現代の駅で、イトが走りだすっ!
動く箱に乗って、200年前へと向かったスズネ!
一方、現代の街では……?
ひるがえって現代には、イトがいた。 周りには大量の人が行き来していて、広大な通路のような場所が広がっている。
ここはさっきスズネが通ったところで、色んな時代へと行くことができる場所だ。 現代の日本で例えれば、駅のコンコースのような場所である。 ここから『箱』が動いているフロアに行けるようになっているのだ。
人はここに来て、自分の行きたい時代へと動いてくれる『箱』を探す。 そしてその箱に乗って、それぞれの時代に向かう……。 そういう仕組みになっているらしい。 回りくどい説明だが、要は駅である。
見回してみるとこの広い通路からは、色々な方向へと繋がっているようだ。 機械的な改札口のようなものは見えないが、広い口があちこちに開いていて、各プラットフォームと繋がっているのが見える。
さっきはスズネはさらに地下の方向へと潜っていったが、横の方にもターミナル駅のように電車が止まっているようだ。 さらには上を見上げると、縦方向に動いている電車などもあり、もはや仕組みはよく分からない感じだ。
さらにこのコンコースのような場所には、少し変な特徴があった。 広い通路のところどころに、本棚のようなものが設置してあるのが見える。 座るための椅子と同じぐらいの気軽さで置かれてあるみたいだ。
本棚はコンビニの雑誌置きみたいな形で、斜めに立てかけるように紙束が置かれている。
これは、雑誌を売っているのだ。
雨子が始めた雑誌計画は、今や街の他の人たちも参加するようになっていた。 自分の興味のある事柄を思い思いに表現して、雑誌として販売しているのだ。
他の人の雑誌を読むという楽しみも増えて、お金もゲット出来る。 みんなが良い思いが出来て、なかなかウィンウィンなのである。
雨子やホナミが城の中で作っていた雑誌も、この中のどこかに置いてあるんだろう。
そんな中、一つの本棚の前にイトの姿があった。 いつものように静かな表情で、雑誌を手に取ってパラパラと眺めている。
……あー、ヒマだなー。 さっき混乱があったけど、もう処理は大体終わったみたいなんだよね。
2回目だからか、みんなかなり手際が良くなってた。 私たちも馬鹿じゃないからね。 混乱が起きたって聞いたときは一瞬ひやっとしたけど、でも全然大したことはなかった。
……前回の嫌な記憶がよみがえって、ちょっとドキッとしたけど。
幽世だって言って大騒ぎしたのって、そんなにおかしかったのかな。 前回の混乱が終わった後、みんなに滅茶苦茶馬鹿にされて笑われたんだよね。
ユメなんかもいつも通りの無表情を装ってたけど、絶対心の中で笑ってたよ。 話を聞いてる間、鼻の穴がひくひくしてたもんね。 私は忘れないよ。
……ところで最近は暇があればここに来て、雑誌を読むのが日常になってきた。
この場所はなんとなく好きだ。 次から次に人が入れ替わっていくし、雑誌で色んな情報を見れるし。
頭の中が常にリフレッシュされていく感じがして、気持ちがいい。
私は雑誌を物色しながらブラブラと歩いていると、やがて本棚のはしっこまでやってきた。 そのまま歩き続けて、ぼんやりと本棚を超えた先まで目をやっていく。
辺りの景色を眺めていると、ふと、何かが目にとまった。 床の上に、何かが落ちている。 ……うん? よく見ると、それは見たことのある形をしている。
歩いて近づいていくと、それは通信用の髪飾りだった。
誰かが落としたのかな。 最近は色んな人が持ってるみたいだから、誰が落としたのかは分からないけど……。
私は拾い上げて立ち上がり、その髪飾りをまじまじと見つめる。
「……あれ?」
よく見ると、この髪飾りはどこかで見たことがあるような気がする。 髪飾りは、人によって模様が違う。
くるっと裏返してみて……。 たしかこれって、スズネのじゃなかったっけ?
