アマネのお母さんっ!
街中で、憶え屋の仕事をしていたユメ。 休憩がてら向かった先は……?
歌子の! 説明コーナー~~! イェイ! さあみんな、今日も元気に、この街のことを説明するね!
私がふだんつとめてる歴史所は、広くて大きいんだけど、さらに大きな建物の、ごく一部なんだ。 その全体は『研究棟』って呼ばれてるの。
みんなの世界の、日本の東京の都庁には、財務局とか環境局とか、あるみたいだね。 それと同じような感じで、『研究棟』の中には、いくつかの部署みたいなものがあるんだ。
言語を研究するところに、降霊術を研究するところ、そして私の歴史所……。 多くの部署がまとまって、一つの大きな建物を作ってるんだ。
そして! ここには、この街でいちばん偉い人も、住んでるんだ。 建物のずっと奥のほうに、ヤミコさんっていう人の、居室があるの。
私も、ふだんすぐそばの歴史所で働いてるわけだけど、直接見たことはないんだ。 どんな人なんだろう? ……すっごく強い霊力を持ってるらしいんだけど、昔は元気に山の中を走り回るような人だったんだって。 今はたまに、島の外から来た、外国の使者なんかと面会したりしてるみたい。
……そんなこと話してたら、ユメが一人で、研究棟の階段を上がっていってる。 仕事の休憩に入ったのかな。
研究棟の廊下を歩いていくと、ある研究所の入り口が見えてきた。 降霊術を研究する『降霊研究所』だ。 降霊のあれこれを、科学的に(?)研究するところだ。
ここには、未来降霊を試していた、強力な霊力を持つアマネが、研究員としてつとめている。 いつもはちゃめちゃに元気なアマネだが、普段は研究に貢献しているらしい。
「アマネー」
ユメが名前を呼びながら、研究所に入っていく。
研究所の部屋は、けっこう広かった。 そこかしこに、ホワイトボードのように木の板が立てられていて、紙が大量に貼ってあるようだ。
幽霊は紙をさわれないから、研究用の資料などは、すぐに見て読めるところに貼っておく。 壁に貼るだけだと場所が足りないようで、資料を貼る板を、部屋の中にいくつも立てているらしい。
研究者らしき人が、こっちに気づいて振り返った。
「あら、ユメちゃん」
ここにはよく来るから、研究員の人たちとは顔なじみだ。 なにか生身の人にしてほしいことがある時、アマネを頼ってここに来るのだ。
ユメは辺りを見回しながら、研究者の人に聞いていく。
「アマネ、います?」
「いや、いないわよ。 多分、お母さんのところに、行ってるんじゃないかな」
あ、そうか。 いまは昼時だから、お母さんの働いてるところに行って、ごはんを届けに行っているんだ。 お母さんは忙しいらしいから、代わりにごはんを街中で買って届けるっていうのを、毎日してるみたいなんだよね。
分かりましたと言って、ユメは踵を返した。 ……しょうがない、アマネのお母さんの職場に行ってみよう。
アマネのお母さんは、『旧祈祷所』というところに勤めている。 降霊術を行うための施設のひとつで、中には降霊するための設備が整っている。 巫女たちはここで、一定時間ごとに集中する時間を設けることで、いまこの世にいる幽霊たちを、この世界にとどめることが出来るのだ。
幽霊をとどめておくために、巫女たちは、ここにずっといる必要があったらしい。 だから、ここには巫女たちがやる仕事の設備も、整っている。 蚕で糸を作ったり、紙を作ったり、道具を作ったり……。 巫女は生きていて生身の人しかなれないから、仕事も生身の人用のものばかりだ。 紙なんかは、街のほとんどの分が、ここで作られているらしい。
最近では、降霊の技術の向上で、ここにいる必要はなくなった。 つい5年ほど前のことだが、ちょっとした技術革新が起きて、巫女たちは祈祷をする必要からも解放されたのだ。 今では、ふつうに街中で生活する巫女などもいる。 『旧』とついているのは、そのためだ。
とはいえこの施設には、生身の人のための仕事がたくさんあり、そのための設備が整っている。 巫女たちは、相変わらずここで働く人が多いらしい。
旧祈祷所の中に、ユメが入っていく。 中は、生身の人があまりに多くて、空気がどこかむっとしていた。 生きている人の吐く息が、壁に反響する声が、足音が、生々しく辺りに満ちている。
ここに来ると、いつも自分たちが、いかに『生っぽくない』街で生きているかが、よく分かる。 だって、お笑いを見に行っても、舞台に上がる人も、客席で見ている人も、幽霊の人ばっかりだ。
中を歩いていくと、アマネのお母さんの姿が見えてきた。 どうやらアマネも一緒らしい。
「アマネー」
ユメは声をかけながら、近づいていく。 2人は何か話しているようだった、お母さんはアマネの手を握って、何か言っている。
「……だから、ちゃんと、先生たちの言うことは、聞きなさい」
「分かったって! もう……」
どうやら、説教されていたようだ。 アマネが母親に説教されているのは、よく見る。 研究所の人たちの言うことを聞かずに、走り回ってしまうことがあるみたいだ。
アマネは嫌がるように母親の手を振り払い、その場から走りだした。 ちょうどこっちへ向かってきて、避ける間もなく体ごと突っ込んでくる。 アマネはびっくりしたのか、うわっと叫びながら、ユメの幽霊の体を通り抜けていく。 ユメも思わず目をつむって、身を縮めた。
「アマネっ!!」
母親が、大きな声で怒鳴った。 ユメの幽霊の体を通り抜けていき、アマネは小さく振り返りながら、そのまま走り去ろうとする。
「ユメ、ごめーん!」
「アマネ! ちょっと、待ちなさいっ!!!」
幽霊は、体をすり抜けられる。 でも、実際に体をすり抜けると、気持ち悪くて不快だという人が、すごく多い。 道を歩く時も、生身の人と同じように、お互いによけて、歩こうとする。
怒った声を聞いて、向こうのアマネが振り返った。 母親の怒りが分かったのか、立ち止まると、走って戻ってくる。
「あぁいや、大丈夫ですよ」
気にしていないというように言うと、そばで座っている母親は、こっちを見て申し訳なさそうな顔をした。
「ユメちゃん、ごめんね。 ……ほら、ちゃんと、謝って」
母親はそう言って、アマネのほうに向く。 そばに戻ってきたアマネは、謝ってきた。
「ユメ、ごめん」
「いいよ。 ……あ、ちょっと、アマネ、頼みたいことがあるんだけど、いい?」
2人は、その場を一緒に離れていきながら話す。 先に跳ねるように歩いていくアマネは、自分のペースでたったっと軽快な足音を鳴らしながら答えた。
「んー、何?」
「ちょっと、来て」
さあ、ユメはどこに行くのか?! 盛り上がってきたぜぇ!! フウゥゥゥーーっ!!




