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ナツミとタンポポ、店の中!

 祭りの会議の日から、数日たったある日のこと。

 歌どころで『鬼退治』を話していたスズネたち。

 一方、街の別のところでは……?

 街中のある建物から、出ていく2人がいた。 アパートっぽい集合住宅の建物から、初老しょろうの男性と、幼い女の子が出てくる。


「じゃあ、後よろしくね」

「はーい」


 2人は建物から出ると、言葉を交わしながら分かれていく。 老人は柔和にゅうわで穏やかで、幼い女の子は活発な感じだ。 おじいちゃんと孫とかだろうか?

 女の子は元気よく、パタパタと階段を駆け下りていった。 道へ出ると、向きを変えてそのアパートの横の裏路地へと入っていく。

 日陰に入っていき、大きな建物の間を、女の子は歩いていく。 涼しい風が吹いてくる中で、女の子は解放されたように気持ちよさそうだ。 体を伸ばして深呼吸をしていく。


「はー! ……気持ち良い」

「……ナツミ!」


 歩いていると、いきなり横のほうから、ひかえめな声で呼びかけられた。 建物の影からのようだ、見ると、ボサボサの髪の女の子が、建物の影からこっちを見ている。

 呼び止められた幼い女の子は一瞬きょとんとした顔を浮かべるが、思い出したように向きを変えた。


「……ん? ……あぁ、そうだったw」


 幼い女の子は笑いながら、同じ建物の影へと隠れるようにして入っていく。

 陰に入ると同時に、ふわっと姿を変えていった。 体が大きくなり、顔が変わり、服装も違うものに変わる。

 幼い女の子は、実はナツミだったのだ。 精神科の仕事をするために、変装をしていたようだ。

 建物の影に隠れていた女の子は、タンポポちゃんだ。 こちらは顔は変わっていないし、服装も少し現代らしくなった程度で大して変わっていないからすぐに分かる。

 ナツミはタンポポちゃんのそばに立つと、仕事の報告を始めた。


「じゃあ、暗号化しようか。 『……体調良好、復帰のきざしあり』……今日は、それだけ」


 手慣れた感じで、ナツミは報告していく。 精神科の仕事が板についてきたようだ。

 タンポポちゃんは報告を聞いて、考えるように眉をひそめている。 結局タンポポちゃんは、精神科の暗号師をやることになったらしい。 いま頭の中で暗号変換しているんだろう。

 憶え屋の精神科は、患者の情報や診察しんさつの結果などのデータを、憶え屋の口座に保存している。 その際にこうやって暗号変換しておくと、事故か何かでデータが流出したとしても、精神科の患者のことは分からないというわけなのだ。


「じゃ、行こう」


 報告を終えたナツミはすぐに再び歩き出し、陰を出ていった。 相変わらず行動的でマイペースだ、一人でズンズン歩いていく。 タンポポちゃんももう慣れたようで、素早く陰から出ていった。

