私は反射的に寄ってしまった眉間のシワを指で伸ばす。
「で、ロッディのお兄ちゃんは冒険者になっているわけ?」
「確証はありませんが、それらしき人物は数名見つかりました。大雑把な条件で探したので精度はイマイチです」
「らしいわよ。この依頼が終わった後、お兄ちゃんがどーしているのか知りたいなら、店長に言いなさい。特別サービスで無料で調べさせるから」
「B級冒険者を無料で働かせる約束するのは横暴とカエデは思うのですけど」
「片手間で終わらせられる内容でしょ。さすが店員」
ブーブーと不満そうなカエデをほっといて、元々、話したかった内容に話題を戻す。
「ハーリアは、身内に魔術が使えるヒトがいる?」
「アタシは会ったことがないんですけど、母方の曾祖母が魔術が使えたって聞いてます。魔術でたくさんの人を助けたから、〝聖女〟とか〝慈母〟とか呼ばれて慕われていたって祖母が言ってました」
「曾祖母以外は魔術が使えない?」
「祖母が曾祖母に少し魔術を習っていたから、火起こしとか水を出すとか、ちょっとした生活魔術を使えるらしいけど、アタシは祖母が使っているところを見たことないので……」
魔術を行使できる血縁者がいるパターンね。遺伝で才能が発露しやすいのよね、魔術は。
私は素早くカエデに合図を送る。すぐに彼女は小さく頷く。
気にすることじゃないとは思うけど、これで街に帰ったら、ハーリアについてもカエデが調べてくれるはず。
その後は階層主との戦闘について確認し、何気ない雑談をしてお開きとなった。
こっそりと二人のテントに、体力回復と安眠の〝おまじない〟をしてから、私も眠りについた。
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