67.決闘の申し入れ
晴れ渡る空の下、高らかに武術大会の開催が宣言された。
生徒会主体で行われるこの勝ち上がり戦には、高等学院に在籍している生徒ならば誰でも参加できる。
受付は先月半ばに終了し、対戦表が主催の生徒会によって作成されていた。
会場と対戦の管理は生徒会役員の男子生徒とホジャ先生が、怪我人の対応は女子生徒とアスナ先生が中心になって行われる。
わたしはアスナ先生の補佐として、会場横に設置された天幕の中にいた。カリファーはホジャ先生の補佐に駆り出されている。
第一試合が始まるまでの間、アスナ先生とのんびり待つ。
「今年はぁ、どのくらいここが埋まるかしらぁ」
「埋まる?」
備品の確認をしていたわたしは、アスナ先生の呟きに振り返った。
「毎年ぃ、張り切りすぎてここに運ばれる子がぁ、多いんですよぉ」
前にも言っていたわね。
「大体ぃ、貴族のご子息の方がぁ、運ばれてくるのは多いかしらぁ」
「そうなんですか?」
首を傾げると、アスナ先生がクスクスと笑う。
「平民の子たちはぁ、ちゃあんと自分の力をぉ、わかってますからぁ」
「でも、武術は貴族の方が、幼い頃から師匠をつけて習っているものではないんですか?」
あまり思い出したくないけど、サラジ先生の実家だって、嫡男である兄は剣術を習っていたはず。
わたしの疑問に、アスナ先生は笑ったままで頷いた。
「そしてぇ、意中の女子にいいところを見せようとしてぇ、空回るぅ」
歌うようなアスナ先生の口調に吹き出した。
そんな話をしていると、試合会場からわあっと歓声が上がった。
ここからでは、剣術の会場しか見えない。槍術と弓術の会場は、少し離れていた。
「誰も怪我はしなかったみたいですね」
ホッとしていると、試合に勝った生徒が木剣でビシリ、と見守っていたカリファーを指した。
「!?」
「あらぁ。あの子もぉ、空回っちゃう子かしらぁ」
生徒の大声が、会場に響き渡った。
「生殖学のダレストン先生!自分は、この武術大会で優勝を目指しています。自分が優勝した暁には、決闘の申し出を受けていただきたい!」
「決闘!?」
驚きすぎて立ち上がったわたしの背中に、アスナ先生が宥めるように手を当てた。
「大丈夫ですよぉ。ほらぁ、ダレストン先生のあの余裕の顔ぉ、見えますぅ?」
木剣を突き付けられたような格好になったカリファーは、形のよい唇を上げて微笑んでいた。
「何の為の決闘かな?」
「勿論!リリンカ先生を賭けての決闘です!」
「はあっ!?」
あ、いけない。思わず淑女らしからぬ声を出してしまったわ。隣で、アスナ先生が体を折り曲げそうな勢いで笑っている。
天幕に待機していた女子生徒たちから、羨ましそうな視線を向けられる。
「ご婚約されたと聞きました。ですが、リリンカ先生は平民です!高位貴族のダレストン先生には、釣り合わないんじゃないですか!」
あの子は何を言っているのかしら……。
カリファーが怒り出さないかとひやひやしていると、彼は微笑んだまま少し首を傾げてみせた。
「それを決めるのは君ではない。そして、私は高位貴族だなどと言った覚えはないが」
「その立ち居振る舞いを見ていれば、誰にでもわかるでしょう!さあ、決闘を受けていただけるんですか!?」
「決闘を受けたとして、私に益があるようには思えないのだが」
面白そうに答えるカリファーを見て、肩の力が抜ける。あれは、子どもが騒いでいるのを微笑ましく見ているような表情ね。
「逃げるんですかっ!」
「いや、逃げはしないが。こんな公衆の面前で名前を出されて、リリンカ先生が不快になっていないといいな?」
からかうような声に、男子生徒がハッとしたようにこちらを見た。
見覚えのない生徒だった。誰かしら。まだ幼さの残る、けれど剣術で引き締まった体を持つ生徒だった。
「いいだろう。君が、宣言通り優勝したなら、決闘を受けよう」
カリファーの言葉に大歓声が上がる。そう言えば、人気があるとアスナ先生が言っていたわね。
「ただし」
喜色を浮かべた男子生徒に、黄金色を眇めてカリファーが冷静に告げる。
「彼女を戦利品扱いしたことは、謝罪してもらいたい」
「え……?」
何を言われたのかわからないという顔で、男子生徒がぽかんと口を開けた。
「リリンカ先生は、物ではない。君がどんな気持ちを抱いていようとも、決闘の種にするのは感心しない」
チラリとこちらを向いたカリファーが、口元に笑みを貼りつけたままで続ける。
「ゼネフォラ=イアン子爵令息。君の優勝を楽しみに待っている」
最後まで余裕の表情を崩さないカリファーに、男子生徒が悔しそうに唇を噛みしめていた。




