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王の愛は闇夜とともに  作者: 紫月 京


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52.王の伴侶


いつの間にこんなに、わたしにピッタリの服を揃えていたのかしら。

カリファーの寝室の隣に設えられた妻の部屋で、セレーヌがあれこれと着替えに迷っている。

「やはり、こちらの若草色のお召し物がよろしいですわね。ナスティディア様の紺碧の瞳によくお似合いです」

「ねぇ、セレーヌ」

「はい?」

わたしに着つけてくれているセレーヌに問いかけた。

「どうして、こんなに着る物が揃っているの?」

「勿論、主がナスティディア様の為にご用意したからですわ」

当然のことだと言わんばかりの口調に首を傾げる。

「わたしが、彼の……妻に、なると決めたのは、昨日のことなのよ?一体、いつから用意していたの?」

「それは主にお尋ねくださいませ。私が勝手にお教えしてしまっては、叱られてしまいます」

わたしの手を引いて、セレーヌが鏡台の前に座らせてくれた。

「主に愛されて、肌が内面から輝いておいでですから。お化粧はそれほど必要ありませんわね」

「は……っ、恥ずかしい、わ」

「何を仰せですか。本当に、艶やかで色めいて、美味しそうな香りですわ」

「美味しそう!?」

言われた意味がわからず、思いきり振り返ってしまった。

セレーヌが手を口元に当てて隠していた。

「セレーヌ?」

「いえ、その……主の伴侶である貴方様を、味見など致しませんわ。そんな、恐れ多い」

「味見……」

顔の向きを鏡の方へ戻されて、丁寧に髪を梳られた。

「その、セレーヌ。貴方も、あの……人の血を飲む、の?」

ピタリ、とセレーヌの手の動きが止まる。

「……ごめんなさい。何でもないわ」

「ナスティディア様。私どものことを恐ろしく思われるのは当然のことでございますよ」

「えっ?」

「ですが、そうですわね。私は、割と好みがうるさいのです」

言われた意味がわからず、鏡越しにセレーヌの瞳を見つめた。

「その辺の小者の血など、つまみ食いにしても、欲しいと思いませんわ」

「つまみ食い」

「昔は、誰彼構わず食い散らかすような無粋な者もおりましたが。そういった者は、すべて主に粛清されましたので」

何だか、話の方向が物騒になってきたわ。やはり、聞くべきではなかったかしら。

優しいカリファーの、冷酷なところなど想像できない。

「そもそも。王の伴侶に手を出そうなどという愚か者は、さすがにおりません。私どもにとって甘美な貴方様の香りは酔わされそうですが、ご安心くださいませ」

「そう……王!?」

髪を結われていたわたしは、驚いて立ち上がりそうになった。

「ナスティディア様?」

「待、って……カリファーって、王様なの?」

震える声で呟いたわたしに、セレーヌが再び口を閉じた。

鏡の中でみるみる青ざめていくわたしに、セレーヌは焦ったようだ。黒い蝶が飛んで行くのが写った。

「セレーヌ……」

「申し訳ございません。主よりお聞きになってくださいませ」

先ほどと同じことを言われているのに、その重みの違いに眩暈がしそうだった。


ゆっくりと、扉が開かれた。

甘い香りが漂う。そう、わたしを安心させる、カリファーの香り。

「どうした?何かあったのか」

身支度を終わらせてもらっていたわたしは、立ち上がってカリファーを振り返った。

「よく似合うな」

黄金色を細めるカリファーに近づく。

わたしが腕を広げると、彼が一瞬目を見開いた。次の瞬間には、彼の腕の中に閉じ込められていた。

額を彼の胸に押し当てて、深呼吸する。

「ディア?」

「……カリファー。貴方は、王様なの?」

「っ!」

彼が身動ぎしたのがわかった。引き剥がされないように、背中に両腕を回して力を込める。

「……セレーヌ?」

頭上で冷たい声が響いた。わたしの背後で、セレーヌが頭を下げる気配がする。

「申し訳ございません。私の失態でございます」

「カリファー、教えて。貴方のことを知りたいのよ」

腕の中から見上げると、困ったように眉を下げていた。

「いずれ、話すつもりではあったんだが」

「今のわたしには、貴方のことを知る資格はない?」

「そんなことはない!」

そう答えてくれるとわかっていて、こんなことを聞くわたしはズルい女かしら。

「そうだな。朝食の後に話そうか」

「きちんと、教えてくれるの?」

「ああ。今日という休日が潰れてしまうかもしれないぞ?」

少しからかうような声に安心する。

「構わないわ。今日は、貴方とずっと一緒にいたいから」

一人で教員寮で過ごすなんて、寂しすぎるわ。

カリファーの、わたしを抱きしめる腕に力が入った。



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