歌どころ!
新しい日の昼間!
仕事を終えたミツバや小春たちは、歌どころへと向かうようだ。
先回りして、歌どころの様子を見てみよう!
街は、どんどん発展しているようだった。 あちこちで建築の音が連日鳴り響いていて、次々に大きな建物が立ち並んできている。 こっちにはビルみたいな建物、あっちには巨大な会議所みたいな建物……。 長をはじめとする街の偉い人たちが張り切っていたらしいが、いい感じだぜ! よーっし、どんどん行こうっ!!
街全体が新しく生まれなおろうという波は、歌どころにも及んでいるみたいだ。
今までも大きかった歌どころだが、さらに大きな建築が作られている。 巨大な建物が街中にそびえたち、トンテンカンと軽やかな音とともに建築されている。
歌どころの建物は作られている途中のようだが、部屋の中身は既に作られているらしい。 中では、いつものように芸事が興行されていた。
会場はステージに向き合って客席があるという、現代らしい形だ。 舞台の上には役者が立ち、一人語りのようなことをやって客を楽しませている。
会場の横のほうを見ると、客席から舞台裏へと続いている通路がある。 たまに人が出入りしているのが見えていて、従業員が通るところのようだ。
……お! 今その通路に、見慣れた姿が歩いているのが見える。 スズネだ。 解放されたように手足を軽く振って、通路の中を歩いてくる。 スズネはふだん歌どころで仕事をしているから、仕事が終わったところだろうか。
同時に、反対の客席側からも通路へ入っていく人がいた。 関係者だろうか、その人はスズネの姿を見て声をかけていく。
「スズネさん!」
「あぁ、憶え屋さん」
どうやら憶え屋の職員だったようだ。 スズネは手を挙げて挨拶すると、一緒に通路の中を歩きだす。
……この歌どころに来てくれるように、デリバリーサービスみたいに頼んでいたんだよね。
最近、憶え屋で色んな口座に入ってみるのが楽しみでさ。 街の人も憶え屋を使う人が一気に増えて、口座も多種多様になってきたから、面白くなってきてるんだよね。
昨日は、服屋さんに行ったし……。 今日は、大陸研究所にでも行ってみようかな。
「えーっと、大陸研究所に、入りたいんですけど」
客席へと出ていくと、歌どころの会場の様子が目に入ってきた。 ちょうど役者が客を笑わせたところらしい、ワッと歓声がなって、笑い声が巻き起こる。 ……あぁ、あの人の芸か。 同僚がやっている芸だから、私はもう見慣れてるんだ。
舞台を見ずに会場の側面を歩いていきながら、私は引き続き口座を開いていく。
大陸研究所は、今まで入ったことなかったんだよね。 まずは、部屋の様子がどうなっているかを聞いてみようぜ!
「何がありますか?」
「えーっと、服とか、武具とかが置いてありますね。 ……あと、隅っこの区画では、料理を提供してるみたいです」
服や武具があって、料理を提供していて……。 ほうほう、大陸研究所は、中華料理屋に博物館をミックスしたような、欲張りな場所らしい。
部屋は広くて、食べるためのテーブルがいくつもある。 テーブルの外側には、服や武具がたんまりと飾ってある。
飾ってある服を手に取りたいと言えば、その服の細かいデザインを表現してくれる。
……あ! 向こうには、料理を食べるためのカウンター席があるっ!! やった、ちょっと食べてみようぜ!
よっこいしょっと……。 ふう、座って料理を食べたいと言えば、メニューを教えてくれるんだ。 じゃあ、チャーハンと餃子のセットをお願いしまーす! うきうき。 ……おぉ、来たっ!! 1秒もかからずに、目の前に料理が並んでいく。 どれも美味しそうっ!! 食べたいと言えば、味がどんななのかを表現してくれる。 エビのぷりぷりした食感が云々かんぬん……。
おぉ、ここに来るだけで、まるで架空の『大陸研究所』にいる気分になる。 まるでVRメタバースだっ!! イェェェイッッッ!!!
「……新しい料理の開発とかも、やってるみたいですね。 歌子さんとホナミさんも、いるよ」
おや、カウンターの片隅で歌子たちが集まって話しているらしい。 せっかくだし、話しかけてみよう!
