ミツエダ、再び。
歌子たちは、洞窟から街まで1往復して、石ころを回収した後、ようやく街まで戻ってきた。 もう夕方で、辺りの景色は赤い光にうっすらと浸っている。
「はあ、はあ……」
歌子が、疲れ切った足取りで、街の階段を上っていた。 網を肩に担いでいるようだ、石ころが大量に入っていて、じゃらじゃらと音がしている。 何度も網を下ろしながら進んでいて、休憩しながら進んでいるようだ。
前のほうから、階段を先に行くミツバが振り返ってきた。 どんどん距離が離れているのを心配したのか、遠くから声を投げてくる。
「おーい! 大丈夫かー!」
歌子は小さく頷いて返事をするが、聞こえているかも分からない。 疲れて表情に乏しく、汗を垂らし、地面に下ろしていた網を再び持ち上げていく。
階段の先では、小春が歩いていた。 小春は幽霊だから、手ぶらで楽そうだ。
軽やかに階段を上がっていた小春だったが、ふと気になって後ろを振り返った。 ずいぶん先に来てしまったようだ、生身の歌子たちが遠くに見える。
「2人ともー! はやくー! ……もう、ったく、何やってんのよ」
小春はぶつくさと言いながらも、見かねたように、スタスタと階段を下りて戻っていく。
更に先のほうでは、雨子とスズネが、一緒に歩きながら話していた。 生身の2人ははるか後ろで、完全に置き去りにしている。
「でね、私は、海側に住んでるんだ。 あっ、スズネちゃんは、どこに住んでるの?」
「私は、こっちの山の西……第5区画……だっけ?」
2人は全く後ろを見もせずに、他愛ない世間話を楽しんでいるようだ。 今住んでいる場所のことでも、話しているのか? どこか遠くのほうを指さしながら、「あの辺り?」「うん、そう!」などと、楽しそうに話している。 まったく、幽霊だからって、お気楽すぎて困る。
話す2人の横を、人が通っていく。 もう街は店じまいの雰囲気で、ご飯を食べている生身の人などもいるようだ。 階段を、汁物をすすりながら駆け下りていく人がいる。 2人が話す横を、料理の煙が顔をかすめていった。
「昔は、どこに住んでた?」
「昔は、海側だったよ」
今度は、今ではなく、昔の住所の話を始めたようだ。 雨子は、跳ねるようにウキウキと話す。
「あ、私も生まれたの、海側だよ! え、どこ? すぐ近くだったりしてっ」
違う時代に、同じ地域の、まったく同じ土の上に住んでた……なんてことも、ごく稀にある。 数百年も生きてた時代が違うのに、そんな共通点が見つかると、すごく親しみを感じることだろう。
「おーい! こっちだぞ!」
2人が会話を楽しんでいると、後ろから、ミツバの太い声が聞こえた。 振り返ると、違う道に逸れていたことに気づく。 2人は慌てて元の道へと戻って、ミツバたちを追いかけていった。
勉強会では、いつものように、人がたくさん集っていた。 ざわざわと声がしていて、あちこちに話の輪が見える。 先生の役をする人が、自分の持っている知識を話して、生徒たちが聞く……そんな感じで、いつものように、知識を深めていっているようだ。
そんな中へ、まったく勉強する気が無い2人が飛び込んできた。 雨子とスズネだ、2人は大学のキャンパスに間違って遊びに来た小学生のように、無邪気な顔で勉強会の中を走っていく。
「ミツエダさん!」
大陸横断をしたミツエダを見つけて、声をかけていく。 すらっとした背丈の、快活そうなミツエダは、今日も勉強会で話をしていた。 まわりには話を聞いている人が何人かおり、ミツエダの話をワクワクするような顔で聞いている。
ミツエダは相変わらず楽しそうに、自分の経験談を披露していた。 手を叩いてゲラゲラと笑っていて、自分の話で爆笑しているみたいだ。 ひーひー言って涙をぬぐいながら、話の途中でこっちを見る。
「おぉ、雨子ちゃん。 どうしたっ?ww」
雨子たちはそこにたどり着くと、あれ? と辺りを見回した。 まだ、生身の2人は来てない。 入り口のほうを振り返って、きょろきょろしてると、ようやく2人の姿を見つける。
「あーえっと……あ、来た」
歌子たちが、勉強会の間を歩いてきた。 息を切らして、汗をダラダラと垂らし、服はボロボロで泥だらけで、石ころを網に担いで歩いてくる。 生身の体を持っているから、威圧感がハンパない。
「あれ、どうした?」
なんか、ただならぬオーラやな。 またこいつら、変なことでもしたんか? ミツエダはその光景を面白がるように、笑いながら声をかけていく。
歌子たちは、重い足を引きずって歩き、その場にようやくたどり着くと、どさっと網を地面に下ろしていった。 その後から、小春が出てきて、説明する。
「ミツエダちゃん、なんか、変な文字が見つかったみたいよ。 ……ほらミツバ、何やってんの。 石ころ、見せてっ」
ミツバは、散々歩き回った疲れで、うなだれていた。 あの後も、網を用意したり、たいまつを再び用意してきたり、いちばん動き回ったのは、ミツバだ。
そんなことに気を遣うこともなく、元気な小春が、他人事のようにミツバを促す。
近くにいた人たちの目は、網に入った石ころへ向けられていた。 それに気づいたミツバは、疲れたような手つきで、網の中を開いていく。 手を突っ込むと、ゴロゴロと入っていた石ころを一つつかんで持ち上げた。
そばに立っていたミツエダは、屈んでその石ころを眺める。
「ん、何? ……文字?」
横で、歌子も網を開いて、石ころを手に持っていく。 そこにいた勉強会の人たちも、一緒にそれを覗き込んでいく。 どうやら、幽霊が多くて、直接さわれる人は、少ないみたいだ。 生身の、歌子とミツバが持つのを、みんなが周りから見ている。
「……見たこと、あります?」
元気のしおれた声で、歌子が聞く。 いつも忙しく動き回っている歌子も、さすがに今日のはこたえたみたいだ。 だらんと腕をぶら下げて、力を抜いてしゃがみこんでいる。
歌子の横で、勉強会に来ていた幽霊の女の子が、石ころを不思議そうに眺めていた。 文字がびっしり書かれている石ころなんて、誰も見たことがないだろう。
「……大陸の、西の方? いや、違うか……」
「うーん……ちょっと、こっち持ってきてくれん? 見たことないけどなー、どこのかな」
ミツエダはそう言いながら、その場を離れていった。 それを見て、歌子たちは再び石ころの入った網を持ち上げ、後についていく。




