表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の愛は闇夜とともに  作者: 紫月 京


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/81

45.牙


時間が止まったような静けさに包まれる。

大きな腕の中、花のような甘い香りがわたしを酔わせている。

彼の息遣いだけが聞こえる。

ああ、何だかとても、安心するわ。

気づけば食器はすべて下げられ、使用人の姿も消えていた。いつの間に。

髪を撫でる優しい手つきに目を閉じた。

「……ディア」

零された声が甘い色を含んでいて、彼の胸に額を押しつけた。

「っぐ……ディア、待て」

体を引き剥がされそうな気配を感じて、彼の背中に両腕を回した。

「お前……」

「まだ、離れたくないわ」

ぐぅ、と呻いたような声が聞こえた後、つむじに優しい重さを感じた。

「カリファー?」

彼の顔を見たいのに、頭を動かせない。

カリファーの頬が、わたしの頭を押さえているみたいだった。

「意味がわかって、言っているのか?」

「意味?」

「無自覚か。先が思いやられるな」

頭の上から重さが離れていき、顎にそっと長い指がかけられた。

上を向かされる。黄金色がやっと見えた。

「忍耐力には自信があったんだが……」

「えっ?」

「お前の覚悟を待っていたんだ」

「覚悟?」

カリファーが、わたしの額に自分の額を押し当ててきた。

唇が触れそうな距離に心臓が早鐘を打つ。

「お前が、このまま人として生きていくのか。俺の世界へ来るのか」

苦しげな声に悲しくなった。わたしは、カリファーの気持ちを何もわかっていないのかしら。

「その覚悟を決めてくれるのを、待つつもりだった」

意味がわからず、言葉の続きをじっと待つ。

「俺のような化物になって、永遠に夜を生きる覚悟を、お前は決められるのか?」

「っ!」

驚愕に目を見開いたわたしから、彼の顔が離れていく。

「まだ、決められないだろう?だから、できるだけお前に触れないようにしていた」

「どうして……」

「離れられなくなる」

それは、わたしがその覚悟を決めないと、彼と触れ合うことができないということ?

「俺は、ずっとお前に触れたかった。今みたいにこの腕の中に閉じ込めて、俺だけを見ていてほしかった」

わたしを抱きしめる腕から、力が抜けていく。

「だが、それはお前を尊重しないということだ。そんな無様な男に成り下がることは、俺自身が許さない」

離れていく腕を、必死に掴んだ。

「っ、ディア。だから、触れるなと……」

「側にいたいわ」

「……っ」

ダメ。泣いてはダメよ。

どうすれば、わたしから離れずにいてくれるのかわからない。

「貴方に、触れたい……」

「ディア!」

「覚悟なんて、わからない。貴方の言う意味が、理解できないわたしでは、貴方に触れる資格はないのかしら」

声が震えて情けない。

彼を失うのかもしれないと思って、怖くなった。行かないでほしかった。

ずっと側にいると、言ったのに――。

「……っ」

何、今の気持ち。そんなこと、言われた?

自分の内側から漏れた想いに首を振った。

「ディア?」

「貴方に口づけたいと、触れ合いたいと思うわたしは、はしたない女?」

「くち……っ」

真っ赤なカリファーなんて初めて見たわ。ほんの少し冷静になった。

そっと、彼の胸に手を置く。

「ディア……」

「わたしを、貴方のものにしてほしい」

もう、気持ちを止められない。

人のまま生きるか、彼の世界へ行くか。そんなこと言われてもわからない。

ただ、今、目の前にいるカリファーに触れたくてたまらなかった。


力強く体を引かれて、彼の膝の上に乗せられていた。

「カ、カリファー?」

「まったく、敵わない……」

「えっ?」

いつもは見上げる黄金色を、いつの間にか見下ろしていた。

下から射抜かれて、身動きできない。全身を、縛りつけられたみたい。

すっ、と長い指がわたしの髪を後ろへ流した。肌を掠めた感覚にびくりと身を震わせる。

「もう、後戻りはできないぞ」

低い囁きが、熱を持ってわたしを包み込んだ。

「後戻りなんて、しないわ……」

言い終わる前に、カリファーがわたしの首筋に白い牙を立てた――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