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魔王に飽きたので道具屋になって平凡な生活を始めてみました  作者: 橘つかさ


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13/19

13.攻略開始

「りーぜしゃん、おふぁよう……ございましゅ……」

「おはよう、ハーリア。ずいぶんと眠たそうね。野営とか苦手?」

「アタシ、とロッディ……は、田舎育ちだから、野宿とか苦手意識はないですないれふ。ただ、うるさかった、ので……寝つきが悪かった、レス」


 閉じかけた瞳とフラフラと左右に揺れる頭を必死に支えながら、テントから出てくるハーリア。

 ちなみにテントは私とカエデで一つ、ハーリアとロッディで一つという感じ。幼馴染らしいけど、男女で一つのテントは困ることもあるだろうってことで、もう一つテントを出してもよかったんだけど、ハーリアが固辞したのよね。

 今日から本格的に迷宮探索したいのだけど、寝不足で迷宮を彷徨くのは危険極まりないわね。眠気覚ましの魔術があったりするのだけど、私が魔術を行使するわけいかない。

 私はスカートのポッケから、油紙に包まれた親指の爪くらいの大きさの飴玉を取り出してハーリアに差し出す。


「そこまで効果の高いやつじゃないけど、疲労回復と眠気覚ましの効果のある飴玉よ。朝食にはもう少し時間がかかるから、口に放り込んでおきなさい」

「あ、ありがとうございまふ……」


 ノロノロとした動きで、私の言葉に素直に従うハーリア。ゆっくりとした動きで飴玉を口に放り込むと、コロコロと口の中で飴玉を転がす。

 徐々にハーリアの顔が笑顔に変わっていく。


「り、リーゼさん! こ、これは、どこで買えるんですか? こんな美味しい飴玉、初めてです!」

「王都で売ってるらしいわよ。以前、行商から試しに仕入れてみたけど、男の子って甘い物とか冒険者らしくないって敬遠するでしょ。だから売れ残ってて、今は私のオヤツになってたの」