私は頭に手をやり、自分の髪飾りにさわった。 小さく呟くように、通信を始める。
「ねえ、ミツバ」
『……ん? 何?』
少し間を開けて、ミツバの声が返ってくる。
実はさっきミツバとこの駅に来て、一緒にブラブラしてたところなんだ。 混乱の処理が終わって、あいつもヒマだってぼやいてたから連れて来たんだよね。
「今、どこにいる?」
『あー、今、本棚の前にいるけど』
それを聞いて、私は辺りを見回してコンコースの様子を眺める。
この駅の中には、たくさんの本棚が設置してある。 本棚の前ってだけだと、どこにいるか分からない。
「どこ? ……どの、本棚?」
私は通信で話し続けながら、その場から歩きだした。
近くには、色んなものが見えている。 本棚がいくつも置いてあって、その周りを人がたくさん歩いている。
横の方には別のターミナルみたいな駅もあるし、上を見上げれば高さ方向への電車まである。 ……あれって、どうやって乗るの?
『何かあった? ……まだ、乱れの処理が終わってなかったか?』
「いや、違うんだけど……あ、いた」
私がきょろきょろと見回しながら走っていると、ようやくミツバの姿を見つけた。 耳に手を当てて通信しながら、私を探しているのが見える。
そういえば、ミツバにも通信が通じるようになったんだよね。 髪飾りはどうしても嫌だって言うから、ピアス型のやつを作ってやったんだ。
いいじゃん、髪飾りでも。 それで可愛い姿で人魚みたいになって、漁の時に海に潜って、故障すればいいと思うよ。
私が走っていくと、ミツバもこっちに気づいたようだった。 合流しながら、一緒に話していく。
「どうした?」
「ねえ、これって、スズネのじゃない?」
私は近づきながら、拾った髪飾りを手に広げていった。 通路の真ん中で立ち止まって、身を近づけてミツバに髪飾りを見せていく。
ミツバはそれを興味なさそうに眺めながら、ゆっくりと手に取っていった。
「……あぁ、そうかもなぁ。 ……しらんけど」
「だよね。 ……なんで、ここに落ちてたんだろう?」
私は、可能性を考えてみる。 スズネはさっき、混乱の処理にあたっていたみたいだった。 一人一人バラバラに行動してたから分からないけど、街の中でチラッと見た気がする。
あれからスズネの姿は見てない。 混乱が終わってから、どこかに出かけたんだろうか。
「落ちてたのか?」
「うん。 向こうの、本棚の奥に」
私は頷いて、元いたほうを指す。
……あれ? よく見ると、落ちていた場所の近くには、下へと下りていく階段があった。 200年前へと行くプラットフォームへと続いている階段だ。
スズネも200年前の出身だったけど……なにか、関係があるんだろうか。
スズネは今まで、200年前のことを避けてた。 昔生きていた時代のことを聞かれるのを嫌がってるし、考えないようにしているみたいだった。
スズネは自分で死んだらしいから、しょうがないんだろうけど……。
でも、それが今になって、200年前に行く気持ちになったってこと?
……いやいや、待て私。 落ち着いて考えれば、まだこの髪飾りがスズネのものだと決まったわけじゃない。 それに、200年前に行ったという証拠もないじゃないか。 フユァァアアッッッツッツ!!! 危ないっっ!!wwwww
あぁ、自分の視野のせまさが恐ろしい。 でもさすが私だな、いい感じで回避できたじゃん。 よっっしっっ!!!!ww イエスっっっ!!!!www
偉そうにハナに諭すようなこと言ってたけど、私も人のこと言えないかもww たぶん私の方が、視野がせまい。 ハナ、あんたには負けないよ。
私はごちゃごちゃと考えながら、再び自分の髪飾りに手を当てた。
「……雨子?」
とりあえず、雨子を呼びだしてみる。 スズネの行方を知っているかは分からないが、とりあえず聞いてみないことには始まらない。
それに雨子は気さくだし、適当に呼びだしやすいのだ。 どうせ暇だろうし。
案の定、すぐに返事が来た。
『ん、何?』
「ねえ、スズネ、どこに行ったか知ってる?」
『スズネ? ……あー、いや……』
『あ、スズネは、200年前に行ったと思うよ』
いきなり別の声が、会話に入ってきた。 これは、一族のハナの声だ。 来たな、私のライバルめ!