 裏路地を軽快に歩きながら、ナツミが振り向く。 仕事はもう終わったのか、すっきりした顔だ。


「あ! そうだ、ちょっといい感じの店、出来たんだよ。 タンポポにも行ってほしくてね。 これから行ってみようよ」


 最近では、この街では『店』が流行るようになった。 固定の場所に店を構えて、サービスを提供する……。 そういう形式は、今まではそんなに無かったのだ。


 街は、どんどん未来に近づいてきているようだ。




「入るよー」


 トイレみたいに言いながら、ある店に入っていく人たちがいた。

 2人組で、どちらも女の子だ。

 1人は不思議な模様の入った服を着ていて、どこか未来を感じさせる装いをしている。 元気ではつらつとした感じで、ズイズイと店の中へと入っていく。

 もう1人は背が小さく、控えめな感じの子だ。 静かに後ろについていき、一緒に店の中へと入っていく。


 ……あれ? この2人は見たことのあるような感じがする。

 不思議な模様の服を着た人は、見た目は違うが雰囲気はナツミっぽい感じだし、もう一人はタンポポちゃんに見える。

 しかし、顔や服装は2人ではない。 前を歩く人は未来っぽい服装で、どちらかといえばソラを思い起こさせるし、後ろの人もタンポポちゃんの顔ではない。


「はー! ……あ、なんか来てるかな」


 息を気持ちよさそうに吐きながら歩いていたナツミっぽい人は、店に入ると、思いついたように歩く向きを変えていった。


 2人が入ってきたこの店は、喫茶店のような場所だった。 古代の街にしては、未来的でおしゃれな店だ。 客もいて、席に座って料理や飲み物を楽しんでいる。

 辺りにはテーブルと椅子が並べられていて、奥へ行くとカウンター席のような場所もあるようだ。

 ナツミっぽい女の子は、カウンターのほうへと向かっているようだ。 途中ですれ違った店員の人に、「私、どんぐり茶が欲しいな」などと言いつつ、「あとこの子もね」と後ろにいたこの飲み物も勝手に決めつつ、ズカズカと歩いていく。


 ……やはり、この人はナツミにしか見えない。 恰好はソラの服装だが、行動は明らかにナツミだ。

 精神科の仕事がらみか、そうでないのか……。 いずれにせよ、事情があって変装しているんだろう。

 しかしこう見ていると、姿かたちがちぐはぐだ。 見た目の姿と、中身の性格が違ってて……。 頭がこんがらがってくるけど、自由な気分になってくるっ!!


 カウンター席の近くには、掲示板のようなものがあった。 メモ紙がたくさん貼ってある大きな木の板が、カウンターの横にどっしりと置いてある。

 この掲示板は、情報交換の場として使われているものだ。 悩みを書き込む人もいれば、遊びの誘いをする人もいて……。 雑多ざったに色々な内容が書かれてあり、ネットの掲示板みたいに使われているようだ。

 掲示板のそばには、大きなカゴが置かれている。 中にはメモ用の石ころがゴロゴロ入っていて、その一つ一つには文字が書かれているみたいだ。 どうやらこの掲示板は、メモ紙だけでなく石ころにも対応しているらしい。


 ナツミは掲示板の前に来ると、貼ってあるメモ紙を眺め始めた。


「うーん……」


 何か変で、面白い情報はないものか。 眺めていくナツミの横で、タンポポちゃんも一緒に掲示板を見はじめる。

 掲示板に顔を近づけていたナツミは、一つのメモ紙に目をつけて、面白そうな声を上げた。


「……あ! なんだ、これ。 ……夢見酒ゆめみざけ……夢と現世うつしよがつながる酒? うわー、馬鹿だな、こいつ」


 そういって笑いながら、そのメモ紙を手に取っていく。

 どうやら夢見酒を調べている人が、この掲示板にいるらしい。 都市伝説を探すメンバーたち……歌子やユメたちも探していたが、そのうちの誰かだったりするんだろうか?

 馬鹿にするように紙を見つめて、ナツミは楽しそうに笑っていたが、ふと何かを思いついたようにウキウキしだした。


「あ! ちょっと、変なうわさ流しとこw」


 そういって、そばに置いてあった白い石ころを手に取っていく。 そこには歌子の考案した『石ころ改』がいくつか置かれていた。 掲示板を使う人がメモ用として使っていいように、紙のメモ紙と一緒に置かれているみたいだ。

 ナツミはそれを一つ手に取ると、ノリノリで演技をしながら書き込み始めた。


「……えーっと……『多分、私、見ました。 ……紙束がたくさん並んだ部屋で、夢見酒について書かれた紙きれがあったのを、見たことがあります』……っと」


 どうやら嘘の情報を流しているみたいだ。 ナツミはガリガリッと書き終えると、石ころをカゴの中にがこっと投げ入れていった。 すっきりした顔を浮かべて、満足そうにニンマリとしている。 そばでその様子を見ているタンポポちゃんは、何も言わず黙っている。

