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王の愛は闇夜とともに  作者: 紫月 京


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77.結婚の報告


武術大会を終えた高等学院は、冬の長期休暇前の試験の準備に追われていた。

夏と違って、休暇期間は一月だ。学院から生徒へ出される課題の量もそれほど多くはない。

けれど、体調を崩しがちな季節に入る為、教員室でアスナ先生がピリピリしていた。

「ん〜、やっぱり風邪を引く子がぁ、増えますねぇ」

「保健室へ来る生徒も、多くなっていますしね」

今学期の成績をつけているわたしに、アスナ先生が頬杖をついたままで溜息を吐き出した。

「この学期はぁ、武術大会もあってぇ、学力試験もあってぇ、長期休暇の準備もあるからぁ。とっても忙しいですぅ」

「アスナ先生こそ、体調を崩さないでくださいね」

「あたしは大丈夫ですぅ」

そして、意味ありげな視線が送られる。

「リリンカ先生もぉ、大丈夫そうですねぇ」

「えっ?」

手元から顔を上げて、アスナ先生に視線を向けた。

「ダレストン先生に愛されてぇ、輝いてるみたいぃ」

「なっ!」

「あまりからかってはいけませんわよ、アスナ先生」

向かいから掛けられた声に、アスナ先生が頬を膨らませた。

「だぁってぇ。来年には結婚だなんてぇ、婚約期間短すぎませんかぁ?」

そう。今朝学院に来た時に、アスナ先生とフェンヤ先生には結婚についてお知らせしたのだ。

「もっとこぉ、甘ぁい時間を過ごしたいってぇ、思わないんですぅ?」

その言葉にふふっと笑いが漏れる。

「リリンカ先生ぇ?」

「婚約でも結婚でも。彼といられるのなら、どちらでもいいんです」

わたしの言葉に、二人が目を丸くした。何かおかしかったかしら。

「変なこと言いました?」

「いやぁ。ご馳走様ですぅ」

「愛し合う若者というものは、眩しいわね」

目を細めた二人の反応に、自分の言葉を思い返して羞恥に顔が熱くなった。


学院長には、カリファーと二人で報告に行った。

カリファーが人になったという話に、マドゥー学院長は床に崩れ落ちた。しかも、きっかけが決闘を受け入れた生徒による卑劣な反撃と聞いて、大泣きしていた。

大人の男の人が号泣するところなんて、初めて見たわ。

呆れたようなカリファーがわたしの肩を抱いて、来年結婚することを伝えた。そして、これからも自分に従うのかと尋ねると、直立不動の姿勢を取って頷いていた。

何だか、見てはいけないものを見てしまったような気分だわ。


学院長室を出て、教員室にいた先生たちにも報告した。

割れるような拍手と歓声をもらった。フェンヤ先生が、銀縁眼鏡の向こうで涙ぐんでいるのがわかってわたしも泣きそうになった。

長期休暇には、母のお墓に報告に行けるかしら。春になって、式を挙げてからがいいかしら。

騒がしい午前中を終え、アスナ先生と食堂に向かっていると後ろから声を掛けられた。

「リリンカ先生!」

立ち止まって振り返ると、ゼネフォラ=イアン子爵令息が立っていた。

「……何か?」

感情的にならないように、平坦な声を出す。ピシリと背筋を伸ばしたままで、子爵令息が深く頭を下げた。

「……?」

「そのっ、先日は申し訳ありませんでしたっ!」

決闘の日のことよね?でも、何について謝っているのかしら。こんな人目のある場所で、カリファーを刺したことを謝るの?

「自分は、その……リリンカ先生を賭けの種に決闘を申し入れました。先生の意思を尊重していなかったと反省していますっ!申し訳ありませんでした!」

「……謝罪を受け入れるわ」

わたしの言葉に安心したように顔を上げた子爵令息が、突然青ざめた。

「どうし……」

「きちんと謝れて、偉かったな。さっさと戻れ」

背後から聞こえた声に力が抜けた。

「ダレストン先生にもっ!謝罪致します!」

「わかったから。もう行け」

「はい!失礼致します!」

くるりと振り返り、元気よく駆けていく子爵令息を呆然と見送った。何だか、別人のようだったわ。

カリファーに視線を向けると、困ったように笑っていた。

「ダレストン先生?」

「若者は、勢いがあっていいですね」

「あらぁ。ダレストン先生だってぇ、まだお若いんじゃないんですかぁ?」

隣でアスナ先生がからかうように声を掛ける。

「素直に反省できたのなら、決闘を受け入れた甲斐がありました」

「これからは少しでもぉ、平民の教師を馬鹿にしたりしないとぉ、いいですわねぇ」

のんびりとしたアスナ先生の声を聞きながら、そっとカリファーに視線を投げる。

アスナ先生に気づかれないように、彼が唇に人差し指を当てたのを見て、内心の溜息を隠して頷いた。

きっと、セレーヌたちが何かしたのよね。でも、教えてくれる気はなさそうだわ。

頭を振って、食堂への道を急いだ。


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