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モルフィの軌跡  作者: オレノマツ
第一章 監獄島編

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12/14

12.弁明

意識が朦朧とする中、モルフィは家畜のように床を引きずられ、囚人たちが再び一堂に集められた中央広場へと連れ戻された。


「正座しろ!」と看守の怒号が飛ぶが、へし折られた肋骨とズタズタの四肢は、もはや自分の意志では指一つ動かせない。

足を不格好に折りたたんだまま、冷たい石畳の地面に無様に突っ伏していた。


口の端から、だらだらと血混じりの唾液が溢れて床を汚す。


その時、ぬっと前に立ったガナン看守長が、俺の濡れた髪を容赦なく掴み、頭を強引に引き剥がした。


「――身の程知らずの脱走を試みたらしいな、小僧。

 よりによって、あの偉大なる使徒様が視察に来られた、その目の前で」


髪を引きちぎらんばかりの激痛が走るが、今のモルフィには言葉を吐く気力すら残っていなかった。

ただ、腫れ上がった目で看守長を睨み返すのが精一杯だった。


「だが……お前は、狂おしいほど運が良い」


ガナン看守長はそう言って冷たく嗤うと、腰の水筒を引き抜き、モルフィの顔面に強引に水を浴びせかけた。

鼻や口に水が入り込み、激しく咳き込む。


「お前が背後から石で殴りつけたあの看守だがね、運良く頭蓋が割れずに気絶しただけで済んだ。

 ……良かったな。

 これで、お前の薄汚い首をあのギロチンで叩き落とさずに済む。

 だが我が監獄島は『ルール』に対して極めて厳格でね。

 看守を殺していないお前を、処刑する権限は私にはない」


看守長が視線で促した先には、朝方にあの巨漢の首を撥ねたばかりの、巨大なギロチン台が鎮座していた。

鉄の刃には、まだべっとりと黒ずんだ返り血がこびりついている。


死の臭いが風にのって鼻腔を突いた。


「だが、お前が脱走を企て、この島に泥を塗った事実は消えない。

 その罪は重いぞ。

 ――ルール通り、丸二年間、光の届かぬ独房へブチ込んでやる」


二年間。

まともな人間なら三ヶ月で精神が崩壊するという、あの精神の死刑宣告だ。

だが、引きずられていくモルフィの脳裏に、不意にバロミロのあの不敵な声が蘇っていた。


それでも希望はあった。


『月曜日と木曜日のこの時間だ。これから毎週、ここで会おう』


全身の激痛に耐えながら、モルフィは暗転していく視界の奥で、小さく、狂気的な笑みを浮かべた。

引きずられる鉄鎖の重々しい音が、モルフィを監獄島のさらなる深淵へと誘うように、広場へ虚しく響き渡っていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



看守長が広場でモルフィに冷酷な宣告を下しているその裏で、第四使徒スタークは、要塞の最も深く、最も厳重に隠された一室の扉を開けていた。

彼が引き連れてきたあの妖艶な女たちは、絶海の孤島で暇を持て余している看守どもの期限を取り、口を封じるための、上質な娯楽に過ぎない。


あんな有象無象の屑も貧しい売春婦などのことなど、スタークにとっては徹頭徹尾どうでもよかった。


彼の目的は、ホテルのように豪奢な総督府の向こう側、監獄には不釣り合いなとある特殊独房にあった。

許可を得ることすらなく、スタークは魔導で動く鍵を外してその部屋へと足を踏み入れる。


「……随分と久しぶりだな。――親父」


「……スタークか」


バロミロは息を吐き出すように、手元の葉巻から深く紫煙を燻らせた。

その声には、息子への懐かしさなど微塵も混じっていない。


「相変わらず、組織の『遺産』について、白状する気はないようだな」


「ないと言ったら、ない。

 特に、主人の足元で尾を振る、国の忠実な犬に成り下がったお前になど、一銭たりとも渡すものか」


バロミロは吐き捨てるように言うと、侮蔑を込めて明後日の方向へと視線を逸らした。


鉄の規律を重んじる第四使徒の端正な顔が、不快そうに歪む。

だが、バロミロはそんな息子の動揺を楽しむように、ニヤリと唇を吊り上げた。


「そういえば。実に面白い奴を見つけたぞ」


「……何だと?」


あの傲慢な父親が、珍しく自分から他人の話題を口にした。

スタークは不気味な沈黙を保ちながら、フードの奥の目を細めて言葉の先を促した。


「俺は、そいつを俺のすべてを受け継ぐ『後継者』にするつもりだ。

 俺の技術も、組織も、お前たちが血眼になって探している遺産も……すべて、その男にくれてやる」


「――正気か!? 何を馬鹿なことを言っている!!」


激昂したスタークは、二人を隔てる分厚いアクリル窓を、拳で激しく叩きつけた。

爆音のような衝撃音が室内に響き渡る。

大陸のすべてを冷徹に見下ろしてきた最強の使徒の一角が、この父親の前でだけは、使徒としての仮面を維持することすらできなかった。


「まあ、信じるも信じないもお前次第だ。だが、あいつは本物だ。

 俺が見た人間でも明らかにな」


「……ハッ、死を間際にして狂ったか。

 この監獄であんたに接触できた受刑者なんて、指で数えるほどしかいない。

 管理棟の面会履歴を調べれば、その『後継者』とやらが誰なのか、すぐに特定できる」


バロミロは葉巻の灰を悠然と落としながら、楽しげに首を傾げた。


「特定して、どうするつもりだ?」


「決まっているだろう。

 ――見つけ出し次第、この手で切り殺してやる」


剥き出しの殺意を放つスタークを見て、バロミロは堪えきれないといった様子でクククと低く笑い声を上げた。


「ハハハ! いいだろう、やってみろ。……だが断言してやる。お前に、その男は殺せない」


「何だと……?」


「お前には絶対に無理だ。試してみるがいい、バカな息子よ」


父親の絶対的な自信と、自分への明らかな格下扱いに、スタークのプライドは激しく逆撫でされた。


「……後悔するなよ、老いぼれが」


スタークは踵を返し、背後の重い鉄扉を荒々しく開け放つと、復讐の権化のような足取りで、面会記録のある管理棟へと向かって猛然と歩き出した。

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