文字が書かれた、石ころ……?
洞窟探検、ホナミが向かった目的は……?
洞窟を、さらに進んでいく。 地下道は、どんどん狭く小さくなっていく。 一行の目の前には、もはや道とは言えないレベルで狭い、岩と岩の『隙間』があった。 ……というか、ほぼ行き止まりレベルだ。 この先に、目的の場所があるというのだろうか。
「……え、ここ、進むの?」
スズネが、ドン引きするように言う。 ホナミは、岩など関係ないかのように、するっと無視して、すたすたと通り抜けていく。
「ホナミ、ここ、大丈夫なの?」
「大丈夫ー」
ホナミはもう向こうへ行ったようだ。 数m続く『隙間』を通り抜け、ホナミが向こうから顔を出した。
「ここが、目的の場所だよ」
向こうにすぐ、目的の場所があるらしい。
小春がさっそく挑戦していく。 岩の隙間に挟まり、なんとか通り抜けようとする。 小春はこういうことは、得意ではない。 空を飛んだり、地面を通り抜けたり……そういうのには、抵抗があるらしい。
人によっては、それを強みにして、職業にする人もいる。 軍の人たちは、特に海で泳ぐ人たちは、そういう人たちが、多いらしい。 ずっと水の中に潜りっぱなしで、隠れたり、偵察したり……。
移動するのにも、もちろん空の上を飛ぶのが一番速いから、何かの伝令をする役割の人なども、そうらしい。
……けど、普通の人は、違う。 雨子なんか、特にそういうのが苦手だから、いまも私たちの後ろで、顔を真っ青にしている。
「……あっ! あら、いけるじゃない。 ほら、余裕よ、よゆー!」
岩の間に入った小春が、そういって、ひらひらと隙間から手を出して、振って見せる。 少なくとも、体が入れるぐらいの広さは、あるようだ。
「本当か? お前、自分が霊だからって、適当なこと言ってねえか?」
ぶつくさと言いながらも、ミツバが後に続いて、隙間に身を入れていく。 松明の火を持ちながらも、もぞもぞと、頑張って身をよじっていたが、どうやら入れたみたいだ。 奥のほうへ、ずいずいと入っていく。
一番体の大きいミツバが入れたなら、多分私たちは、みんな入れる。 そう思った歌子も、続いて隙間に身を入れていった。
その隙間は、歌子でもぎりぎり通れるぐらいの狭さだった。 なんとか角度を調整しながら、進んでいく。 後ろを見ると、雨子も隙間に挟まれて、身をよじってついてきていた。 かなり苦しそうだ、動いていきながら、小さな息遣いが聞こえてくる。
やがて、前のミツバは抜けていき、足音を響かせて出ていった。 解放されて楽になったミツバは、松明を掲げて振り返り、隙間の中を覗き込んでくる。 歌子たちの様子を見ているようだ、奥に見える雨子が苦しそうなのが見えて、声をかけてくる。
「おい、雨子、大丈夫か?」
「うん、大丈夫……げほっ」
苦しそうに返事をする雨子を置いて、歌子が先に抜けていった。 隙間から足音を鳴らして出ていき、はあと息を吐きだす。 息を整えながら、体を落ち着けて前のほうへ目を向けると、更に地下道は向こうの方まで続いているようだ。 宙にフワフワと浮いたホナミがいて、みんなが来るのを待って、こっちを見ている。
けほけほと、せき込む声が聞こえた。 振り返ると、隙間から抜け出していた雨子が、地面に手をついて、苦しそうにしていた。
「ちょっと、雨子大丈夫? なんであんた、そんなに苦しそうなの。 霊なのに」
そういって小春が、気づかうようにそばに行く。
幽霊の人は怪我をしても、生身の人に比べると、痛みや苦しみは少ないらしい。 しかし、それも人によるみたいだ。
雨子は苦しそうに顔を上げると、笑顔を見せて、体を立て直していった。
「うん。 ……大丈夫」
後ろでは、スズネも隙間を抜けてきた。 岩の外に出てくると、辺りを眺めながらきょろきょろしている。 隙間を抜けた一行は、揃って前へと向いていった。 待っていたホナミに目を向けると、ホナミは小さく腕を動かした。
「ここ」
ホナミは一言いうと、腕を掲げて何かを指し示す。 そこには、何かが、ゴミのようにたくさん積まれているようだった。 火を掲げてミツバが近づき、明かりで照らしていく。
