第8話 『遭遇』
宿屋の主人を殴りつけて勢いよく建物の中に乗り込んでいったガスが、いきなり出入口から外に戻ってくるように倒れ込んできたのを見たクレアとクラリスは互いに顔を見合わせた。
「ガスの奴、やられてんじゃん。何やってんのよ」
「弱い奴には強いのに、ちょっと強い奴にはてんで弱いのよねアイツ」
双子はガスの性格をよく知っている。
取り立ての際、自分より弱い相手にはとことん強気に出るが、相手が大柄だったり気の強い男だったりするとすぐに護衛に任せて自分は後ろに隠れているのだ。
「でもここって老夫婦しかいないんじゃなかったっけ?」
「用心棒でも雇ったんじゃないの?」
「そんなお金あるなら返済に回せばいいのに」
クレアとクラリスは肩をすくめて建物に向かう。
ガスがのびているなら自分たちの出番だ。
小男のガスでは対処できないような相手が出て来た時にそれを制圧するのが護衛役としての双子の役目だった。
そう思った双子だが、思わず足を止める。
出入口から顔を出した人物を見て面食らったからだ。
「ケッ。飯の時間に取り立てに来るんじゃねえよ。次、アタシの食事を邪魔したら頭をかち割るぞ」
宿の出入口から現れてそう言ったのは、クレアやクラリスと同じ赤毛に褐色肌で筋肉に覆われた逞しい体つきの女だった。
自分たちと母親以外に同族の女を見たことのない2人は思わず言葉を失って立ち尽くす。
赤毛の女はそんな2人に目を留めると、わずかに驚いた顔を見せたが、すぐにその顔に不敵な笑みを浮かべて言った。
「何だ。おまえら。昼間は闘技場で仕事して、夜は借金取りの用心棒か? 随分と働き者だな。人気者のクレアとクラリス」
そう言う赤毛の女に双子は戸惑いながらも警戒の表情を浮かべた。
殴られたガスは一撃で失神してしまっている。
その顎が赤く腫れていることから、おそらく顎への強打で脳震盪を起こしたのだと双子はすぐに理解した。
目の前の赤毛の女がこういう荒事に相当慣れていることが窺える。
「……何よアンタ? うちの回収係を殴られたんじゃワタシたちも黙っていられないよ」
「アンタには関係ないでしょ。こっちの仕事の邪魔しないでくれる?」
不満げな表情でそう言う双子をじっと見据えて赤毛の女は言った。
「黙れ。そこでノビてる野郎を連れて失せろ。アタシは今、飯を食ってんだよ。邪魔すんな」
白けた口調でそう言うと赤毛の女は踵を返そうとした。
だが双子はそれを呼び止める。
「待ちなよ。仕事を邪魔されたのはこっちのほうよ。ハイそうですかとは帰れないわ」
「そうよ。あんたこそ奥に引っ込んで大人しく食事してなよ。ワタシたちにぶっ飛ばされたくなきゃね」
敵意をむき出しにそう言う双子に、赤毛の女は無造作に赤毛をかきむしる。
「面倒くせえことを言うガキどもだな。交互に喋りやがって。これだから双子は嫌いなんだ。昔の上官を思い出す。今すぐ帰らねえならアタシにぶっ飛ばされておまえらもそこでその男と仲良く眠るか?」
「威勢いいじゃないの」
「やれるものならやってみなさいよ」
そう言う双子に赤毛の女はいきなり一足飛びに襲いかかってきた。
双子はそれにしっかり反応して迎え撃つ。
相手が繰り出してきた拳をクレアが左手でいなして避け、クラリスが赤毛の女の腹に向けて鋭く前蹴りを放った。
だが赤毛の女はそれを足蹴りで横にいなすと、一気にクラリスの間合いに入ってくる。
ほとんど体当たりのような急接近にクラリスは思わず驚きの声を漏らした。
「なっ……」
そんなクラリスの頭に赤毛の女は至近距離から頭突きを浴びせる。
「アイタッ!」
「無防備なんだよ。ガキ」
そう言うと赤毛の女は左手でクラリスの胸ぐらを掴んで右側にいるクラリスに押し当てた。
クレアはクラリスを押し退けようとするが、それよりも早く赤毛の女がクラリスの尻を蹴ってクレアごと押し倒した。
「くっ! ちょっとどきなさいよ!」
クレアは腕で力任せにクラリスを脇に押し退けると立ち上がった。
そんな彼女を見て赤毛の女は鋭い目付きで言う。
「闘技場の時とは大違いだな。ま、喧嘩程度で本気を出すのはバカバカしいか?」
そう言う赤毛の女にクレアは不機嫌そうに舌打ちをした。
「へえ。ワタシらの試合を観てたんだ? この街でワタシらに喧嘩を売ってくる奴なんていないから、ちょっと油断してたわ。本気でやろうか」
そう言うとクレアは両目を見開き、赤毛の女に飛びかかっていくのだった。




