第5話 『借金取り』
「おいっ! 借りた金は約束通り返すのが人の道ってもんだろ!」
同僚の小男、ガスがそう怒鳴り散らすのを双子の姉妹クレアとクラリスは退屈そうに眺めていた。
彼が怒鳴りつけている相手は街外れに小さな商店を構える老店主の男だ。
唇を嚙みしめる哀れな老店主は、ガスに借金の返済を迫られていた。
「返済期日を1日でも過ぎたら厳しく取り立てるのが我がオーガスト商会のやり方だ。少しでも待ってもらえると思ったか? 甘いんだよジジイ」
「すみません。しかしもう今月は余力がなくて……来月になれば売掛金の回収が出来ますので何とか1ヶ月のご猶予を……」
無念の表情でそう言う老店主の店の軒先に置かれた商品台を、ガスは乱暴に蹴り飛ばした。
台の上に並べられていた革製の帯や靴などが地面に転がり落ちる。
「うちをナメてんのか? ジジイ。昨日までに返済するという契約でうちはあんたに金を貸したんだ。それならあんたはどんなことをしてでもうちに金を返すのが筋だろう」
そう言うとガスは落ちている革の帯を拾い上げた。
そしてその革帯を老店主の目の前に差し出しながら目を細めて薄笑みを浮かべる。
「店ごと全部売り払ってでも耳を揃えて金を返せ。それが出来なければうちにも考えがある。知ってるよな? うちに金を返せない奴がどうなるか」
そう言うガスに老店主は顔を青ざめさせて震え上がる。
闘技場を運営するオーガスト商会は様々な業種に多角経営を行っているが、そのうちの一つが金貸しだった。
この小さな商店でも即日借りれるほど借金申し込みへの障壁は低いが、その代わり利息は高く取り立ては厳しかった。
金を返すまでしつこく取り立てを続ける。
そして取り立て時には闘技場で戦う闘士らを取り立て人の護衛役として寄越すのだ。
時にはその護衛自らが率先して暴れることもあり、借金をした者たちからは大変に恐れられている。
そして金を返せない者は……身柄を拘束されて闘技場などで強制労働を強いられるのだ。
借金の額によっては10年以上も奴隷のように働かされる者もいる。
それでも金を借りる者が後を絶たないのは、この国の経済がまさしく弱肉強食だからであろう。
弱い者を保護する法律を今のこの国の王は一切作らない。
そうした政策の下、富める者はさらに富み、持たざる者はいつまでも持つことが出来ない。
貧富の差は広がり、街外れで商店を営むような者たちは例外なく生活が苦しかった。
借金せずにはいられないほど追い込まれる者も少なくないのだ。
「じじい。債務整理だ。おまえの全財産でいくら返済できるのかこちらが算盤を弾く。それまでおまえの身柄は拘束するぞ。自殺でもされちゃこちらは丸々損するだけだからな。もしおまえの所有財産の範囲で返済できたら晴れて自由の身だ。足りなければ……不足の額はうちで働いて返してもらうことになるぜ」
「ひいっ! ご容赦を!」
必死に慈悲を乞う老店主だが、ガスの合図と共に双子のさらに後ろに控えていた2人の屈強な男たちが近付いていき、両脇から腕を抱えられて連行されていく。
顔を引きつらせた老店主は半狂乱になってガスに懇願した。
「お願いだ! 店を続けさせてくれ! 債務整理なんかしたら、借金を返済できてもその後生きていけない!」
だが、ガスは冷たく言い放つのみだ。
「知ったことか」
ガスの言葉に絶望し、老人は項垂れたまま男たちに連行されていく。
双子の前を通り過ぎる際、老人は恨めしげな視線を彼女たちに向けた。
双子は肩をすくめるのみだ。
クレアとクラリスはあくまでも取り立て業務をする際のガスの護衛。
借金の取り立て自体には手を貸さない。
ガスはそんな2人に声をかける。
「待たせたな。クレア、クラリス。次が今日最後の客だ」
「あいよ。さっさと済ませて」
「もうすぐ夕飯の時間だしね」
そう言う双子にガスはニヤリと笑う。
「おまえら獅子狩りで会長からたんまり報奨金もらったんだろ? 俺に夕飯奢ってくれよ」
「やなこった。あんたに奢る義理はないよ」
にべもなくそう言うクレアにガスは不服そうに表情を曇らせた。
「おいおい。つれねえな。臨時収入があった時は気前よく同僚に御馳走したほうがいいぞ。そうすりゃ奢られた方も後々おまえらが困った時に便宜を図ってやれる。おまえらは若いからまだ分からんだろうが、それが処世術ってもんだ」
ガスの言葉に薄笑みを浮かべるのはクラリスだ。
「困ってもあんたに助けは求めないから心配御無用」
クラリスの口ぶりにクレアもケタケタ笑う。
「ガスに頼み事なんかしたら、後で何を要求されるか分かったもんじゃないしね」
双子に笑われガスは不機嫌そうに顔をしかめる。
「チッ。これだから小娘はよぉ。もういい。行くぜ」
そう言うとガスは双子を引き連れて本日最後の取り立て先へと向かうのだった。