 こんなことして、いいんだろうか? ……たぶん悪気はない悪戯心いたずらごころなんだろうが、現代日本だと意外とヤバいかもしれない。

 ナツミは楽しそうだ、はあと気持ちよさそうに息を吐いて、再び掲示板を眺めはじめる。


「あれ、これも、同じやつ? ……ん、ここにも?」


 気づくと、掲示板の中には、同じ人が書いたと思われるメモ紙が、他にもあった。 どうやらこの掲示板で夢見酒を探している人は、他にも色んなことを書き込んでいるらしい。

 ナツミは次々に、その人の名前を、掲示板のあちこちに見つけていく。


「あっ! なんかいたな、色んなところに変なこと、書き込みまくってるやつ。 はー、こいつか」


 ナツミはようやく、思い出した。 最近、色んな掲示板や口座に出没して、書き込みまくっているやつがいるのだ。 しかも内容が意味不明だから、誰も相手にしていない。

 そして日を追うごとに、どんどんひどくなってきているようなのだ。 一人で色んな場所を彷徨さまよって訳の分からない妄言もうげんをまき散らし、なぜだか苦しそうにしているのだ。

 ナツミは改めて、手元のメモ紙に目をやった。 まじまじと見つめながら、ひとり言を呟く。


「……こいつ、大丈夫かな。 なんか、悩みでもあるの。 精神科に来た方が、いいんじゃない?」


 ひどい言い方だが、ナツミなりに気を使ってるのかもしれない。 嘘の情報を流して、からかったかと思えば、同情して……。 行動原理は意味わからないが、こういう性格なんだろう。

 そのメモ紙をふところに入れると、ナツミは店の中へと戻っていく。



 同じ店の中には、見慣れた姿もあった。 一つのテーブルに、小春が座っている。

 一人で頬杖ほおづえついて、何か考え事でもしているみたいだ。 ぼうっと目の前の虚空こくうを眺めながら、片手で飲み物をずずっと飲んでいる。 元気な小春にしては見たことのないような姿だが、一体どうしたんだろう。

 そこへ、掲示板から戻ってきたナツミがやって来た。


「小春ー! なに、変な顔して。 ……あ、ありがと」


 店員からさっき注文したどんぐり茶を受け取っていきながら、ナツミは隣の空いた席に座っていく。

 小春は、さっき歌どころで話していた『鬼退治』のことを考えているんだろうか。 飲み物を飲みながら、むすっとした顔のまま答えた。


「変な顔じゃ、ないわよ。 ……うーん、どうしよう」

「ねえ、面白い話とか、なんかないの?」


 ナツミは周囲のペースをガツガツと崩しながら、質問を投げかけていく。

 面白い話がないかって……。 言いたいことは分かるが、問いかけがあまりにも雑過ぎだろう。


「あるには、あるけど……」

「どんな話? ……話だけでも、聞くよ?」


 精神科のお姉さんっぽい口調で、ナツミは聞いていく。 精神科の先生は、穏やかで優しそうな男の先生だが、裏の顔があるような感じがしないでもなかった。 あの人の優しさあふれる話術を、少しずつ習得しているらしい。

 小春は相変わらず、ぼうっとしたまま答える。


「……鬼が出たって」

「……は? 鬼?」


 きょとんとした顔で、ナツミが聞き返す。 湯呑ゆのみみたいなコップを静かに置きながら、小春は頷いた。


「そう。 ……人の血を求めて、真夜中に色んなところをさまよう、悪い鬼なんだって」

「え?! なにそれ、面白いじゃんっ!w ちょっと、くわしく……」


 うきうきしながら話の続きを聞こうとしていたナツミだったが、ふと何かに気づいたように顔を上げた。 目立った格好の人が、テーブルのすぐそばを通り過ぎていく。

 マツリだ、今日もボサボサの長い髪を垂らして、手入れを全くしていない汚い服を着ている。 マツリも、この喫茶店に通っているんだろうか?

