エピローグ
「おい、噛ませ令嬢だぞ」
「いや……もう噛ませとか呼んじゃまずいんじゃないか?」
どうやらようやくここにきてヘンリッカのすばらしさについて理解がすすんできたようだ。
周囲から聞こえる声にしたり顔を披露しながら、今日もヘンリッカは見事な赤毛と制服のローブをたなびかせ背筋を伸ばして、カツカツとキルカ=サラストの回廊を歩いていた。
その隣にはイェレがいつものようにしまりのない笑顔で寄り添っている。生徒たちにとってはすでに見慣れた光景だ。
あの所属試験からはや一週間。
キルカ=サラストはつい昨日張り出されたばかりの試験結果についての話題でもちきりであった。
なにせ魔術科で二位に大差をつけて序列一位であったミルカと騎士科序列一位であるライネの不動の一位ペアを――僅かではあるものの――上回る評価を得たペアが現れたからだ。
そのペアこそもちろん、ヴィーアライネが誇る天才令嬢ヘンリッカと纏魔の騎士たるイェレである。ちなみに天才令嬢というのはヘンリッカの自称で誰かに呼ばれたものではない。
これが個人の序列にどう影響してくるかはまだわからないが、いずれあのミルカの首を取るべく今まさにヘンリッカは燃え上がっていた。
「ごきげんようミルカさん、ミュリュスさん! 相変わらず脳天気な顔ですね!」
「おはようー」
がつりと床を蹴って、前から歩いてきた人物の目の前に立ちはだかる。
「あ! リッカ、イェレ君おはよう!」
「相変わらずはこっちのセリフ……」
「あ、やっぱり僕のことは無視なんだね」
ミルクティー色の髪の毛を揺らしてニコニコと手を振るミルカと、半眼のヴィヴィに向けてツンと胸を反らして見せて、ついでにうさんくさい笑顔を浮かべているアルマースのことは視界に入れないようにする。
ほんの少しだけ姿を変えた光景にひっそりと胸を高鳴らせて。
ヘンリッカの覇道は今まさに始まりを告げたばかりだった。
本編完結です。
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