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薄暗い200年前の駅

 現代の駅で、イトがスズネを探しに出た!

 200年前の駅のホームでは、一本の電車がゆっくりと動きを止めていた。 扉が開くと、中からスズネの姿が出てくる。

 プラットフォームは人が少なく、薄暗かった。 もう日は落ちていて、辺りはうっすらと暗い青色に包まれている。

 ホームの周りには、森や山の自然の風景が見えていた。 普通の景色のはずなのに、夜ということもあってか、どこかさびしげに見える。 なぜか暗く重い雰囲気ふんいきが、じっとりと感じられてくる。


 スズネは電車を降りると、立ち止まって辺りの様子をうかがっていた。 ホームを歩いていく人たちや、周りの景色の様子を、きょろきょろとながめている。

 もともと自分が生きていた場所なのに、れないところに来たかのようなふるまいだ。 それとも久しぶりだから、緊張しているんだろうか。

 少しの間辺りの様子をうかがっていたスズネだったが、やがて人々の後を追うようにして歩きだした。

 歩くスズネの頭には、髪飾かみかざりはついていないようだ。 本人は気づいていないようだが、やはりさっき現代の駅で落としたんだろう。


 上の階へと続く階段へと来ると、スズネは他の人の流れに混ざりながら階段を上がっていった。

 他の人たちにまぎれるように、同じふるまいをして手足を振って階段を上がっていく。


 上の階にたどり着くと、だだっ広い駅のコンコースのようなところへとやって来た。 ここも現代の駅と同じように広い通路があるが、人は誰もおらず閑散かんさんとしていた。


 引き続き人に紛れて歩いていきながら、スズネは辺りを見回した。

 ……さっき電車の中での人々の様子もそうだけど、なんか変だ。 さびれたような雰囲気だし、人は少ないし……。

 この200年前は、まだそんなに荒れ果ててるんだろうか? 現代と通じた今なら、少しはましかもって思ってたけど……。

 一緒に歩いていく人たちの様子も、気になる。 さっきから少し気になってはいたけど、みんな疲れたような顔をしている。 まるであの時と変わってないような……。 あの時の村の人たちが、そのまま歩いているような感じだ。

 昔と何も変わらないって、どういうことなんだろう?


 流れに沿って歩いていくと、外への出口のようなところへやって来た。

 改札口のような場所だ。 改札機のようなものはなく、代わりに駅員が何人か立っている。 利用者たちはいくつか列を作って並んで、外に出るための処理をするという仕組みらしい。

 そばには、踏み切りみたいな仕掛しかけの棒がいくつも立っていた。 改札口を閉じるためのもののようだ。 時間になったらこれを下ろして、さくを作って出口を閉じるんだろう。


 一つ一つの列の先端に立った駅員は、出ていく人の名前を確認しているようだった。 手元の名簿めいぼのようなものを見て、何かのチェックをしている。 確認を終えた人たちは、改札口を抜けて外へと出ていっている。


 スズネは一緒に列に並びながら、その様子を見て訝しんだ。

 ……やっぱり、変な感じだ。 駅員の人は愛想あいそがなくて淡々(たんたん)としてるし、イライラしているように見える。

 列に並んだ利用者の人たちも、みんな一様いちようにうつむいていて、機械的に処理を待っている。


 それに、名前の確認なんて、他の時代にあったっけ?

 私も時代を行き来できるようになってからいくつかの時代に行ったけど、別にそんなのは無かった。

 駅員たちが手に持っているのは、この200年前に生きていた人の名簿のように見える。

 ……どういうこと? 元々この時代に生きていた人しか、200年前の世界に出ていってはいけないってこと?

 今朝500年前に行った時には、なんにもこんなこと無かったのに。


 いまいち釈然しゃくぜんとしないながらも、私は列に並んで順番を待った。

 ……まあ、気にしないでおこう。 仮にそうだとしても、私もこの時代に生きてた人間だ。 よく分かんないけど、一応私はここから出られるはずだ。


 そうこうしていると、やがて私の番がやってきた。 私は駅員の人へと自分の名前を言っていく。


「スズネです」


 駅員は手元の名簿に目を落とすと、私の名前を探し始めた。 指でなぞりながら名簿を上から順にみていき、素早く目を動かしている。

 しかし1枚目では見つからなかったようで、ページをめくって2枚目を確認し始めた。 スズネ……スズネ……。 ブツブツとつぶやきながら見ていくが、それでも見つからない。 そして3枚目、4枚目……。


「スズネ……スズネ……。 ん? ……いないぞ」


 最後まで確認し終えた駅員は、顔を上げて私を見た。

 ……え? 名簿に私の名前がない? ……なんで? どういうことだろう。 その名簿は、この時代の出身者が書かれている名簿ではないのか?