「あ! じゃあ、ホナミに話しかけたいんだけど。 えーっと……『私も作ってみたい料理があって……』……あ」
言いかけて、ふと目を上げる。 見ると、ちょうど現実でホナミがやって来ていた。 歌どころの客席の後ろを、フワフワと浮いて移動している。
憶え屋の人も気づいたようだ、振り返って言う。
「本人、いるよ」
「ほんとだw ……じゃあいいや、ありがとう」
本人がいるなら、直接話しかけよう。 仮想空間の中で話すのも楽しいけど、現実はすぐに反応があるしね。
口座を開くのをやめると、憶え屋の人は去っていった。
私は客席の横を歩いていき、後ろのほうで舞台を見始めたホナミのところへ向かっていく。
「ホナミー……!」
ささやき声で呼びながら近づいていくと、床に座り込んでいたホナミが振り向いた。
「あ、スズネ」
会場の後ろを歩いていき、隣に座っていく。 私は腰を落ち着けると、一緒に舞台のほうを眺めだした。 ちょうど役者が入れ替わって、別の人が芸を始めようとしているみたいだ。
舞台をぼんやりと見ながら、さっきの大陸研究所の話をしていく。
「……私も作ってみたい料理があってさ。 ……あ、今、大陸研究所ねw」
付け加えるように、説明を入れる。 大陸研究所で話すわけではないけど、そういう『テイ』ってことで、現実で話してもいいよねw
ホナミは理解してくれたようだ、小さく笑って頷いた。
「作ってみたい料理があるんだけど、私、この島の自然のことって、そんなに知らないんだよね。 ホナミに、材料がどこにあるか教えてもらいたくて。 ……今度、一緒に行こうよ」
「うん。 ……鬼の話は、どうなった?」
いきなり、ホナミが話題を変えた。 ……鬼の話? ……あぁ、『何でも食べて、人の血を求めてさまよう鬼』の話っ!
そうか、ホナミは最初からその話を聞きたかったのかもしれない。
『鬼』に関しては、みんな興味を持って調べているんだ。 私も調べてたんだけど、ついに目撃情報を見つけたんだよね。
「あっ! そうだ、いろいろ見つかってさ。 私が作った、時間によって変わる口座って、あったじゃん?」
私は話しながら、懐からメモ用の石ころを取り出していく。
聞いた情報によれば、『鬼』は真夜中だけに現れる口座にいたらしい。
なら、私の作った『時間によって見えるものが変わる口座』も、それにあてはまるんじゃないか。 夜中の0時にしか見れない内容とかもあるんだし。
「なんか、真夜中にしか開けない所で、見たっていう話を聞いて。 ……だから、もしかしたら、私のその口座かもって……」
「へー……」
ホナミは考えるように呟きながら、舞台のほうを眺めている。 話を聞いてくれているのか舞台を見ているのか、微妙な感じだ。
ホナミは、いつも話すと耳を傾けて聞いてくれるけど、興味があるのかは分からない。
歌子たちに聞いても、ホナミのことはよく分からないらしい。
1人でフラフラしてるだけだし、あんまり自分のことを話さないし……。 毎日散歩していて、景色を見て回るのが好きだってことは分かるけど、細かいことは分からないんだ。
だけど、ホナミと話すと不思議と落ち着くんだ。 ……なんでだろう?
私たちが話していると、ふっと後ろに人の気配がしてきた。 振り返ると、小春とミツバだ。 あれ、この2人が歌どころに来るのは珍しいな。 舞台を眺めながら歩いてきて、そばにしゃがんでくる。
舞台の上では、手品のようなことをやっているみたいだ。 幽霊の人が、『まぼろし』の道具を使って、次々に不思議な現象を作り出している。
『まぼろし』を扱う能力は人によって違うけど、聞いた話では、結構大きな現象も作り出せたりするらしい。
舞台を見ている小春は、目を輝かせてワクワクしているみたいだ。 おぉっ!とか、あっ!とか叫んで、夢中になって楽しんでいる。
舞台の上で踊っている不思議な光をぼんやりと眺めながら、私とホナミは『鬼』の話を続ける。
「だから、どうしよっかなって思って」
「……どうしようかって?」
よく分からないと言った感じで、ホナミが聞き返してくる。 ……あぁ、言葉足らずだったかも。 主語とかの文脈がはっきりしなくて、何を言ってるか分かんないって、たまに歌子に言われるんだよねw
私は説明を加えた。
「だって、憶え屋って、夜になる前に閉まっちゃうじゃん」
「あそっか」
夜中には憶え屋には入れないんだから、鬼探しをしようと思ってもできない。
大体、よく考えてみればおかしな話だ。 真夜中に見たという人は、一体どうやって見たんだろう?
