恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第2部 3
…知っていた?…
…松嶋を知っていた?…
私は、絶句した…
文字通り、言葉が、出なかった…
米倉正造が、松嶋を知っていた…
その事実に、驚愕した…
が、
同時に、気付いた…
今、正造が、言ったのは、
「…松嶋が、憎いですか?…」
と、言っただけ…
米倉正造が、松嶋を個人的に、知っているか、どうかは、わからない…
米倉は、金崎実業の内山社長と通じている…
もっとも、米倉といっても、米倉正造ではなく、父親の平造だが…
いずれにしろ、通じている…
だから、その線から、正造が、松嶋を知っていても、おかしくはない…
が、
知っているのは、おそらく名前だけ…
名前だけだ…
米倉正造自身が、松嶋と、直接面識がある可能性は、低い…
私は、そう見た…
私は、そう睨んだ…
だから、私は、
「…随分、地獄耳ですね…」
と、返した…
もちろん、皮肉だ…
「…蛇の道は蛇というやつです…」
正造が、これも、皮肉を言った…
お互いさまといったところか(苦笑)…
この米倉正造と話すと、疲れると言うか…
互いに、決して、本心を明かさない…
まるで、ゲームのようだ…
ゲーム=闘いのようだ…
テニスや、柔道、剣道ではないが、言葉の闘い…
互いに、相手の言葉のやり取りから、相手の本心を掴む…
推察する…
そんな感じだ…
だが、
決して、嫌ではない(笑)…
むしろ、楽しい…
ワクワクする…
それは、もしかしたら、この高見ちづるが、米倉正造同様、へそが曲がっているというか…
素直で、ないからかも、しれない…
もっとも、それを言えば、その通りなので、反論できない(苦笑)…
まもなく、34歳にも、なろうとする女が、これまで、ろくに、男と付き合ったことがないと言えば、誰もが、驚愕するだろう…
自分で、言うのも、なんだが、私は、女優の常盤貴子さんを、小柄にしたような美人…
そんな美人が、これまで、34歳になろうとする今まで、ろくに男と付き合ったことのないといえば、驚くだろう…
あるいは、ウソと言うかも、しれない…
が、
真実…
紛れもない、真実だった…
元々、容易く、心が、動かない…
だから、男と付き合うつもりもなかった…
だから、あの人事の松嶋が、言ったように、
「…美人だから、相手を選びすぎるからだよ…」
と、言われたのも、一度や二度ではない…
これも、散々、言われた…
が、
嫌なものは、嫌…
これも、松嶋に言われたように、
「…いい加減、妥協しなよ…」
とも、散々、言われた…
が、
私に言わせれば、妥協もなにも、まったく心が、動かなかっただけだ…
だから、身近な男と付き合うこともなかった…
だから、学校でも、会社でも、散々、男たちから、言い寄られたが、それも、最初のうちだけ…
そのうちに、
「…高見さんは、誰とも、付き合う気がないって…」
と、学校でも、会社でも、言われて、誰からも、声もかからなくなった…
それが、真相…
私が、これまで、ろくに男と付き合ったことがない真相だった…
が、
米倉正造は、違った…
正直、これまで、見たことも、聞いたこともない男だった…
イケメンで、お金持ち…
それでいて、極端な話、私のカラダ目当てだとか…
そんな気配は、まるでなかった(笑)…
また、もしかして、私のカラダ目当てならば、それこそ、お笑い草だ…
身長、155㎝で、瘦せっぽちのカラダ…
誰が、どう見ても、見たいカラダではない(笑)…
抱きたいカラダではない(爆笑)…
見たいカラダや抱きたいカラダというのは、女の私が、言うのも、なんだが、大柄で、ナイスバディのカラダ…
最低でも、身長165㎝は、欲しい…
要するに、水着の似合う女だ(笑)…
胸が大きく、お尻も大きい…
いわゆるレースクイーンや、キャンペーンガールのお姉さんに代表される女たち…
彼女たちに、比べ、身長、わずか、155㎝のカラダは、お子様…
まるで、小学生が、少しばかり成長した姿に過ぎない…
もっとも、だから、米倉正造は、私に興味を示さないのかも、しれない…
今さらながら、思った…
長身でイケメンの米倉正造には、やはり、長身の美人が、似合う…
そういうことかも、しれない…
今さらながら、考えた…
と、そんなことを、考えていると、
「…人事には、人事の目論見があります…」
と、突然、正造が、言った…
「…人事の目論見?…」
「…例えば、高見さんをクビにして、再び、米倉を騒動に巻き込むとか…」
…米倉を騒動に巻き込む?…
…一体、なにを言っているのだろう?…
考えた…