 駅員の人はこちらをじっと見てきている。 私がこの時代の人間ではないと、疑っているような感じだ。 名簿に名前がなかったら、やっぱりここを通れないんだろうか。


 私はよく分からないながらも、説明しようとする。


「え……いやあの、私ここに、昔いて……」

「おい! スズネさんって、知ってるか?」


 状況が進まず、その駅員は他の駅員たちへと呼びかけていった。 他の列で作業をしていた駅員たちは、手を止めてこっちの列を見た。

 仕事をいったん中断して、それぞれの列での処理を止めて歩いてくると、私の顔をのぞき込んでくる。


「いや、見たことないぞ」

「ああ。 ……スズネ……こっちには、書いてないのか?」


 そんなことを口々に言って、名簿を再び確認し始める。

 駅員たちは義務的に仕事をしている様子だが、手をくして私の名前を探しているようだった。 話し合いながらページをめくり、名簿を洗うようにして探している。


 それを見ながら、私はみょうな気分になるとともに、漠然ばくぜんとした不安におそわれてきた。

 自分の名前が、この時代にない……?

 人々の様子も、外に小さく見える景色も、私がかつて見て感じたものだ。 私は間違いなくここに生きていたのに、そんなことあるものだろうか。


 だが、やはり見つからなかったらしい。 担当の駅員の人もしばらく名簿を見直していたが、やがて顔を上げた。


「……無いね」


 小さく息を吐き、手元の名簿をまとめながらこっちをじっと見つめてくる。

 帰ってください、と言っているような顔だ。 やはり名簿に名前がない人は、ここを通れない決まりのようだ。

 私はここから、200年前の世界に出られないってことだろうか。 このまま一人だけで、引き返さなければならないってこと……?


 私は混乱しながら、もう一度説明しようとした。


「え? ……そんなことない、私、たしかに……」

「おい、お前。 邪魔じゃま


 いきなり、後ろからどんと体をき飛ばされた。 見ると、私の後ろに並んでいた利用者の人に押されたらしい。

 私は体勢を崩しながら、列の横に押し出された。

 私を押した人は、イライラした表情を浮かべていた。 処理に手間てまがかかり、時間がかかったからだろうか。

 他の人たちは、誰も気にしていないようだった。 駅員の人たちは何事もなかったかのように列に戻り、処理の仕事を再開していく。

 列に並んだ利用者の人たちも、誰も私のほうを見ていなかった。 私が突き飛ばされたことにも無関心で、相変わらず表情にとぼしく、淡々と列の処理を待っている。


 列から外れた私は、呆然ぼうぜんとその様子を眺めていた。 全員がまるで私がいないかのようにい、別の方だけを見て動いている。 私はここにいるのに、世界が私を無視して動いているみたいだ。

 私はただ唖然あぜんとしたまま、自分が何のためにここに来たのかすらも忘れて突っ立っていた。


 やがて利用者たちが全員出ていくと、駅員たちは改札口を閉め始めた。 相変わらず私の方はちらりとも見ずに、横にあった踏み切りみたいな棒を下ろして、出口をさえぎさくを作っていく。

 ほどなくして、幾重いくえにも太い棒が並べられ、改札口は完全に閉じられた。 向こうに見えていた200年前の景色はほとんど見えなくなり、誰もいないがらんとした駅の壁だけが視界に入ってくる。


 改札口を閉じ終えると、駅員たちはその場を立ち去り始めた。 仕事を終えたかのように力を抜いて、私のことには目もくれずにスタスタと別のほうへ歩いていく。

 見ると、近くには職員用のとびらがあった。 駅員たちはそこを開けて、別の場所へと次々に入っていっているようだ。


 私は言葉を失って立ちくしていたが、なんとか意識を現実に戻していった。

 見ると改札口のそばには、まださっき私の担当をしてくれた人が一人だけ残っていた。 帰り支度じたくを整えて、今から去ろうというところらしい。

 この人に拒否されれば、もう他に可能性はない。 私はわらにもすがる思いで、もう一度改札口に近づいて、その駅員に話しかけていった。


「あの! なんでですか、私、確かに……」

「すいません、ここにっていない人は、出てはいけないことになってるので」


 駅員の人は扉へ向かいながら、歩くのを止めずに答えた。 こっちを見もせずに、やはり機械的で淡々とした感じだ。

 もう、なんでなんだよっ……。 私はなぜだか泣きそうになり、必死の思いで、去ろうとするその駅員のうでにすがりついた。


「そんなわけない、絶対……」

「しつこい」


 駅員はイライラした表情を見せて、無理やり腕を振り払ってきた。 力で私を引き離して、そのまま何事も無かったかのように向こうへと歩いていき、職員用の扉の中へと入っていく。

 バタンと音がして、扉は完全に閉まった。


 私の周りには、もう誰もいなかった。

 駅の床と、かべと、目の前にある大きなさくだけだ。 わずかに残った明かりさえも、静かにおどるように燃えていてさびしさを感じさせる。


 私は何が起こったか分からず、フラフラと壁のほうへと歩いていった。 頭も動かずに呆然としたまま、背中を壁にもたれていく。

 うつむいてぼんやりと床を眺めていると、まされたような無音の静けさが耳に入ってきた。

 何も考えられないままでいると、力まで抜けてきた。 私はそのままズルズルと壁を伝って落ちていく。 こしがとんと地面につくと、息をきながら身を縮めていった。


 ……なんでだよ。 なんで私のこと、誰もおぼえてないんだよ。

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