 通り過ぎながら、マツリはこっちの視線に気づいた。 偉そうな顔で見下してきて、ふんと鼻息を鳴らしながら去っていく。


「なに、あいつ」


 ナツミはその後ろ姿を見ながら、ムカついたように呟く。

 ……そういえばマツリは、200年前に生きていた人らしかった。 ソラのことを知り合いだと表現していたから、ナツミとも知り合いの可能性が高い。 もしかしたら、友達だったりしたんだろうか。

 しかし200年前は、同時期に人が集中している。 スズネに、にえのソラに、はっちゃけたナツミ、目つきの悪いマツリ……。 よく見るとスズネだけ外れていて、他の人はみな知り合いのようだが。


「あ、いた。 小春ーっ!」


 今度はいきなり、聞きなれた別の声がやって来た。

 ……なによ、今日は忙しいわね! いいことじゃないの。

 小春は矛盾むじゅんを抱えながら振り返ると、店の中を雨子がこっちに向かって走ってきていた。 周りのテーブルを蹴とばしながら、いつものように慌ただしくバタバタと走ってくる。 落ち着きなさい、あなた。


「なんか、アマネが研究棟けんきゅうとうのまんなかで、寝てて!」

「え?!」


 元気すぎる巫女みこのアマネが研究棟で寝てる? ……どういうこと? いきなりすぎて、意味わかんないんだけど。

 そう思っていると、今度は横からナツミが会話に入ってくる。 話の流れを把握はあくしていないのか、よく分かってない言い方だ。


「研究棟? 私も、寝てるよ?」

「……へ?」


 息を切らしてきた雨子が、きょとんとした顔でナツミを見る。

 ……研究棟で自分も寝てる? 何の話? ……ナツミの会話は、少しかみ合ってないように見える。

 何かを誤解されたと思ったのか、ナツミはなぜか弁解するような口調になった。


「いや、だって、一気に人が増えて寝るとこないじゃん。 ……え、いや、私だけじゃなくて、結構寝てる人いるよ?」


 恐らくナツミが話しているのは、夜寝る場所の話だろう。 今回の混乱で一気に人が増えたから、まだ寝る場所が無い人がいるのだ。 新しい建築は進んでいるが、それでも追いついてないらしい。 今回は特例として、公的な場所で寝てもいいよと許可が下りたのだ。

 50年前にも、そういう話はあったらしい。 人がどんどん増えていくから、みんな寝る場所が無くて、ぐちゃぐちゃに眠っていたんだとか。


 しかし、今アマネが寝てるのは、それとは違う。 真昼間まっぴるまに意味も無く、研究棟のど真ん中に寝ているという意味ではないのか?

 雨子はもう面倒くさくなったようだ、話の流れを無視して、無理やり小春を引っ張っていった。


「……ちょっと、来て!」


 腕をつかまれて、小春は引っ張られるようにテーブルから離れていく。 それを見て、ナツミが慌てたように立ち上がった。


「あ! さっきの鬼の話……」

「ちょっと待って、後でー!」


 あぁ、鬼の話がぁっ!! ……面白そうだったのに……。

 テーブルに残されたナツミは、不満そうにちゅうーっと口を尖らせた。



 2人は店を出ていくと、廊下のようなところへと出ていった。 店は大きな建物の一部だったようだ。 岩で組まれた廊下が、長く向こうの方まで続いている。 このまま歩いていけば、別の店などにも繋がっているのだろうか。


 廊下を走りながら、雨子が思い出したように聞いてきた。


「あ、ユメは、見つかった?」


 夜に憶え屋に入るために、ユメに許可を取る……。 手分けしてユメを探していたのだが、どこを探しても見つけることができなかったのだ。

 そんなことをしているうちに探し疲れて、小春は店で一休みしていたらしい。


「いや。 ……まったく、あの子、どこほっつき歩いてんのかしら」


 ぶつくさとぼやきながら、小春は雨子と一緒に走っていく。

 マスター、私もどんぐり茶。(小春)

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