12.反省会?
「すみませんでした。ほら、ロッディも!」
「何でオレが謝る必よ――あただただっ! わ、わかった、わかったから、無理やり頭を下げさすんなよ」
持ち運び用の組み立て椅子に座る私の前に広がる光景は、正座して土下座するハーリアと彼女に無理やり土下座させられるロッディ。頭を地面に無理やり擦り付けられているロッディからは、ジャリジャリっと嫌な音がしている。
昔はよく耳にしていた音だけど、久々に聞くと不快感があるなぁ。
「で、謝ったところで時間が戻ってくるとでも?」
冷え冷えとした声音のカエデ。同時にビクッと二人の体が跳ねる。
これもよく見かけていた光景だなー。
「あ、アタシたち、解雇ですか? 解雇ですよね?」
「ちょ、なんでオレが解雇されなきゃいけな――んがッ!」
「ロッディ、黙ってて!」
ガンッ! と鈍い音が響く。そして悶絶するロッディ。
よほどテンバっているのか、ハーリアは手加減せずにロッディの頭を地面に叩きつけたな。かわいそうに。
「店長、いかがしましょう?」
「んー、元々二人を戦力として数えてないから、私はそれほど怒っていないん――」
「店長、いかがしましょうか?」
「あ、はい。ごめんなさい。えーっと、二人に期待してないから、依頼キャンセルまでは考えてないです」
「……………………………………えぇ」
二度確認してきたカナデの無言の圧力に負け、私は素直に答えたのに、彼女は露骨にイヤそうな顔をする。ヒドくない?
だってヒト基準のS級以上の迷宮でも、カエデ一人で戦力十分なのよ。この簡易迷宮だってカエデ一人で過剰戦力なんだから、二人の戦力なんて誤差にもならないわよ。
カエデに言い返そうとした言葉を飲み込みながら、私は視線を感じる方を反射的に見る。潤んだ瞳で私を見つめてくるハーリア。まだロッディは地面に額を押し付けられてる。
私は若干頬を引きつらせながら、二人に声をかける。
「ただ指示に従えないとかはマイナス点かな。少なくとも店員の指示には従ってくれないと困るかな」
「ア゙ア゙! 何でオレが根暗おん――ぶべッ!」
「ロッディ! 黙って! リーゼさん、従います従いますから、依頼キャンセルだけは、キャンセルだけはやめてください!」
慌てふためくハーリアに、再び地面に顔を叩き付けられるロッディ。彼女は後衛職だから筋力はそんなにないとは思うけど、痛そう。
「あまり使いたい手段じゃないけど、奴隷とかテイムした魔物とかに使う首輪があったりするよ、手元に。命令に従わないと、ビリビリしちゃうやつ」
「そ、それは……さすがに……」
「ア゙ア゙? そんな物でオレを支配できると思うなよ。オレの崇高な魂は痛みごときに屈しねぇぜッ!」
なんか妙な熱量をロッディから感じる。ハァハァ、と呼吸も荒く、横にいるハーリアも何かを感じているのか、ちょっと引きつった顔をしている。
私の提案は、何かとんでもない間違いじゃないかと不安になってくる。助けを求めて私はカエデの方を見る。
「店長、本人の意思を尊重してみましょう」
「ええ! 嘘でしょ? 絶対ヤバい感じなんだけど……」
「カエデも不安バリバリです。が、迷宮調査の期間は無制限というわけにもいきません。多少なりとも調査効率が改善するのであれば、試さざる得ないかと」
「うーわー……さすがの判断だわ……」
前職キャリア――魔王軍四天王筆頭の経験の賜物というべきカエデの回答。
多少の問題があろうとも、進捗やら効率やらを踏まえた上で、マイナス面があっても採算が合うと判断すれば躊躇なくその方法を採用する。
実に頼もしくはあるのだけど、現魔王――当時の水の四天王を潰さず採用したの、今更になって悪手だったなーと思ったり。