「うん。 だから、真夜中って言うけど、鬼を見たって人も、どうやって見たんだろうって……」
2人が話していると、辺りで歓声がなりはじめた。 どうやら芸が終わったらしい。 拍手がたくさん鳴り、会場がワッと盛り上がる。
「ふーっぅ、よかったよーぅ! ……あ、何の話?」
手を叩いて賛辞を送っていた小春は、ふと足元の私たちに気づき、会話に入ってきた。
私は立ち上がると、小春たちと一緒に歩きだして出口へと向かっていった。 引き揚げていく客たちは、ザワザワと、まださっきの手品に興奮している。
「小春、夜の口座に、どうやって入る? ……ほら、さっきの話だけどさ。 夜は、憶え屋閉まってるじゃん」
「あぁ。 ……ふーん、じゃあ、自分たちで入るしか、ないわね」
「……えっ?」
一瞬遅れて、私は間抜けな声を上げる。 夜に、自分たちで入って記録を確認する……? そんなことして、いいんだろうか。
周りの客の流れに乗って、歩いていた小春は、いつもの顔で振り返った。
「ん? ……なに?」
「いやだって……入っていいの?」
おずおずする私とは対照的に、小春は変わらない。 いつものように自信をもって、答える。
「いいでしょ。 別に悪いことするんじゃ、ないでしょ? ……え、するの?」
「いや、違うけどw」
「じゃあ、いいでしょ」
話しながら、私たちは出口へと向かっていく。 出口の奥には、広いロビーみたいなところが見えている。 この建物にはいくつも舞台の部屋があるから、その合流する場所だ。
小春は普段の調子で歩いていたが、少しして、振り返って改めて聞いてきた。
「……だめなの?」
ちょっとずつ自分の行動に、不安が出てきたみたいだ。 私はうーんと首をひねる。
……そう聞かれても、私も分からない。 なんで、入っちゃいけないような気もするんだろう……。 たしかに小春の言う通り、悪いことしないんだったらいいのかな……?
悶々と考えていると、出口を抜けて、広いロビーへ出ていった。 人の中を歩きながら、私は言葉を絞り出す。
「……一応、ユメに聞いてみる?」
「なんで、ユメ?」
「いやだから……一応、憶え屋作ったのはユメだから……」
「あぁ、分かった、分かった。 ……じゃ、ユメさがしましょ」
小春はさっさと会話を終わらせて、前を向いていった。 もう考えるのが面倒になったみたいだ。
……まあいっか! とりあえずユメに聞けばいい気がする。 なんでかは分かんないけど。
私は考えるのに疲れて目をパチパチさせていると、その時、突然辺りに大声が響いた。
「小春さんっっっ!!」
怒鳴るような声だ、一行は、思わず前を見る。
向こうから、こっちに向かって人がつかつかと歩いてきていた。 通貨記録員だ、腕に黄色い布をつけているから、すぐに分かる。
一体何事だろう、その人は顔を真っ赤にしてめっちゃキレてるような表情だ。 呼ばれた小春も、何事よというように、びっくりして立ち止まった。
「小春さんっ! 5カ月、報告を滞納されてますよ。 ……なあ、お前、いい加減にしないか?!」
いきなり口調が変わり、みんなもびっくりする。 なんだなんだ、報告滞納?
どうやら小春は長い間、通貨記録の報告を怠っていたらしい。 当の小春は顔をしかめて、必死に思い当たるふしを探しているようだったが、すぐに気づいて声を上げた。
「え? ……あっ!」
「前も、3カ月滞納してただろ。 お前、ほんとにいい加減にしないと、しょっぴくぞっ!!」
通貨記録師は目の前に立ち止まると、ドカドカと大声を飛ばしてくる。 あまりの迫力に、思わず後ずさりしてしまいそうだ。 周りの人々も、何事かと驚いた様子でこっちを見ている。
通貨記録は、数日に一回は報告した方がいいと言われている。 短い期間じゃないと、忘れてしまう可能性があるからだ。
小春は手振りをして、自分の非を認めるように言った。
「あぁ、ごめん、ごめん」
「……ったく……で? 憶えてるだろうな?」
「え? あぁ、今32減ってるわよ」
小春は、いまの自分の所持金を報告する。 前回報告した時からの差し引きだ、ちゃんと憶えてはいたらしい。
記録師はまだキレてるようだ、手元の紙に引きちぎれるんじゃないかと心配するぐらい、ぐちゃぐちゃに書き込んでいった。 あなたちょっと落ち着きなさいよ。
書き終えると少し落ち着いて、顔を上げて言う。
「最近は、憶え屋の職員に報告するのでも、よくなってるから。 ……いいか、今度やったら、本当にどこかに報告するぞ!」
「はーい。 ごめーん!」
走り去っていく通貨記録師に、小春はまた謝っていく。 手を振って見送ると、小春はほっとしたように、胸をなでおろした。
「……はー、何事かと、思ったわ」
「お前なw」
ミツバは呆れたように笑った。
まあ、こういうこともあるわよ。(小春)




