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モルフィの軌跡  作者: オレノマツ
第一章 監獄島編

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7/15

7.夜

あの見せしめの暴行と俺たちの飯抜き処分が効いたのか、一夜が明けるまで囚人たちの間で目立った争いは起きなかった。

誰もが看守の容赦のない暴力を恐れ、息を潜めていた。


そして翌朝、俺たちは再び家畜のように船倉へと押し込まれ、出航した。


すし詰めの船内、ふと視線の先にアンディの姿を捉えたが、彼はこちらと目が合った瞬間に、あからさまに視線を逸らした。

徹底して俺たちを関わり合いのない「他人」として扱うつもりのようだ。


「……彼とは、親友だったの?」


隣にいたオズレットが、鎖を軋ませながら小声で尋ねてきた。


「いや。昨日、船の中で言葉を交わしただけの男さ」


俺はオズレットの不躾な質問に、興味なさげに素っ気なく答えた。

この地獄で他人に期待するだけ無駄だ。

それはあいつも、俺もよく分かっている。


数時間の航行を経て、ついに窓の外に本物の島が姿を現した。


前日立ち寄った簡素な停留所とは、規模も、放つ威圧感も桁違いだった。

島全体が、黒々とした巨石を積み上げて作られた不落の要塞と化している。


そしてその凶悪な要塞のすぐ隣に、まるで場違いな貴族の高級ホテルのような、壮麗で巨大な洋館が不気味にそびえ立っていた。

あれが、この島を支配する看守たちの、贅を尽くした居住区なのだろう。

囚人を奴隷として搾取した血税で建った、歪な楽園だ。


船が接岸し、俺たちは再び岸壁に一列に整列させられた。

目の前には、昨日回廊から俺を撃った男よりも、さらに上質な、豪奢な毛皮の羽織を纏った大柄な男が立っていた。


この監獄島の最高権力者――看守長だ。


「さて、諸君。ようこそ、我が監獄島へ。

 看守長のガナンだ」


ガナン看守長は、まるで観客を熱烈に迎える劇場の支配人のように、大袈裟に両手を広げて微笑んだ。

目の奥は一切笑っていない。


「これからの生活を始める前に、まずはこの島で生き残るための、絶対のルールを説明しておこう。

 もし仮に、この島から脱獄を試みて失敗した場合――待っているのは、二日間の独房生活ではない。

 光も音もない暗闇での、丸二年の独房刑だ。

 人間の精神など、三ヶ月もすれば容易に狂うがね」


そこで一度言葉を切り、今度は一段と酷薄な笑みを唇に浮かべた。


「そしてその際、我が部下である看守を一人でも殺傷した場合……」


彼が指差した先、広場の中央に鎮座していた黒い布が引き剥がされた。

中から現れたのは、どす黒い返り血が染み付いた、巨大な木製の「ギロチン台」だった。

陽光を浴びて、重厚な鉄の刃が鈍く明滅する。


「このギロチンで、一瞬のうちにその首を撥ね落とす。

 ――ルールはこれだけだ。

 簡単だろう? 命が惜しければ、くれぐれも私と仲良くやろうじゃないか」


親しげな口調とは裏腹に、広場には肌を刺すような絶対的な死の気配が満ちていた。


「では、検査からだ。始めろ」


看守長の冷徹な号令とともに、俺たちは二度と生きては出られないと言われる鉄格子の奥へと、順番に放り込まれていった。




入監前の身体検査は、執拗で容赦のないものだった。

健康状態の確認という名目のもと、着ていた衣服をすべて剥ぎ取られ、口の中や髪の毛の隙間に至るまで、何かしらの武器や禁制品を隠し持っていないか、看守たちの脂ぎった手で細かくチェックされた。


だが、ある特定のエリアで、検査官の動きがピタリと止まった。

俺の右肩の刺青と、両手首を繋ぐ鈍い鈍色の鎖を凝視した看守の一人が、みるみるうちに顔を曇らせていく。


「……おい。お前、まさか『悪魔付き』か?」


内心の動揺を押し殺し、わざとらしく小首を傾げてみせた。


「なんのことだ?何もしてねぇよ」


「とぼけるな。その手錠だよ」


看守は忌々しそうに、鉄の鎖を乱暴に揺らした。


「こいつは王宮直属の使徒どもが使う、悪魔付き専用の特殊な枷だ。

 悪魔の力を根底から遮断し、発揮できないように精緻な加工が施されている。

 純銀と聖塩、それから呪素を練り込んだ代物だ。

 正直、地方の村が一つ買えるほど高価なんだよ。

 いいか、それを二度と外せると思うな」


看守の言葉に、俺は胸の内で深く舌を巻いた。

道理で、あの法廷からこの島に連れてこられるまでの間、どれだけ意識を集中させても悪魔の力が指先一つにすら宿らなかったわけだ。右肩の蝶が完全に眠らされている。

これでは、手足を縛られたただの人間と変わらない。何もできやしない。


だが、看守は手元の分厚い書類に目を落とすと、不思議そうに眉間へ皺を寄せた。


「……だが妙だな。お前がやらかした罪状の中に、お前が『悪魔付き』だという記載はどこにもないぞ?」


看守のその呟きに、俺の思考が高速で回転を始めた。

そんな馬鹿な話があるか。


あのレンガ造りの街で、使徒のスタークと刃を交えた際、俺は確実に悪魔の力を発現させ、鱗粉を撒き散らした。

使徒ともあろう者が俺の能力を隠蔽したというのか?

何のために?


王宮にとって、地方の虫ケラごときに「使徒が敗北しかけた」という事実は、国の威信にかけても絶対に公表できない不都合な真実だったのか。


――いや、理由はなんだっていい。結果オーライだ。

俺が魔人だと知られれば、さらに強固な魔術監獄へぶち込まれていたはずだ。


「むっ、備考に書いてあったか。

 『悪魔付き』の疑いがあるとだけな。

 まあなんでもいい。

 だが、念のためだ。その高価な手錠はそのままつけておけ。

 外して何かあっても寝覚めが悪い。

 その手錠がある限りお前は何もできないのだから」


看守はそれ以上深く追及することなく、書類に無造作なサインを入れた。

こうして、すべての厳重な検査が終了し、俺は「ただの凶悪犯」として監獄の奥へと足を踏み入れる資格を得た。

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