たぶん、〝魔王システム〟のサブ機能、代行魔王に喜び勇んで立候補したに違いないわ。
他の子は、私の意を汲んで神々が喜ぶような事に手を貸すはずがないから。
アイツ、私がイヤがることは率先してやるタイプだったし。
「……店長?」
「あ、ごめん。ちょっと物思いしちゃってたわ。ロッディに首輪を着けるのよね?」
「はい、そうです。ハーリアは着けたいですか?」
「あ、アタシはいりません! 頑張るので、頑張るのでやめてください!」
正座からジャンプして立ち上がると、私の後ろに隠れるハーリア。椅子の背を掴む手がプルプルと震え、椅子に座る私にも振動が伝わってくる。
私は嘆息しながら、左手でカエデを制し、スカートのポッケ――で手元を隠して亜空間収納――から鈍色のネックレスを取り出す。少し大きめのチェーンは簡単には壊れそうになく、無骨な印象を与える。よく見るとチェーンの一つ一つに魔術文字が刻まれているのが分かる。
ちょっとお高い魔術具、『服従の頸飾』。魔力を込めた者を主人とし、身に着けた者を従わせる効果を持つ。少し非人道的な感じはするけど、自害させるとか身体に著しい損壊を与えるような強制力はない。電気ショックで麻痺と痛みを与える程度の魔術具で玩具みたいなもの。でも、ヒトには十分な効果があるぽいのよね。
「店員、ハウスよ。とりあえず、そこのロッディに服従の頸飾を着けてから様子を見ましょう」
「……(残念)……承知しました。さあ、首を差し出しなさい」
「ア゙ア゙! そんなチンケな鎖で、オレを屈伏させられると思うんじゃねぇぞッ!」
「はいはい、強がりは服従の頸飾を着けてからにしなさいよ」
私は「むん!」と魔術具にホンのちょびっとだけ魔力を込める。この手の魔術具は、ちょっとでも魔力が強いと弾けて壊れちゃうのが難点で、意外と気疲れしてしまう。
鎖に刻まれた魔術文字が淡く燦めいたことを確認し、カエデに鎖を手渡す。彼女は恭しく受け取ると、余韻ゼロで神速の手さばきでロッディの首に鎖を着ける。
あまりの速さにロッディもハーリアも一瞬呆けてしまう。
「さて、準備は整いました。ロッディ、特別に店長に暴言を吐くことを許可します」
「何でオレがわざわざチンチクリ――ぐふぁぁぉ!」
突然、悶絶して痙攣するロッディ。何故か少し恍惚な表情をしており、私は思わずドン引きしてしまう。ハーリアも私と同じ心情のようだったけど、カエデは少し楽しそうに薄ら笑いを浮かべていた。
「どうしました? ずいぶんと楽しそうですよ?」
「た、楽しくねぇぜッ! オレはチンチクリ――あふぁぁッ! く、屈しねぇぜッ! てめぇもセリアさんを見習って、まな板を――ふぉふぉぉぉっ!」
「フフフ、真性のバカですね」
楽しそうなカエデに、私はハーリアと手を取り合って怯えてしまう。
息も絶え絶えといった様子のロッディが、生まれたばかりの子ジカのように、足をプルプル震わせながら立ち上がる。
そして、彼は恍惚とした顔で天を仰ぐ。
「オレは……オレは、神に選ばれる男なんだッ! この程度の痛みなんざ屁でもねぇぜッ! 色気のいの字もねぇチンチクリ――ぐふぉぉぉッ! な依頼主が、オレの存在にひれ伏――」
パチン、とカエデが指を鳴らすと、ロッディの首からさがる鎖――魔術具がバチバチと音を立てる。
任意のタイミングで、魔術具の効果を発動する起動所作だ。いつの間にか登録したのかしら。
「――っぉぉぉぉん!」
ひときわ甲高い声を上げるとロッディは、ペチャリと地面に膝から崩れ落ちた。
「実に、実に暇つぶしになりそうなバカですね。そう思いませんか、店長?」
昔にも似たような光景を見たことを思い出しながら、私は楓の質問にコクコクと首を縦に振って答えることしか出来なかった。