米倉正造の言っている意味が、わからない…
だから、
「…どういう意味でしょうか? …一体?…」
と、聞いた…
「…派閥抗争ですよ…」
「…派閥抗争って?…」
「…高見さんが、米倉に繋がっていると、知っている人間がいて、高見さんを、試した…」
「…私を試した?…」
「…高見さんが、どうでるか、試した…」
「…そんな…」
言いながら、私が、どう出ると、言うんだろ? とも、思った…
なにしろ、この平凡な高見ちづるだ…
お金持ちでも、なんでもない…
だから、できることなど、たかが、知れている…
せいぜいが、私をクビにするとでも、言えば、裁判で、訴えてやるとでも、言うぐらいだ…
それとて、ブラフ=ハッタリというか…
ハッタリというのは、仮に裁判で勝っても、会社に戻るのは、困難ということだ…
仮に、裁判で、勝って、職場に戻ることが、出来ても、普通は、職場の同僚が、距離を置く…
ハッキリ言えば、相手にしない…
なぜなら、そんなふうにしてまで、職場に戻った私と親しく接すれば、会社に、目を付けられるからだ…
会社=人事に、目を付けられるからだ…
だから、近寄らない…
なまじ、私とそれまで、同様、親しく接して、リストラ対象にされたり、出世が、阻まれたりしたら、困るからだ…
それが、わかっているから、誰も、私に近寄らない…
そして、私自身、そうなることは、わかっているから、仮に、裁判をしても、大抵は、退職金を、割り増しにしてもらい、本来、もらえる退職金よりも、かなり多く、もらって、会社を去る…
そういうことだ…
そして、誰もが、そういう道を選ぶ…
それが、王道というか…
まあ、仮に、戻れても、一度は、リストラ対象になっているのだから、バラ色の未来が、待っているわけがない…
次は、転勤に次ぐ、転勤で、悲鳴を上げて、逃げ出すまで、待つか、わざと、キツイ職場に、配置転換をするか、など、嫌がらせが、待っている可能性が、高い…
だから、大方は、退職金を割りまして、もらい、退職するのだ…
私は、脳裏で、そんなことを、考えながら、
「…一体、私が、どう出ると、言うんですか?…」
と、米倉正造に、聞いた…
すると、
米倉正造が、間髪入れずに、
「…ボクに、泣きつく…」
と、答えた…
笑いながら、答えた…
…そういうことか!…
合点が言った…
会社は、松嶋は、それを狙っていたということか?…
そう思っていると、
「…いや、ボクというか…米倉に泣きつく…あるいは、水野に泣きつく…」
と、米倉正造が、続けた…
つまりは、金崎実業の親会社である、水野や米倉に私が、泣きつくと思った…
それが、会社=人事の狙いだったわけだ…
つまり、私を餌に、米倉や、水野を引っ張り出すつもりだった…
それが、本当の狙いだったというわけか?
合点が、言った反面、やはりというか…
あの松嶋の悔しそうな顔が、脳裏を、よぎった…
私をクビにできなかったときの、松嶋の顔が、脳裏によぎった…
私自身、あんなに、悔しそうな顔をした、人間を、目の当たりにしたことが、なかった…
前にも、言ったが、あの表情は、オリンピックとか、メダルを取って、表彰台に、上がったときに、ホントは、金メダルを獲りたかったのに、銀メダルしか、獲れなかったというときの顔だった…
顔=表情だった…
誰もが、日常で、見る顔ではない…
日常で、見られる表情では、ない…
それは、スポーツなどの競技で、見る表情…
決して、普段、学校や職場で、見る表情ではない…
そんな表情をするのは、ドラマや映画の中だけ…
わざと、大げさな表情をするからだ…
わざと、大げさな表情で、観客や視聴者に訴えるからだ…
日常の光景で、そこまで、大げさな表情は、普通は、誰もしないものだ…
が、
あの松嶋は、した…
だから、驚いた…
同時に、興味が湧いた…
たかだか、私を退職に追い込むことができないぐらいで、なんで、あんな悔しそうな顔をするのか?
文字通り、謎だったからだ…
だから、興味が、湧いた…
そういうことだ…
が、
その謎も、今、私が、水野や米倉に泣きつくことが、目的だと、聞いて、少しは、解けた気がする…
退職ではなく、休職…
なんとも、中途半端な処置だ…
すると、もしかしたら、私が、水野や米倉に泣きつくには、弱いとでも、思ったのだろうか?
なんとしても、退職に追い込むことで、私が、水野や米倉に、泣きつくように、したかったが、できなかった…
それが、あのときの松嶋の表情の真相だろうか?
私は、思った…
私は、考えた…
すると、米倉正造が、
「…高見さん…」
と、声をかけてきた…
「…会社に戻りたいですか?…」
直球だった…
直球に聞いてきた…




