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王の愛は闇夜とともに  作者: 紫月 京


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75.人になる


窓から朝日が差し込む。

うとうとしていたわたしは、ハッとして目を開けた。

隣で眠るカリファーの、胸元に視線を向ける。純銀の杭が、突き立てられたまま陽光で煌めいている。

震える手を、杭に伸ばした。

このまま、抜いていいの?

「ナスティディア、大丈夫だ」

優しい声に、バッと顔を向けた。

「……カリファー?」

「その杭は、人の体には傷をつけない。そのまま、抜け」

「……」

一度ぎゅっと目を閉じ、再び開いて手に力を込めた。

ゆっくりと、彼の心臓から杭を引き抜く。

血が噴き出るかと身構えていたけれど、するりと抜けた彼の肌には、何の傷もついていなかった。

深く安堵の息を漏らす。

「ディア、こちらへ」

呼ばれて、純銀の杭を手にしたまま彼の顔の近くへ寄る。

差し出された手に、杭を渡した。

「これは、また、封じておく」

「封じる?」

「俺にはもう、弱点ではなくなったが。この屋敷にはまだ、夜の眷属たちがいるのでな」

ハッとして扉を窺う。まだ、セレーヌやレストにとっては、危険な物ということね。

力強い動きで身を起こしたカリファーが、杭を敷布の上に置いてわたしを抱き寄せた。

「辛い思いをさせたな。俺が油断したせいだ」

腕の中で、首を横に振った。

「貴方はこれから、どうなるの?」

「今までと、それほど変わらん。朝起きて学院に通い、お前と戯れ、愛し合いながら生きていく」

その言葉に吹き出した。

「この屋敷は、これまで通りここに存在する。世界から隠すのは、レストたちにもできるからな」

だが、とカリファーが続ける。

「これまでのように、お前を何からも守ることは難しくなるかもしれん」

「えっ?」

「俺が、お前に隠れて色々していたことは、気づいていただろう?」

悪戯っぽく片目を瞑られて、意地の悪い気持ちが湧く。

「例えば?」

敢えて尋ねてみれば、彼が困ったように眉を下げた。

「マドゥーを使って、お前の側から害になる男を排除したり」

「それから?」

「マドゥーを使って、お前の側から害になる小娘を排除したり」

「そして?」

ダメだわ。笑いを堪えきれるかしら。

「能力を使って、お前の周囲の人間の認識を変えさせたり?」

「どうして疑問形になるの」

クスクスと笑って、彼の黄金色を見上げた。

「そういったことは、もうできない」

「ふふっ」

笑い声を漏らしたわたしに、カリファーが首を傾げた。

「ディア?」

「あのね、カリファー。それは、普通のことなのよ?」

「普通?」

きょとんとする彼に、そっと口づけた。

「今貴方が言ったようなことは、人間にはできないことだわ」

いえ、学院長に圧力をかけることくらいは、できるかもしれないけれど。

「だから、そんなに落ち込むことはないわ」

「……そうか」

わたしの想いが伝わるように願って、彼の胸に額を押しつける。

「そんな力などなくても、わたしは貴方自身を愛しているのよ」

カリファーがわたしの髪を撫でた。柔らかい手つきに身を任せる。

「これからも、ずっと。貴方が貴方のままで側にいてくれることを、願うわ」

「当たり前だ」

強く抱きしめられて、幸福感に浸る。

朝日に照らされたカリファーの横顔が、とても綺麗だった。


くう、と小さい音がカリファーのお腹から鳴った。

驚愕したような表情で、彼が自分の腹部を見つめている。

「……お腹が空いたの?」

「あ……そうか。これが、空腹か」

彼の腕の拘束から抜け出し、寝台を降りて脱ぎ捨てられていた夜着を身に纏う。

「セレーヌを呼ぶわ。朝食を用意してもらいましょう?」

「そう、だな」

まだ呆然としているカリファーに笑いかけて、寝室の扉を開ける前に振り返った。

「杭を、箱にしまっておいてあげてね」

「ああ」

扉を開けると、泣き腫らしたような真っ赤な瞳でセレーヌが立っていた。

言葉に詰まっているような彼女に、微笑みかける。

「おはよう、セレーヌ」

「……っ、おはようございます、ナスティディア様」

「カリファーが、お腹が空いたんですって。わたしも欲しいから。朝食を二人分、お願いできる?」

わたしの言葉に目を見開いて、セレーヌが深く頷いて立ち去っていった。

寝台の側に戻り、カリファーに声を掛ける。

「食事の前に着替えなくてはね。貴方は、お湯を浴びてくる?」

「そう、だな。……一緒に入るか?」

「ひっ、一人で入れます!」

きっと真っ赤になっただろう顔を隠すように、寝室から逃げ出した。



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