「王都! やっぱり王都はスゴイですね! こんな美味しいものが売ってるなんて!」


 目をキラキラ輝かせるハーリア。

 うんうん、実に可愛らしくて良いわね、小動物みたいで。


「んで、アッチの方は……」


 憂鬱な気持ちで、私は五感から排除していた現実に向き直ることにする。


「姉御ッ! お湯が沸きやしたッ!」

「ご苦労さまです。店長、豆茶を飲みますよね。ロッディ、この豆をこの手回しミルで優しく挽いてください」

「わっかりましたッ!」


 昨日までの姿が嘘のように、キビキビと動くロッディ。

 カエデ、一晩でどんな教育を施したのよ……。

朝から脱力感を感じつつ、折りたたみ椅子に私が腰を下ろすと、カエデが金属カップを差し出してくる。

 立ち上る白い湯気と一緒に、ふわりと鼻腔をくすぐる芳ばしく苦味を感じる香り。私は豆茶を一口啜ると熱い感覚が、体の芯から広がっていく。

 朝の目醒めの儀式。

 カチリ、と私の中でスイッチが切り替わるような感覚が生まれる。

 私は一息つき、周りを見渡す。


「店員、この迷宮の予想階層は?」

「この階を含めて十階層程度です」

「内部構成の予想は?」

「五階層に階層主(フロアボス)、十階層に迷宮主(ダンジョンボス)が存在していると考えます」

「……よろしい。私も二体程度、存在の大きなヤツを感じているわ。さて、どう侵攻しようかしら?」


フフフッ、と笑い声が自然と私の口からこぼれ、口の端が持ち上がる。

どこか楽しそうな、どこか嬉しそうなカエデが、音を立てて踵を合わせて姿勢を正す。


「三日で迷宮を制圧します。どうぞゆるりと我々の働きをご覧くださいませ」


生き生きとしたカエデの姿。

冒険者として活躍するカエデの話をセリアから聞くのは楽しい。でも、目の前で躍動するカエデの姿を眺めるのは、もっと官能的で甘美なひとときだ。


「楽しみにしておくわ。さあ、支度を済ませましょう」


迷宮という環境で気が緩んでいた。

ロッディとハーリアを置いてきぼりで話を進めてしまった。

二人の姿を確認すると、カエデの指示に従ってテキパキと朝食の支度を行っているようで、私は安堵のため息をつくのだった。


*****


「姉御ッ! トロール五体、近づいてくるぜッ! 曲がり角からすぐにでも姿が見えるぜッ!」

「ロッディは投石機(スリング)でけん制、短剣は鞘に納めないこと。ハーリアは魔術(ファイアボルト)を準備、しっかり魔力を練りなさい」

「「仰せのままに!」」


 通路の真ん中で腕を組んで佇む私の前で、カエデの指示にキビキビと動くロッディとハーリア。

 前日の二人と同じ人物とは思えないほど、機敏な動きで接近する魔物に対して準備を整える。

 トロールといえば、中堅冒険者でもパーティ火力が低いと手こずる魔物。初心者程度の実力しかない二人とっては強敵だ。


「いきます! 《ファイアボルト》!《ファイアボルト》!」


 ハーリアが左右の手から初級攻撃魔術(ファイアボルト)を連続で放つ。

 魔力の練り方はまあまあ。

 でも、ヒトにとって平行詠唱は、それなりに難易度の高い技術だったはず。

 火球は顔を出したトロール二体の頭部に直撃した。

 魔物(トロール)の咆哮がフロアに響く。音量と不快感な声に、私は思わず顔を顰める。

 初級攻撃魔術のため致命打には至らないが、トロール二体が体勢を崩す。


「次に備えなさい。こいつらはカエデが片付けます。()ィ!」


 鋭い息吹ともに、カエデはトロールに一瞬で肉薄する。

 強化魔術の余剰魔力で揺らめくカエデの拳。

 彼女は躊躇いもなく、トロールの体を拳で打ち抜く。

 素早い身のこなしで返り血を避け、手を払って血を飛ばす。

 トロールの体が地面に倒れるまでに、次に備えるカエデの動きに、私は拍手で讃えたい気持ちをぐっと堪える。


「ロッディ、やりなさい」

「へいッ! お任せをッ!」


 ロッディが投石機で次に現れたトロールに攻撃する。

 若干、狙いは甘い。でも、トロールの体に当たった瞬間、弾が破裂する。

 バクハツダケを使った割と安価な炸裂玉。威力はそれほどないけど、魔物を一時的に混乱させるには十分。


「今のアタシのとっておき! 《ファイアジャベリン》!」


 初級攻撃魔術(ファイアボルト)の数倍の魔力密度。ハーリアが魔術士の適性が低いと言っていたけど、十分な威力を秘めているとこがすぐ分かる。

 動きを止めているトロールに向かって、ハーリアは炎の投槍を全身のバネを使って投擲する。

 紅い炎の帯が中に描かれ、トロールの頭部――ポカンと開けた口に突き刺さる。

 爆風とともに火の粉が周囲にまき散らされ、赤々と照らす。

 口から煙を上げ、白目になったトロール。今の一撃で意識が飛んだようだ。


「残念、あと少し威力が足りな――」


 そう私が呟きかけた時、暗い影がヌルリとトロールの陰から現れ、滑るような動きで虹色の短剣を振るう。

 弛緩していたトロールの首は、ただそれだけでポトリと地面に落ちる。


「――嘘でしょ」


 久々に私は驚いてしまう。

 あのロッディが、格上すぎるトロールをいとも容易く倒してしまった。

 彼はゆっくり倒れていくトロールの体から素早く距離を取ると、喜びを見せることなく次の動作に移っていた。

 マジで? 双子の兄弟とかじゃなくて? 前日までと違いすぎじゃない?

 自分の額に手を当ててみるが、発熱などはしていない、当たり前だけど。


「まあまあです。二人ともよくやりましたね」

「「ありがとうございます!」」


 二人が奮戦している間に、残りのトロールをあっさり倒したカエデが戻ってきた。彼女の表情に大きな変化はないが、二人の戦果に満足そう。


「店長、進捗は順調です」

「……そのようね。あとで確認したいことがあるわ。とりあえず、先に地下四階に降りる階段を探しましょう」


 えっへん、と胸を張るカエデに、色々と尋ねたい気持ちを抑え込み、私は安全地帯――迷宮の階段が設置されているフロアへ急ぐことを提案するのだった。

 その道中も何も問題が起きなかったのは言うまでもないわね。


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