「……なんだ? これ」
目の前には、石ころが大量に転がり、積まれていた。 ゴロゴロと山を作るように積まれており、見ると道のあちこちにも散らばっているようだ。
……ん? でも、なにか、普通じゃないな。 違和感を感じた歌子は、しゃがんで石ころを一つ、手に取ってみる。 火に照らし出されて、石の形が浮かび上がった。
石ころの表面には、黒い模様のようなものが、びっしりと描き込まれていた。 見た感じ、文字のようだ。 そこに転がっているすべての石ころに、大量に文字が書かれているみたいだ。 フワフワと浮いたまま、低い位置に降りてきてホナミが言う。
「うーん、なんか書いてあるなーって思って。 ……こっちにも」
そういって、今度は別のほうを指さす。 そっちにも、石ころが大量に積まれた山があった。
「……なんだ? こんな文字、あったっけ?」
その文字は、不思議な形をしていた。 一つ一つが繋がり、流れるように書かれている。 まるで、異国の文字のようだ。
歌子とミツバが手に取っている石ころを、ものをさわれない幽霊の小春たちが、後ろから眺めていく。
「ふーん、漢字じゃないのね。 歌子、分かる?」
屈んだ小春に聞かれて、歌子は首をかしげながら文字を眺めた。 ……うーん、見たことないなあ。 だいたい、この島で分かる文字の種類なんて、たかが知れてる。 もし知ってる人がいるとすれば、勉強会で大陸の話をしてくれた、活発で元気なお姉さんの、ミツエダさんとかかも? 大陸に渡った後、さらに奥の方まで行ったらしいから、その道中で目にしたとか……。
歌子は石ころを眺めながら、立ち上がっていった。
「いや、知らない。 ……これ、持って帰ろう。 ミツエダさんとかに聞いたら、何か分かるかも」
「あ! そうね、あの人、よく分かんないけど、なんか色々詳しいし」
小春は、ミツエダさんの経歴を、知らないんだろう。 そりゃそうか、勉強会に行ったことは、多分ないだろうしwwww
話す一行の横で、スズネは、別のほうを見ていた。 地下道の、さらに奥のほうだ。
……この向こうは、どうなっているんだろう? 細い道は、遠くまで続いていっているように見える。 なんか不思議な感じがする……なんとなく、道全体が、人の手が入っているような……?
ぼんやりと奥のほうを眺めるスズネのそばで、引き続き、歌子たちが話している。 歌子は石ころの山を眺めて、考えるように言った。
「えーっと……、どうやって、持って帰る?」
そういって、そばのミツバを見上げる。 話を振られたミツバは、眉をひそめた。 ……持って帰るって……なんだ? 一つじゃなくて、全部か?
「……おい、これ全部持って帰んのか?」
「え? だめ?」
おどけたように言ってくる歌子に、ミツバはげんなりして返す。
「おい、マジかよ」
「街に、網とか余ってないの? 使い古しでもいいから」
網? ……漁に使ったお古ってことか? あぁ、それならうちにもあったかな……。
「あー……まあ、あるけど」
「じゃ、それ取って来よう!」
歌子はルンルンと、楽しそうに提案してくる。 おい、さっきから思ってたけど、俺を使う気まんまんかよ。 ミツバはだるそうに、不満の声を上げた。
「えー! また、この道往復するのかよ」
「ちょっとミツバ! あんた、ジジ臭いわね。 ほら、とっとと文句言ってないで、やんなさいよっ!」
小春がいつもの勢いで、言ってくる。 どうせ自分が幽霊だから、手伝うこともないし、他人事なんだろう。
そばでは歌子が、さっそく歩きだしながら、振り返って手招きした。
「ほら、ミツバ、行こう。 私も、手伝うから」
「えー、マジか……」
しぶしぶ返事をして、ミツバは重い足取りで歩きだす。 横で、関係ない小春が、元気に張り切って声を上げた。
「よーっし、そうと決まれば、さっそく往復するわよっ! スズネっ! あんたも行くの? どうすんの?」
向こうでは、スズネがまだ地下道の奥を眺めていた。 スズネは振り返り、慌てたようについてくる。 ちょっと待ってっ!
一行は、街へと戻っていった。 向かうは、勉強会のミツエダさんだっ!