……というかハナも、髪飾りを持ってたんだ。 混乱が終わってから、小春が『新しい髪飾りないー?』とか言ってうろうろしてたから、小春があげたのかな。 まあどうでもいいけど。
……あ、え? スズネが200年前に本当に行った?! あぶなっ、聞き逃すところだったよ。
私は適当にいい感じに、会話を保ち続ける。
「え、200年前?」
『うん。 ソラちゃんが、変な書き置きしていったのを聞いて……』
それを聞いて、私はイラっとした。
またソラか。 スズネはソラのことを、ずいぶん気にしているようだった。 同じ時代だってことは知ってるけど、なんであんなに気にするんだろう。
200年前と言えば、災害が多発した時代だったと聞いている。
スズネは自分で死んだのを相当に気にしているみたいだけど、別におかしいことだとは私は思わない。
災害続きの時なんて、そりゃみんなイライラしてるでしょう。 誰だって、そんな時代で生きていたくはない。
スズネは200年前のことを、気にしてるだけなんじゃないか? 避けてるのに気にするって、一見、変に見えるけど……。 ソラの存在を通じて、自分が生きていた時代に執着しているようにも見えるのだ。
ソラも、本当にいい加減にして欲しい。 いつもフラフラと適当なことを書いて、相変わらず目の前に姿も見せない。
どこに生きてるかも、何をしてるのかも、何もかもはっきりしないのにイライラする。
聞いた話ではソラは死にたがりらしいが、それもさっぱりだ。
はっきり言って、私には適当に理由をつけて生きることから逃げようとしているようにしか見えないのだ。
……まあいいや、ともかくソラと何かあったのかな。 どうせまた、ソラが『死にたい~』とか意味不明に言いだしたんじゃないの?
それでスズネが『死なないで!』とか言って追いかけていったとか、そんなんでしょう。
私はまた視野がせまくなりつつ、今度は小春を呼んだ。
「分かった。 小春っ!」
『……んあ、何ー?』
一瞬遅れて、小春のまぬけな声が聞こえた。 夕方なのに、もう寝てたのかな。
小春が寝る時間って、いつも適当すぎてよく分かんないんだよね。 逆に夜中に起きてたりすることもあるし、どこをとっても意味が分からない人だ。
私は通信で話しながら、その場から動きだした。 ミツバも後ろについてくる。
「ちょっと、今から200年前に行くから、一緒に来て!」
『え、200年前? ……なに、いきなりね』
「いいから! 私、先に行ってるから、後から来て!」
なかば強引に、小春を呼ぶ。 これから私も、200年前に行ってみよう。
……私は今まで、周りのことを見てこなかった。 みんなそれぞれの気持ちを持って動いてるってことすら、よく分かってなかった。
スズネのことも大して知らないけど、それでもいい。 おせっかいかもしれないけど、私は構わない。 私は、周りの人のことも考えると決めたのだ。
小春は突然でびっくりしたような様子だったが、でも理解して答えてくれた。
『え! ……あぁ、分かったわよ、ちょっと待ってて!』
「あと、ハナ! 詳しい話、聞かせて!」
一応、何が起こったかを詳細に聞いておこう。 ハナは思い込みが激しくて、勝手に妄想を膨らますタイプだ。 またハナの思い込みかもしれないし、話はしっかりと聞いておかないと。
私がサポートしてあげないと、誰がハナの激しい妄想癖を修正してくれるというのだっ!
……あれ? 視野がせまい私がサポートしても、逆にこじれる可能性のほうが高いのか? ……まあいいや、とりあえず私はやるのだ。 やると言ったらやるのだ。
ハナは慌てたように分かったと答えて、私たちは一度通信を終えていった。
髪飾りから手を離して前を見ると、目の前にはさらに地下へと深く続くプラットフォームへの階段があった。 私は素早く階段を下りていき、200年前へと向かっていく。
200年前……おいしいもの……検索っと……。 ……え、何も無いの? (小春)




